財形貯蓄は、NISAのように個人が自分の判断だけで始められる制度ではありません。
勤務先が財形制度を導入していることが前提になります。
従業員が申し込み、会社が給与から積立額を天引きし、金融機関などへ払い込みます。
つまり財形は、個人の資産形成制度であると同時に、会社が従業員の資産形成を支える福利厚生制度でもあります。
しかし、財形制度を導入する事業所は長期的に減少しています。
2024年の導入事業所割合は28.9%となり、20年間で約26ポイント低下しました。
一方、常時雇用者1000人以上の企業では7割が導入しており、大企業を中心に現在も福利厚生の一つとして利用されています。
今回は、なぜ財形には会社の制度導入が必要なのか、給与天引きで会社はどのような役割を担うのか、企業側にはどのようなメリットがあるのか、導入事業所が減少してきた理由を整理します。
財形は勤務先を通じて利用する制度
財形貯蓄制度は、会社員や公務員などの勤労者が勤務先を通じて利用する制度です。
従業員が金融機関へ直接毎月振り込む通常の積立預金とは仕組みが異なります。
例えば従業員が毎月3万円を財形へ積み立てるとします。
会社は給与を支払う際に3万円を差し引き、その資金を契約先の金融機関などへ払い込みます。
従業員は給与を受け取ってから自分で3万円を移す必要がありません。
この給与天引きが財形制度の大きな特徴です。
そのため、そもそも勤務先が財形制度を取り扱っていなければ従業員は利用できません。
個人だけでは始められない
NISAとの違いを考えると分かりやすくなります。
NISAを始めたい人は、自分で金融機関を選び、NISA口座を開設します。
勤務先がNISA制度を導入している必要はありません。
iDeCoについても、加入資格などの条件はありますが、財形のように勤務先が財形制度そのものを導入していることを前提とする仕組みではありません。
財形は会社の給与支払いと一体になっています。
従業員と金融機関だけで完結するのではなく、
従業員
勤務先
金融機関
が関係する制度です。
この会社を介する仕組みが財形の強みである一方、普及の制約にもなっています。
会社は給与から積立額を差し引く
財形制度における会社の重要な役割が給与控除です。
従業員が申し込んだ金額を毎月の給与から差し引き、金融機関などへ払い込みます。
例えば給与が30万円で財形積立額が2万円なら、本人が自由に使える給与から先に2万円を切り離します。
従業員は残った金額を前提として生活することになります。
これによって先取り貯蓄が自動化されます。
自分の銀行口座へ30万円が入った後に2万円を貯蓄する場合、途中で使ってしまう可能性があります。
給与から先に差し引けば、その可能性を小さくできます。
会社は従業員に代わって投資判断をするわけではありません。
貯蓄を継続しやすい仕組みを給与制度の中につくる役割を担っています。
福利厚生とは給与以外の支援
企業が従業員へ提供するものは給与だけではありません。
さまざまな福利厚生があります。
住宅関係の支援や健康診断、育児や介護に関する支援など、その内容は企業によって異なります。
財形もこうした福利厚生の一つとして位置付けることができます。
従業員が自分で資産形成をする場合、金融機関を探し、積立方法を決め、毎月継続しなければなりません。
財形制度が勤務先にあれば、給与天引きという仕組みを利用できます。
企業が従業員へ直接お金を渡す福利厚生ではありませんが、従業員が将来のために資産を形成しやすい環境を提供することになります。
従業員の生活安定を支援できる
従業員の資産形成は、本来は個人の問題です。
しかし従業員の家計が安定することは企業にも無関係ではありません。
住宅購入資金が準備できない。
老後資金に不安がある。
貯蓄がほとんどない。
こうした金銭面の不安は、従業員の生活だけでなく仕事にも影響する可能性があります。
財形制度によって給与から少額でも継続的に積み立てれば、中長期的な家計の安定につながります。
企業から見れば、従業員の生活基盤を間接的に支える福利厚生という意味を持ちます。
住宅取得を支援する福利厚生にもなる
財形には住宅取得との関係もあります。
財形住宅では、住宅取得や一定のリフォームなどに向けて給与天引きで資金を準備できます。
さらに一定の要件を満たす財形利用者には、財形持家融資という住宅融資制度もあります。
現行制度では、一定の条件を満たせば財形残高の10倍、最高4000万円までという融資限度額が設けられています。
つまり企業が財形制度を導入することで、従業員は単に給与天引きでお金を貯めるだけでなく、住宅取得に関係する制度を利用できる可能性も生まれます。
住宅は従業員の生活基盤です。
財形は企業による住宅支援という側面も持っています。
人材確保にも福利厚生は重要になる
人手不足が進むと、企業は給与だけでなく働く環境全体で人材を確保する必要があります。
求職者が会社を比較するとき、基本給や賞与だけを見るとは限りません。
休暇制度、育児支援、住宅支援、退職金、資産形成支援なども判断材料になります。
財形制度だけを理由に就職先を決める人は多くないかもしれません。
