民泊が増えるとなぜ賃貸住宅が減るのか 住むための家が旅行者向け宿泊施設に変わる仕組み編

政策

民泊には、使われていない空き家を有効活用できるというメリットがあります。

誰も住んでいなかった住宅に旅行者が泊まるのであれば、住宅ストックの有効活用と考えられます。

しかし民泊になる住宅が、すべて空き家とは限りません。

これまで地域住民が暮らしていた賃貸住宅が、旅行者向けの民泊へ転用されることもあります。

所有者から見て、通常の家賃収入より民泊による宿泊収入の方が魅力的になれば、住宅の使い方を変えようとする動きが生まれるからです。

民泊が増えることで宿泊場所が増える一方、地域で暮らす人が借りられる住宅が減る。

ここに観光振興と住宅政策の難しい関係があります。

住宅から民泊への転用とは何か

一つのマンションを例に考えてみます。

これまで一室を月10万円で住民に貸していたとします。

入居者はその部屋を生活の拠点として利用します。

ところが所有者が賃貸契約を終了させ、その部屋を旅行者向けの民泊として使い始めました。

建物そのものは変わっていません。

住宅の数も変わっていません。

しかし地域住民が長期間暮らせる住宅は一戸減ったことになります。

代わりに短期滞在者向けの宿泊場所が一つ増えます。

これが住宅から民泊への転用です。

家賃収入と宿泊収入は仕組みが違う

通常の賃貸住宅では、入居者から毎月一定額の家賃を受け取ります。

例えば月10万円なら、単純計算で年間120万円です。

長期間入居してもらえれば、比較的安定した収入を得られます。

一方、民泊は一泊ごとに宿泊料金を設定できます。

仮に一泊2万円で宿泊者を受け入れれば、10泊で20万円になります。

観光需要が非常に強い地域なら、短期間でも大きな売上を得られる可能性があります。

この収益構造の違いが、住宅所有者の判断に影響します。

民泊の方が必ずもうかるわけではない

ただし、宿泊料金だけを比べて民泊の方が有利だと判断することはできません。

民泊にはさまざまな費用がかかります。

宿泊者が入れ替わるたびに清掃が必要です。

寝具やタオルなども用意します。

家具や家電も必要になります。

仲介サービスを利用すれば手数料がかかる場合があります。

家主不在型なら管理費用も発生します。

宿泊者がいなければ売上はゼロです。

民泊新法に基づく営業なら年間180日以内という制限もあります。

したがって、売上が高く見えても利益まで高いとは限りません。

それでも民泊へ転用される理由

それでも観光需要の非常に強い地域では、民泊の収益性が通常の賃貸住宅を上回ると所有者が判断する場合があります。

特に大型イベントや観光シーズンなどで宿泊料金が高くなる地域では、その傾向が強くなる可能性があります。

所有者からすれば、自分の不動産をどのように利用するかは重要な経営判断です。

長期入居者へ貸す。

短期の旅行者へ貸す。

自分で利用する。

売却する。

複数の選択肢から最も有利な方法を選ぼうとします。

その結果、観光需要の強い地域ほど住宅が宿泊用途へ移っていく可能性があります。

空き家活用とは意味が違う

ここで重要なのが、空き家を民泊にする場合との違いです。

誰も住んでいなかった住宅を民泊にするのであれば、定住者向け住宅を直接減らしたとは必ずしもいえません。

眠っていた住宅を新しい用途に使うからです。

しかし賃貸住宅を民泊へ転用すれば事情が違います。

昨日まで住民が暮らせた住宅が、旅行者向けの宿泊場所へ変わります。

民泊の施設数が一つ増えたという数字は同じでも、地域の住宅市場に与える影響は異なります。

民泊政策を考える際には、この違いを分けて考える必要があります。

定住者向け住宅が減ると何が起きるのか

賃貸住宅の供給が減れば、住宅を探す人に影響します。

例えば、ある地域に1000戸の賃貸住宅があり、そのうち100戸が民泊へ転用されたとします。

住宅を借りたい人から見れば、選択できる物件が減ります。

一方、住宅需要が変わらなければ、残った賃貸住宅に入居希望者が集まりやすくなります。

需給が引き締まれば、家賃に上昇圧力がかかる可能性があります。

民泊は観光政策だけではなく、地域の住宅価格や家賃にも関係し得るのです。

観光地ほど影響が大きくなる可能性

この問題は、どの地域でも同じように起きるわけではありません。

観光客が少ない地域では、民泊へ転用しても十分な宿泊需要が得られないかもしれません。

一方、観光客が集中する地域では事情が違います。

ホテル料金が高い。

年間を通じて旅行者が多い。

イベント時には宿泊施設が不足する。

こうした地域では、住宅を旅行者向けに利用する経済的な魅力が高くなる可能性があります。

その結果、住宅と宿泊施設が同じ不動産を取り合う構図が生まれます。

定住人口が減る可能性

賃貸住宅が民泊へ変わる問題は、家賃だけではありません。

地域の定住人口にも影響する可能性があります。

通常の賃貸住宅には住民が暮らします。

住民票を置き、地域の店を日常的に利用し、学校や地域活動に関わる人もいます。

一方、民泊の宿泊者は数日間で入れ替わります。

