中小企業には、法人税の負担を軽くする特例があります。
一定の中小法人では、年間所得800万円以下の部分について法人税率が15%に軽減される仕組みです。
本来、この部分には19%の税率が適用されます。
つまり同じ利益を出していても、一定の中小企業は通常より低い法人税率で税金を計算できます。
この制度はリーマン・ショック後の経済対策として始まった時限的な措置ですが、その後延長が繰り返されてきました。
日本維新の会は租税特別措置の見直しで、この15%特例についても即時廃止を求めています。
法人税は会社の所得にかかる
法人税は、基本的に会社の所得に対して課税される税金です。
会計上の売上高そのものに税率を掛けるわけではありません。
会社が事業によって得た収益から必要な費用などを差し引き、税務上の調整を行って所得金額を計算します。
その所得金額に法人税率を適用して法人税額を求めます。
例えば売上高が1億円あっても、仕入れや人件費、家賃などの費用が9000万円かかっていれば、利益は大きくありません。
法人税を考えるときには、会社の規模を売上だけで見るのではなく、課税対象となる所得を見ることが重要です。
中小法人には軽い税率が設定されている
一定の中小法人については、所得800万円以下の部分に19%の法人税率が適用されるのが基本です。
所得800万円を超える部分については、原則として23.2%の税率になります。
例えば所得が1000万円なら、
800万円以下の部分
800万円を超える200万円の部分
を分けて法人税を計算することになります。
中小企業の利益全体に一律で低い税率が適用されるわけではありません。
800万円という所得金額が一つの境目になっています。
15%はさらに税率を引き下げる特例
さらに一定の中小法人については租税特別措置によって、所得800万円以下の部分に適用される19%の税率が15%へ軽減されています。
つまり、
本来19%
特例15%
となります。
税率差は4ポイントです。
中小企業の法人税負担を軽減し、企業の資金を設備投資や雇用などに回しやすくすることが制度の狙いです。
ただし大企業の子会社など一定の法人は対象から外れるなど、適用には条件があります。
すべての会社が資本金だけを小さくすれば15%を利用できるという単純な制度ではありません。
所得800万円ならどれだけ違うのか
分かりやすくするため、単純化して計算してみます。
会社の所得が800万円だったとします。
19%なら、
800万円に19%を掛けて152万円
です。
15%なら、
800万円に15%を掛けて120万円
です。
差額は32万円になります。
つまり所得800万円の場合、単純計算では15%特例によって法人税が32万円軽くなります。
毎年この水準の所得を出している企業なら、制度が継続することで税負担軽減が積み重なります。
所得800万円を超えたら全部高い税率になるわけではない
ここは誤解しやすいところです。
所得が800万円を1円でも超えたからといって、所得全体に高い税率が適用されるわけではありません。
例えば所得が1000万円だった場合、一定の中小法人なら基本的に、
800万円までの部分
800万円を超える200万円の部分
に分けて計算します。
15%の軽減税率が適用される場合には、800万円までの部分について15%で計算します。
800万円を超えた部分には別の税率が適用されます。
所得800万円という金額は、低い税率を適用する範囲を区切る基準なのです。
なぜ中小企業だけ税率を低くするのか
中小企業は大企業と比べて資金調達力が弱い傾向があります。
大企業なら銀行借入だけでなく、株式や社債によって市場から巨額の資金を調達できる場合があります。
一方、多くの中小企業では銀行融資や経営者自身の資金などに資金調達手段が限られます。
税引き後の利益を会社に残すことは、将来の設備投資や資金繰りにとって重要です。
そこで中小企業の法人税負担を軽くし、
内部留保を確保する
設備投資を行う
雇用を維持する
事業を継続する
といった経営を支える考え方があります。
中小企業政策の一環として法人税率に差を設けているわけです。
15%特例はリーマン・ショック後に始まった
現在議論になっているポイントは、この15%という税率が恒久的な基本税率ではなく、租税特別措置による軽減税率であることです。
