東京都内企業の後継者不在率が47.9%まで低下したという調査結果が報じられました。依然として約半数の企業が後継者未定という状況にある一方で、数字は8年連続で改善しています。事業承継は長年、日本企業の構造的課題とされてきましたが、状況は確実に変化しつつあります。本稿では、この調査結果の意味と今後の論点を整理します。
後継者不在率は8年連続で改善
帝国データバンクの調査によれば、2025年時点で東京都内企業の後継者不在率は47.9%でした。前年の51.1%から3.2ポイント低下し、2017年の68.2%と比べると20.3ポイントの改善となっています。
対象は都内約5万4千社で、そのうち約2万6千社が「後継者がいない」または「未定」と回答しました。水準としては依然高いものの、長期的には着実な改善傾向が確認できます。
背景には、事業承継・引継ぎ支援センターなど官民の相談体制の整備や、補助金・税制措置の拡充があります。小規模事業者にも支援の門戸が広がり、計画策定に着手する企業が増えていることが、改善につながっていると考えられます。
業種別データが示す構造的な違い
業種別にみると、不在率が最も高いのは建設業の53.6%、最も低いのは製造業の37.8%でした。
製造業では、自動車産業をはじめとするサプライチェーン維持の観点から、事業承継支援が重点的に行われてきました。供給網の維持は地域経済や雇用にも直結するため、金融機関や自治体の関与も比較的強い分野です。その結果、承継の可視化・計画化が進み、不在率の改善につながったとみられます。
一方、建設業は技能者不足や地域密着型経営などの事情があり、承継が難航しやすい構造があります。業種特性に応じた支援策の設計が今後の課題となります。
進む承継形態の多様化
今回の調査で注目されるのは、承継形態の変化です。
2025年に代表者交代があった企業について前代表者との関係性をみると、血縁によらない役員等を登用した内部昇格は46.5%、M&Aなどの第三者承継は24.7%でした。一方、同族承継は15.6%にとどまり、前年より低下しています。
親族内承継が主流であった時代から、内部昇格やM&Aへと重心が移っています。少子化の進行や価値観の多様化に加え、経営の高度化に伴い、経営能力を基準とした承継が選択される場面が増えていることが背景にあります。
これは所有と経営の分離が進みつつあることを示す動きでもあります。企業を個人の家業としてではなく、社会的資産として存続させるという視点が強まっているといえます。
数字の改善だけでは足りない理由
不在率が低下しているとはいえ、約半数の企業で後継者が未定という現実は変わっていません。とりわけ高齢経営者が多い企業では、時間的余裕は限られています。
事業承継は代表者交代のみで完結するものではありません。自社株式の整理、相続対策、金融機関との関係整理、従業員や取引先への説明など、多面的な準備が必要です。着手が遅れれば選択肢は狭まり、企業価値にも影響を与えます。
また、M&Aの活用が増えているとはいえ、買い手が必ず見つかるわけではありません。平時からの業績管理や財務の透明性向上が、第三者承継の前提条件となります。
結論
東京都内企業の後継者不在率は8年連続で改善しました。しかし依然として約半数が未解決の状態にあります。同族承継中心の構図は変化し、内部昇格やM&Aを含む多様な承継形態が主流となりつつあります。
事業承継は単なる世代交代ではなく、企業の存続戦略そのものです。統計の改善に安心するのではなく、各企業が自社の将来像を描き、早期に具体的な準備を進めることが重要です。
参考
日本経済新聞「企業後継者不在率47.9% 都内昨年、8年連続で低下」2026年2月25日朝刊
帝国データバンク「東京都内企業の後継者不在率に関する調査(2025年)」公表資料