年間の宿泊者数が多くても、その人たちは地域の定住人口ではありません。

住宅が次々と民泊へ変われば、街にいる人の数は多いのに、実際にそこで暮らしている人は減っていくという状況も考えられます。

地域の商店にとってはメリットもある

もっとも、旅行者が増えることには経済的なメリットがあります。

宿泊者は飲食店を利用します。

コンビニやスーパーで買い物をします。

土産物を購入します。

交通機関も利用します。

そのため民泊が増えることで地域消費が増える可能性があります。

特に人口減少によって商店の利用者が減っている地域では、旅行者が新しい顧客になることもあります。

つまり定住人口が減ることと交流人口が増えることが同時に起こる可能性があります。

どちらを重視するのかが地域政策の難しいところです。

住民と旅行者では地域との関わり方が違う

定住者と旅行者は、同じ地域にいても役割が違います。

住民は年間を通じて地域で生活します。

自治会活動に参加する人もいます。

子どもが地域の学校へ通います。

地域の医療機関や公共サービスも利用します。

旅行者は短期間滞在し、主に宿泊や飲食、観光などを通じて地域と関わります。

どちらも地域経済にとって重要ですが、同じ存在ではありません。

住宅が民泊へ転用されるということは、単に利用者が変わるだけでなく、地域を構成する人の性格が変わることでもあります。

マンションでは影響が見えやすい

マンションでは、この変化が特に分かりやすく現れることがあります。

例えば100戸のマンションのうち数戸だけが民泊なら、影響は限定的かもしれません。

しかし20戸、30戸と民泊が増えればどうでしょうか。

エレベーターでは毎日のようにスーツケースを持った旅行者とすれ違います。

共用部分を利用する人も頻繁に入れ替わります。

住民から見ると、住宅マンションなのか宿泊施設なのか分かりにくくなっていきます。

一戸ごとの民泊は合法でも、施設が集中することで建物全体の住環境が変わる可能性があります。

一施設の規制だけでは足りない場合がある

民泊新法には年間180日という営業日数の上限があります。

しかし地域の住宅問題を考えると、一施設ごとの180日だけでは十分でない場合があります。

例えば同じ住宅街に100軒の民泊が存在し、それぞれが年間180日営業するとします。

一軒ずつ見れば法律の範囲内です。

しかし地域全体では、一年中どこかの民泊に旅行者が滞在している状態になり得ます。

そのため参考記事では、将来的な規制として施設数や客室数、収容定員などを対象とする総量規制の可能性にも触れています。

個々の施設だけでなく、地域全体でどれだけの民泊を受け入れられるのかという視点です。

住宅政策と観光政策を別々に考えられない

民泊政策を観光政策だけとして考えると、宿泊場所が増えることは基本的にプラスに見えます。

旅行者を多く受け入れられます。

ホテル不足を補えます。

観光消費も増えます。

しかし住宅政策から見ると違う景色が見えます。

住民向け住宅が十分あるのか。

家賃が上昇していないか。

定住人口が減っていないか。

住宅街の生活環境が維持されているか。

民泊が増えるほど、観光政策と住宅政策を一体的に考える必要が出てきます。

空き家を優先的に活用する発想

この問題への一つの考え方は、すでに住民が利用している住宅を民泊へ転用するのではなく、空き家を優先的に活用することです。

長期間使われていない住宅を再生して旅行者へ提供するのであれば、定住者向け住宅への影響を小さくできる可能性があります。

同時に空き家問題への対応にもなります。

ただし、どの住宅が本当に空き家だったのかを確認する仕組みが必要になります。

制度を細かくすれば行政や事業者の負担も増えます。

簡単な解決策ではありませんが、民泊と住宅政策を両立させるうえで重要な視点です。

結論

民泊が増えると賃貸住宅が減る可能性があるのは、同じ住宅を定住者と旅行者が取り合う場合があるからです。

通常の賃貸住宅では、住民が長期間暮らし、所有者は家賃収入を得ます。

一方、民泊では旅行者が短期間宿泊し、所有者は宿泊料金を受け取ります。

観光需要が強く、民泊の収益性が高いと判断されれば、賃貸住宅が民泊へ転用される可能性があります。

その結果、宿泊場所は増えても定住者向け住宅が減り、家賃や定住人口に影響することがあります。

ただし、使われていなかった空き家を民泊へ転用する場合は意味が違います。

重要なのは民泊が何軒増えたかだけではありません。

どの住宅が、どのような用途から民泊へ変わったのかを見る必要があります。

観光客を増やすことと、地域で暮らす人の住宅を確保すること。

交流人口を増やすことと、定住人口を維持すること。

民泊をめぐる政策では、この二つを対立させるのではなく、地域にとって適切なバランスを探すことが求められているのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月4日 朝刊 民泊規制の論点 上 観光の新魅力 育む観点を

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