義務的経費とは何か こども家庭庁の予算が増えても自由に使えるお金が増えるとは限らない理由編

政策

こども家庭庁の2027年度予算要求額は7兆7436億円です。

2026年度の7兆4956億円から2480億円増え、単年度では過去最高の規模となります。

予算が増えたと聞くと、

新しい子育て政策に使えるお金が2480億円増えた

と考えたくなります。

しかし、必ずしもそうではありません。

政府の予算には、制度に基づいて支出する必要性が高く、簡単には減らせない経費があります。

こうした支出を理解するうえで重要なのが義務的経費という考え方です。

児童手当の対象となる子どもがいれば給付が必要になります。

保育サービスを利用する子どもがいれば運営費が必要です。

育児休業給付の要件を満たす人がいれば給付が発生します。

予算が増えても、その増加分の多くが既存制度を維持するために必要なら、新しい政策へ自由に使えるお金が同じだけ増えるわけではないのです。

義務的経費とは何か

義務的経費とは、法律や既存の制度などに基づき支出する必要性が高く、政策判断だけでは簡単に削減しにくい経費です。

典型的なのが社会保障関係の支出です。

制度上の要件を満たす人がいれば、給付する必要があります。

政府が、

今年は財政が厳しいので半分しか支給しません

と予算編成だけで自由に変更できるわけではありません。

給付額や対象者を変更するなら、法律や制度そのものを見直す必要が生じる場合があります。

このため毎年度の予算編成で自由に増減させにくい性格があります。

裁量的経費とは何が違うのか

義務的経費と対比して考えられるのが、政策判断によって比較的見直しやすい経費です。

新しいモデル事業を始める。

調査研究を行う。

新しい広報事業を実施する。

特定の政策プロジェクトを立ち上げる。

こうした支出は、その年度の政策上の優先順位に応じて規模を調整しやすい場合があります。

一方、児童手当のような既存の給付制度では、対象者が存在する以上、必要な支出が発生します。

この違いが予算の自由度を大きく左右します。

児童手当は制度に基づいて支出される

参考記事によると、こども家庭庁の2027年度予算要求では児童手当に約2兆円が計上されています。

児童手当は代表的な子育て支援制度です。

対象となる子どもを養育している家庭には、制度に基づいて手当が支給されます。

対象となる子どもが何人いるのか。

年齢はどうなっているのか。

制度上の支給額はいくらなのか。

こうした条件によって必要な予算額が決まってきます。

政府が自由に支給人数を減らして予算を節約できる性格のものではありません。

保育所の運営費も簡単にはなくせない

参考記事では、保育所や放課後児童クラブなどの運営費に2兆7000億円が計上されています。

保育サービスを利用している家庭がある以上、施設を運営する必要があります。

保育士の人件費。

給食。

光熱費。

施設の維持。

さまざまな費用が発生します。

保育所を利用する子どもがいるのに、

予算を減らしたので今月から保育サービスを大幅に縮小します

というわけにはいきません。

継続的な行政サービスには継続的な財源が必要です。

育児休業給付も対象者がいれば支出が発生する

育児休業給付にも約1兆1000億円が計上されています。

育児休業を取得し、制度上の要件を満たす人には給付が行われます。

何人が育児休業を取得するのかによって必要な支出額は変化します。

育児休業を取得する人が増えれば、給付に必要なお金も増える可能性があります。

これは政策として望ましい変化によって予算が増える例でもあります。

予算増加がそのまま財政の無駄を意味するわけではありません。

制度の利用が広がった結果として支出が増えることもあるのです。

三つの主要経費だけで5兆8000億円になる

参考記事に示された主要な支出を合計してみます。

保育所や放課後児童クラブなどの運営費が2兆7000億円。

児童手当が2兆円。

育児休業給付が1兆1000億円。

合計5兆8000億円です。

2027年度の予算要求額7兆7436億円の大きな部分を占めています。

つまり、こども家庭庁の予算は最初から自由に使える巨大な財布ではありません。

既存制度を動かすために必要となる支出が大きな割合を占めています。

予算が増える理由は新規政策だけではない

政府予算が増えると、

政府が新しい事業を増やした

と考えがちです。

しかし、予算増加にはさまざまな理由があります。

給付対象者が増える。

給付額を引き上げる。

人件費が上がる。

物価が上昇する。

サービス利用者が増える。

既存制度を改善する。

こうした理由でも必要な予算は増えます。

新しい政策を一つも始めなくても、既存制度の維持費が増えれば予算総額は増える可能性があります。

保育士の給与改善も予算増加につながる

今回、こども家庭庁は保育士給与の地域差を縮小するため、公定価格の地域加算を見直す方向です。

給与水準の低い地域の公定価格を引き上げれば、人件費の原資となる公費も増える可能性があります。

これは単なる行政コストの増加ではありません。

保育士を確保する。

人材流出を防ぐ。

保育サービスを維持する。

待機児童の増加を防ぐ。

こうした政策目的のために必要となる支出です。

予算の増減だけではなく、何のために増えているのかを見る必要があります。

物価上昇でも必要な予算は増える

物価上昇も予算を押し上げます。

同じ保育サービスを提供するとしても、

食材費が上がる。

電気代が上がる。

施設の維持費が上がる。

人件費が上がる。

