民泊には、家主が暮らしている住宅に旅行者を泊める家主居住型だけでなく、家主がその場にいない住宅を旅行者に提供する形があります。
一般に家主不在型民泊と呼ばれるものです。
例えば、所有している一戸建て住宅やマンションの一室を民泊として利用し、宿泊者だけが滞在するケースです。
空き家を民泊として活用する場合も、家主不在型になることがあります。
家主がいなくても民泊を営業できることで、空き家や使用していない住宅を宿泊施設として活用できます。
一方、家主がその場にいないからこそ、騒音やゴミなどの問題が起きたときに誰が対応するのかが重要になります。
そこで民泊新法では、家主不在型について管理を専門業者に委託する仕組みが設けられています。
家主不在型の意味
家主不在型民泊とは、住宅宿泊事業を行う際に、家主がその住宅に常時いることを前提としないタイプの民泊です。
例えば、自宅とは別に所有している住宅を旅行者へ貸し出すケースがあります。
相続した実家が空き家になり、それを民泊として活用する場合も考えられます。
宿泊者は住宅を利用しますが、家主自身はそこに住んでいません。
ホテルであればフロントや従業員がいます。
家主居住型民泊なら家主がいます。
しかし家主不在型では、住宅の中に管理する人がいない状態が生じます。
この点が制度上の重要な特徴です。
家主居住型との違い
家主居住型では、家主自身が宿泊者と同じ住宅などにいます。
そのため問題が発生すれば比較的すぐ対応できます。
宿泊者が夜間に大声で話していれば、その場で注意できます。
ゴミの出し方を間違えていれば説明できます。
近隣住民から苦情を受けた場合にも対応しやすいでしょう。
家主不在型では、こうした役割を家主自身がその場で果たせません。
だからといって、宿泊者だけを住宅に残して何も管理しなくてもよいわけではありません。
家主に代わって管理する仕組みが必要になります。
なぜ家主不在型が必要なのか
それなら家主不在型を認めず、家主居住型だけにすればよいと思うかもしれません。
しかし、それでは民泊制度の重要な目的の一つを実現しにくくなります。
空き家の活用です。
人口減少や高齢化などを背景に、日本では誰も住まなくなった住宅が増えています。
親から住宅を相続したものの、自分は別の場所で生活しているケースもあります。
転勤などによって一時的に住宅を使わなくなる場合もあります。
こうした住宅を宿泊者へ提供するためには、家主がその住宅に住んでいることを条件にはできません。
家主不在型を認めることで、使われていない住宅を民泊として活用できる可能性が生まれます。
空き家を収益資産に変えられる
空き家は、所有しているだけでも費用がかかります。
固定資産税などの負担があります。
建物の修繕や庭の手入れが必要になる場合もあります。
長期間放置すれば建物が傷み、地域の景観や防犯にも悪影響を与える可能性があります。
そこで空き家を民泊として利用できれば、維持管理をしながら宿泊収入を得られる可能性があります。
地域にとっても、放置された空き家が減ることにはメリットがあります。
旅行者が地域の飲食店や商店を利用すれば、地域経済にもお金が流れます。
家主不在型民泊には、住宅ストックを観光資源へ変える役割が期待されているのです。
一方で投資型民泊も生まれる
家主不在型は、空き家活用だけに使われるわけではありません。
民泊で収益を得ることを目的に住宅を取得することも考えられます。
住宅を購入する。
旅行者向けに家具や家電を設置する。
民泊仲介サイトなどを通じて宿泊者を募集する。
清掃や管理を外部へ委託する。
このようにすれば、所有者が自分で宿泊者に対応しなくても民泊事業を運営できます。
民泊が個人宅の空き部屋を貸す仕組みから、不動産を利用した宿泊ビジネスへ変化する可能性があります。
ここが家主不在型をめぐる重要な論点です。
なぜ管理業者への委託が必要なのか
家主がその場にいなければ、宿泊中の問題に誰かが対応しなければなりません。
そこで民泊新法では、家主不在型など一定の場合について、住宅宿泊管理業者に住宅宿泊管理業務を委託する仕組みが設けられています。
管理業務には、単に鍵を渡したり清掃したりするだけではない役割があります。
宿泊者が安全に利用できる環境を確保する。
宿泊者へ必要な説明をする。
騒音などによって周辺地域へ迷惑をかけないよう対応する。
近隣住民から苦情があれば適切に対応する。
家主が現場にいない以上、その役割を別の人が担わなければならないわけです。
管理業者とは何か
住宅宿泊管理業者は、家主に代わって民泊住宅の管理を行う事業者です。
誰でも自由に住宅宿泊管理業者を名乗れるわけではなく、制度上の登録を受けて業務を行います。
家主不在型民泊では、管理業者が事実上の現場責任者として重要な役割を果たします。
宿泊者への対応だけではありません。
近隣住民との関係でも重要です。
隣の民泊で深夜に騒音が発生したとき、住民が連絡しても誰も対応しないのでは、民泊に対する不信感が強くなります。
管理業者には、こうした問題へ適切に対応することが求められます。
