非上場株式の評価見直しの議論において、避けて通れない論点が財産評価基本通達6項の位置づけです。これまで評価通達6項は、評価ルールの形式適用では適正な評価ができない場合の「最終的な補正手段」として機能してきました。しかし、有識者会議における議論を踏まえると、この6項の役割自体が大きく変わる可能性が出てきています。本稿では、評価通達6項の制度的位置づけを整理したうえで、今後の方向性と実務への影響を検討します。
評価通達6項の制度的役割
財産評価基本通達6項は、原則的な評価方法によって算定された価額が適正でない場合に、個別事情を踏まえて評価額を修正することを認める規定です。
この規定の特徴は次の点にあります。
- 明確な適用基準が規定されていない
- 個別具体的事情に基づく判断に委ねられている
- 通達全体の「補正規定」として機能している
すなわち、評価通達6項は「例外的な安全弁」として設計されており、通常の評価方法では捉えきれない実態を補足する役割を担ってきました。
実務における6項の使われ方
実務上、評価通達6項は主に以下のような場面で適用されてきました。
- 評価圧縮を目的とした組織再編が行われた場合
- 株式評価に重大な歪みが生じるスキームが用いられた場合
- 形式的には通達に適合しているが実質的に不合理な場合
ただし、その適用は極めて限定的です。過去10年間において、株式評価に関して6項が適用された事例はごく少数にとどまっています。
この背景には、
- 強い例外規定であるため適用に慎重にならざるを得ない
- 納税者との紛争リスクが高い
- 予見可能性が低い
といった事情があります。
問題の本質―ルールと実態の乖離
今回の有識者会議で問題視されているのは、まさにこの点です。
現行制度では、
- グループ法人税制
- 種類株式の設計
- 収益構造の操作
といった手法を組み合わせることで、「形式的には適法でありながら評価額のみを引き下げる」ことが可能となっています。
このような場合、本来であれば評価通達6項による補正が想定されますが、実際にはほとんど適用されていません。
つまり、
- 本来ルールで防ぐべきものを
- 例外規定で対応しようとしている
という構造的な問題が存在しています。
今後の方向性―6項からルールベースへ
有識者会議の議論から読み取れる最大の方向性は、「6項依存からの脱却」です。
① 個別否認から制度的排除へ
これまでのように、
- 問題があれば6項で否認する
というアプローチから、
- そもそも評価圧縮ができないルールを設計する
という方向へ転換することが想定されます。
② 評価通達の構造的見直し
具体的には、
- グループ内取引の影響を評価に反映させる仕組み
- 種類株式による評価差の制限
- 収益力の操作を排除する評価ロジック
といった形で、評価通達そのものが改訂される可能性があります。
③ 6項の役割の限定化
この結果、評価通達6項は、
- 原則的な評価ルールで対応できない極めて例外的なケースのみ
に限定される方向に進むと考えられます。
つまり、6項は「実務上の主要な対応手段」から、「制度の最後の安全弁」へと回帰することになります。
実務への影響―考え方の転換が必要
この変化は、実務に対して大きな影響を及ぼします。
従来の発想
- 評価通達の枠内でスキームを設計
- 問題があれば6項リスクを検討
今後の発想
- そもそも制度的に許容される構造かを検討
- 経済合理性と整合するかを重視
すなわち、「否認されるかどうか」ではなく、「制度趣旨に適合しているか」という視点が重要になります。
実務チェックポイント
今後の対応として、特に以下の点が重要となります。
- グループ内再編の目的と合理性の整理
- 株式設計が経済実態と整合しているかの検証
- 評価引下げ効果のみを目的とした施策の排除
- 将来の制度改正リスクの織り込み
結論
評価通達6項は、これまで「制度の穴を埋めるための個別対応手段」として機能してきました。しかし、今回の見直しにより、
- 個別否認に依存する構造から
- ルールベースでの事前規律へ
と制度の軸足が移る可能性が高まっています。
この変化は、単なる評価手法の問題ではなく、事業承継や企業グループの設計そのものに影響を及ぼすものです。今後の実務においては、形式的な適法性にとどまらず、制度趣旨と整合した意思決定が求められることになるでしょう。
参考
税のしるべ 2026年5月4日号
「取引相場のない株式の評価の有識者会議が評価額の圧縮スキームを示す、利用を排除する仕組み構築へ」