制度の背景には2008年のリーマン・ショックがあります。
世界的な金融危機によって景気が悪化し、中小企業の経営環境も厳しくなりました。
そこで中小企業を支援する経済対策として、所得800万円以下の部分に適用する法人税率を引き下げました。
危機への対応として導入された政策だったわけです。
ところがリーマン・ショックから長い年月が経過した後も制度は続いています。
時限措置なのに延長が繰り返されてきた
租税特別措置では、一定期間だけ適用する制度が数多くあります。
期限を設けることで、
政策効果があったのか
現在も制度が必要なのか
税収減に見合う効果があるのか
を定期的に検証することができます。
必要性がなくなれば廃止し、まだ必要なら延長するという考え方です。
しかし企業側から見ると、制度の廃止は税負担の増加になります。
そのため期限が近づくたびに制度存続を求める声が出やすくなります。
中小企業向け15%特例も延長が繰り返されてきた制度の一つです。
廃止されると中小企業には増税になる
仮に15%特例が廃止され、本来の19%に戻れば、対象となる中小企業には実質的な増税になります。
所得800万円なら、単純計算で年間32万円の負担増です。
所得400万円なら、
400万円に4%を掛けて16万円
の負担増になります。
一社当たりで見ると数十万円程度でも、多数の中小企業を合計すれば大きな金額になります。
制度廃止によって政府の税収が増える一方、企業に残る税引き後利益は減少します。
租特廃止には必ずこの両面があります。
赤字企業には15%特例の恩恵がない
もう一つ重要なのが赤字企業です。
15%という軽減税率は、法人税の課税所得がある企業にメリットがあります。
赤字で課税所得がなければ、そもそも所得に対する法人税が発生しないため、19%が15%になってもその年度の税負担は変わりません。
つまり中小企業向けの制度であっても、すべての中小企業が同じように恩恵を受けるわけではありません。
利益を出している中小企業ほど直接的なメリットがあります。
この点は賃上げ促進税制など他の法人税優遇にも共通する問題です。
維新はなぜ即時廃止を求めるのか
日本維新の会は租税特別措置の大幅な整理を提案し、この中小企業向け法人税15%特例についても即時廃止を求めています。
背景にあるのが、時限的な政策として始まった税優遇をいつまで続けるのかという問題です。
リーマン・ショックへの対応として導入した措置を長期間続ければ、危機対策だった制度が事実上恒久的な優遇制度になっていきます。
一方で中小企業側から見れば、すでに15%の税率を前提として経営しているため、廃止すれば突然の税負担増になります。
政府の財源確保と中小企業支援のどちらを重視するのかが争点になります。
19%に戻せば必ず税収が想定額だけ増えるとは限らない
税率を15%から19%へ戻せば、単純計算では税収が増えます。
しかし企業の行動まで考えると、実際の税収増は単純ではありません。
税負担が増えれば、
設備投資を減らす
採用を抑える
役員報酬などを見直す
事業形態を変更する
といった行動が起こる可能性があります。
企業所得そのものが変化すれば、最終的な税収も変わります。
租特を廃止するときには、現在の減税額だけでなく、廃止後に企業がどう行動するかまで考える必要があります。
結論
中小企業の法人税15%特例とは、一定の中小法人について年間所得800万円以下の部分に適用される法人税率を、本来の19%から15%へ軽減する租税特別措置です。
所得800万円の場合、単純計算では年間32万円の法人税負担を軽減する効果があります。
制度はリーマン・ショック後の中小企業支援として導入され、その後延長が繰り返されてきました。
一方、日本維新の会は長期間続いている税優遇の一つとして即時廃止を求めています。
廃止すれば政府の税収は増えますが、対象となる中小企業にとっては法人税率が15%から19%へ戻るため実質的な増税になります。
危機対応として始まった時限措置をいつまで続けるのか。
中小企業支援の必要性と租税特別措置の出口をどう両立させるのかが、今後の重要な論点になります。
参考
日本経済新聞 2026年8月23日 朝刊 維新が税優遇廃止案 賃上げ税制やサ高住 政府・自民と調整難しく
財務省 2025年12月26日 令和8年度税制改正の大綱
国税庁 2026年 法人税の税率