騒音問題が起きやすい理由
家主不在型で特に問題になりやすいのが騒音です。
旅行者と住民では生活の感覚が違うことがあります。
旅行中なので夜遅くまで仲間と話している。
早朝にスーツケースを引いて出発する。
複数人で住宅に滞在し、普段より大きな声になる。
宿泊者本人には悪意がなくても、隣で毎日生活している住民には大きな負担になる場合があります。
家主居住型なら、その場で家主が注意できます。
家主不在型では管理体制が十分でなければ、問題が翌朝まで続いてしまう可能性があります。
ゴミ問題も地域との摩擦を生む
ゴミも民泊で起きやすい問題です。
日本では自治体ごとにゴミの分別や収集方法が細かく決められています。
燃えるゴミ。
資源ゴミ。
缶や瓶。
ペットボトル。
それぞれ収集日が違う場合があります。
短期間だけ滞在する外国人旅行者が、こうした地域独自のルールをすべて理解するのは簡単ではありません。
そこで事業者や管理業者が分かりやすく説明し、適切に処理する必要があります。
管理が不十分なら、民泊施設だけの問題ではなく、地域住民全体の生活環境に影響します。
苦情先が分からないことが住民の不安になる
近隣住民にとって大きな問題になるのが、誰に連絡すればよいのか分からない状態です。
普通の住宅であれば、隣人同士で話ができる場合があります。
ホテルならフロントがあります。
しかし無人の民泊では、住宅へ行っても宿泊者しかいないことがあります。
その宿泊者も数日後には帰国してしまうかもしれません。
問題が起きたときに責任を持って対応する人が見えないこと自体が、住民の不安につながります。
だからこそ家主不在型では、管理責任者と迅速に連絡できる体制が重要になります。
管理業者へ委託すれば問題は解決するのか
管理業者への委託制度があれば、家主不在型でも安心だと思うかもしれません。
しかし重要なのは、制度が存在することではなく実際に機能しているかどうかです。
管理業者が遠方にいる。
夜間の連絡にすぐ対応できない。
多数の民泊を一人で担当している。
宿泊者へのルール説明が不十分である。
こうした状態なら、形式的に管理業者へ委託していても住民の負担は減りません。
参考記事でも、家主不在型について管理が十分でない場合、騒音やゴミ、苦情への対応が問題になることが指摘されています。
問われるのは管理の実効性です。
家主不在型を厳しくすると別の問題が起きる
住民トラブルを減らすため、家主不在型の規制を厳しくするという考え方があります。
一定の合理性があります。
しかし家主不在型を大幅に規制すると、空き家を民泊として利用することも難しくなります。
空き家には家主が住んでいないからです。
民泊制度には、
住宅地の生活環境を守りたい
空き家を有効活用したい
という二つの目的があります。
家主不在型は、この二つが最もぶつかりやすい分野です。
賃貸住宅が民泊に変わる問題もある
さらに別の問題があります。
家主不在型民泊の収益性が高くなれば、これまで地域住民へ貸していた住宅が旅行者向けに転用される可能性があります。
例えば通常の賃貸住宅なら、一人の住民や一家族が長期間暮らします。
民泊なら短期間の旅行者が次々と入れ替わります。
所有者が民泊の方が収益性が高いと判断すれば、定住者向けの住宅を民泊へ転換するかもしれません。
その結果、観光客向けの宿泊場所は増えても、地域で暮らす人の住宅が減る可能性があります。
空き家活用とは逆の問題です。
もともと使われていなかった住宅を活用するのか。
それとも住民が利用できた住宅を観光客向けに転換するのか。
同じ家主不在型民泊でも、地域への影響は大きく異なります。
結論
家主不在型民泊とは、家主がその住宅にいない状態でも旅行者を宿泊させられるタイプの民泊です。
家主が居住していない空き家などを活用できるため、既存住宅を観光資源として利用するうえで重要な仕組みです。
一方、家主がその場にいないため、騒音やゴミなどの問題が発生したときに誰が対応するのかという課題があります。
そこで民泊新法では、家主不在型など一定の場合について住宅宿泊管理業者へ管理を委託する仕組みを設けています。
しかし重要なのは、形式的に管理業者が存在することではありません。
宿泊者に地域のルールを説明し、近隣から苦情があれば迅速に対応できる実効的な管理体制があるかどうかです。
家主不在型を厳しく規制すれば住民トラブルを抑えられる可能性がありますが、同時に空き家活用という民泊制度の目的を損なう可能性もあります。
さらに賃貸住宅が民泊へ転用されれば、定住者向け住宅が減るという別の問題も生まれます。
家主不在型民泊をめぐる本当の論点は、家主がいるかいないかだけではありません。
使われていない住宅を有効活用しながら、地域住民が安心して暮らせる管理体制をどうつくるのか。
その両立こそが、これからの民泊政策に求められているのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月4日 朝刊 民泊規制の論点 上 観光の新魅力 育む観点を