といったことが起これば、必要な運営費も増えます。

予算額が増えていても、提供している行政サービスの量が同じということもあり得ます。

名目上の予算増加と実質的な政策拡充は区別して考える必要があります。

義務的経費が多いと予算の自由度が下がる

仮に100万円の家計収入があったとしても、

住宅ローン30万円

食費20万円

教育費20万円

光熱費10万円

など、毎月ほぼ必ず必要となる支出が90万円あれば、自由に使えるお金は10万円しかありません。

政府予算も考え方は似ています。

予算総額が大きくても、制度上必要となる支出が大部分を占めれば、新しい政策に自由に使える財源は限られます。

予算規模と財政の自由度は同じではないのです。

新しい政策には追加財源が必要になる

既存制度に必要な支出が大きい中でも、新しい政策課題は発生します。

子どもや若者の自殺対策。

新しい企業支援。

保育士不足への対応。

デジタル化。

新たな少子化対策。

こうした政策を始めるためには追加の財源が必要です。

しかし、義務的な支出を簡単に削れないのであれば、どこから財源を確保するのかという問題が生じます。

だから既存事業の見直しが必要になる

そこで重要になるのが、既存事業の見直しです。

すべての支出が義務的経費というわけではありません。

長年続いている事業でも、

現在も必要なのか

利用されているのか

政策効果があるのか

別の制度と重複していないか

を検証できます。

参考記事によると、こども家庭庁は日本版DOGEによる検証を受け、約130億円分の事業を見直します。

予算総額を機械的に削るのではなく、個々の政策の必要性を確認する考え方です。

税制優遇も財源見直しの対象になる

歳出だけではありません。

税制優遇も見直すことができます。

結婚子育て資金の一括贈与非課税制度は、父母や祖父母などから結婚や子育てのために贈与された資金について一定額まで贈与税を非課税にする仕組みです。

しかし、参考記事によると2025年度の利用は219件でした。

利用が限定的で政策効果も十分でないと判断されれば、税制優遇を廃止し、別の政策へ資源を振り向けるという考え方が出てきます。

義務的経費を簡単に削れないからこそ、それ以外の政策を厳しく検証する必要性も高まります。

義務的経費そのものも永久に変えられないわけではない

義務的経費だからといって、永久に変更できないわけではありません。

制度そのものを改革すれば支出構造を変えることはできます。

児童手当の対象範囲をどうするのか。

給付額をどうするのか。

保育制度をどう設計するのか。

こうした制度変更によって将来の支出額は変わります。

ただし、毎年度の予算編成だけで簡単に削ることとは意味が違います。

国民の権利や生活に直接関係する制度であれば、制度変更そのものについて十分な議論が必要になります。

予算総額より中身を見る

こども家庭庁の予算が7兆円を超えた。

過去最高になった。

こうした数字は分かりやすいため注目されます。

しかし、予算を理解するには、その中身を見る必要があります。

既存制度を維持するためのお金なのか。

給付拡充によって増えたのか。

人件費や物価上昇によって増えたのか。

新しい政策に使うお金なのか。

同じ1000億円の増額でも意味は大きく違います。

予算を増やすこと自体が政策目的ではない

子育て政策の目的は、こども家庭庁の予算を8兆円、9兆円、10兆円へ増やすことではありません。

子育て世帯の負担を軽くする。

安心して子どもを産み育てられる環境をつくる。

保育サービスを安定させる。

仕事と子育てを両立しやすくする。

子どもの生活や安全を守る。

こうした社会的な成果を生み出すことが目的です。

そのためには予算額だけでなく、使われ方と政策効果を確認する必要があります。

結論

義務的経費とは、法律や既存制度などに基づいて支出する必要性が高く、毎年度の政策判断だけでは簡単に削減しにくい経費です。

こども家庭庁の2027年度予算要求額は7兆7436億円と過去最高の規模ですが、そのすべてを新しい政策へ自由に使えるわけではありません。

参考記事によると、保育所や放課後児童クラブなどの運営費に2兆7000億円、児童手当に2兆円、育児休業給付に1兆1000億円が計上されています。

主要3分野だけで5兆8000億円になります。

対象者が存在し、制度が続く限り必要になる支出が大きな割合を占めているのです。

したがって予算が2480億円増えたからといって、新しい政策へ自由に使える財源が2480億円増えたとは限りません。

既存制度の維持。

給付対象の変化。

人件費の上昇。

物価上昇。

制度の拡充。

こうした要因でも予算は増えます。

だからこそ、効果の低い既存事業や利用の少ない税制優遇を見直し、必要性の高い政策へ財源を振り向けることが重要になります。

政府予算を見るときに重要なのは総額だけではありません。

そのうち、すでに制度によって使い道が決まっているお金はいくらなのか。

新しい政策へ振り向けられるお金はいくらなのか。

そして、その支出によってどのような成果が生まれているのか。

義務的経費を理解すると、予算が過去最高になっても政府が自由に使えるお金まで過去最高になったとは限らない理由が見えてくるのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月1日朝刊 贈与税優遇、廃止を要求 日本版DOGEで見直し

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