それでも、従業員の長期的な生活や資産形成まで支援する企業であることを示す制度の一つにはなります。
特に大企業では財形制度の導入率が高く、常時雇用者1000人以上の企業では7割が導入しています。
企業規模による福利厚生格差という視点からも財形制度を見ることができます。
なぜ導入事業所が減ったのか
一方、財形を導入する事業所の割合は大幅に低下しました。
2024年には28.9%となり、20年間で約26ポイント縮小しています。
理由の一つとして考えられるのが、財形そのものの利用者減少です。
一般財形、財形年金、財形住宅を合わせた契約件数は、ピークだった1989年度の1955万件から2025年度には約526万件まで減りました。
従業員の利用希望が少なくなれば、企業にとって制度を維持する必要性も低下します。
制度を利用する人が減り、導入企業が減り、利用できる人がさらに減るという循環が生じる可能性があります。
低金利で福利厚生としての魅力も低下した
財形利用者が減った大きな背景が長期間の低金利です。
財形年金と財形住宅には利子などについて一定の非課税措置があります。
しかし利子そのものがほとんど付かなければ、非課税メリットも小さくなります。
従業員から見れば、勤務先を通じて財形を利用するより、自分でNISAやiDeCoを利用した方が魅力的に感じる場合もあります。
企業側から見ても、従業員の利用ニーズが小さければ、事務負担をかけて制度を維持する意味が薄れます。
超低金利は個人にとっての財形の魅力だけでなく、企業が福利厚生として提供する意味にも影響したと考えられます。
NISAやiDeCoで会社を介さなくてもよくなった
現在では個人が自分で利用できる資産形成制度が充実しています。
NISAでは株式や投資信託などから得られる利益について一定の非課税措置があります。
iDeCoでは掛金の全額所得控除などの税制優遇があります。
どちらも財形とは制度が異なりますが、会社員の資産形成を支援するという点では選択肢になります。
さらにインターネットやスマートフォンによって金融サービスへのアクセスも容易になりました。
以前は勤務先を通じて利用することに大きな利便性がありました。
現在では個人が金融機関と直接つながることが簡単です。
資産形成における会社の役割そのものが変化してきたと考えることができます。
それでも給与天引きには独自の価値がある
NISAやiDeCoが普及しても、財形の給与天引きには独自の特徴があります。
個人で積立投資を始めても、途中で積み立てを停止することがあります。
相場が下落すれば不安になって投資をやめる人もいます。
口座にお金があれば使ってしまうこともあります。
財形では給与を受け取る前に積立額が差し引かれます。
本人が毎月判断しなくても資産形成を続けやすい仕組みです。
企業が提供できる価値は、必ずしも高い運用利回りではありません。
従業員が資産形成を続けやすい環境をつくることにも意味があります。
金利上昇で企業側の評価も変わる可能性がある
日本が「金利ある世界」に移れば、財形制度の評価が変わる可能性があります。
預貯金などの金利が上昇すれば、財形年金や財形住宅の利子非課税メリットも大きくなります。
さらに厚生労働省は、1994年から据え置かれている550万円の非課税限度額について引き上げを検討しています。
55歳未満という加入年齢についても見直しが検討されています。
制度の魅力が高まれば、従業員側の利用ニーズが増える可能性があります。
そうなれば企業にとっても、財形を福利厚生として導入、維持する意味が再び大きくなる可能性があります。
結論
財形貯蓄は個人だけでは完結しない資産形成制度です。
勤務先が制度を導入し、従業員の給与から積立額を天引きして金融機関などへ払い込むことで成り立っています。
そのため財形は、個人の貯蓄制度であると同時に企業の福利厚生制度でもあります。
企業が財形を導入することで、従業員は給与を受け取る前に資産形成を行う先取り貯蓄を利用できます。
財形住宅や財形持家融資などを通じて、住宅取得を支援する役割もあります。
一方、財形を導入する事業所は減少しています。
2024年の導入割合は28.9%となり、20年間で約26ポイント低下しました。
背景には長期間の低金利による財形の魅力低下、NISAやiDeCoの普及、個人が直接金融サービスを利用しやすくなったことなどがあります。
それでも常時雇用者1000人以上の企業では7割が財形を導入しています。
給与天引きによって従業員が資産形成を続けやすくするという機能は、現在でも財形独自の特徴です。
今後、金利上昇に加えて非課税限度額や加入年齢が見直されれば、財形の魅力が高まる可能性があります。
そのとき問われるのは個人が財形を使うかどうかだけではありません。
企業が従業員の資産形成をどこまで福利厚生として支援するのかという、会社側の役割も改めて注目されることになります。
参考
日本経済新聞 2026年8月22日 朝刊 厚労省、財形の非課税限度額上げ インフレ対応で検討
日本経済新聞 2026年8月22日 朝刊 財形貯蓄制度とは