海外投資が身近になった現在、海外に資産を持つ人は年々増えています。
米国株や海外ETFを購入する人だけでなく、海外銀行口座や海外不動産を保有する個人も珍しくありません。
こうした時代に重要性が高まっているのが「国外財産調書制度」です。
「海外資産を持っているだけで提出しなければならないのですか。」
「申告していなければすぐに税務調査になるのでしょうか。」
実務でもこのような質問を受けることがあります。
今回は、国外財産調書制度の目的と提出しない場合のリスクについて解説します。
国外財産調書制度とは何か
国外財産調書とは、日本に居住する人が一定額を超える海外資産を保有している場合に、その内容を税務署へ報告する制度です。
対象となるのは、
海外預金
外国株式
海外不動産
海外投資信託
海外の保険契約
など、国外にあるさまざまな財産です。
この制度は財産そのものに課税するためではなく、海外資産の状況を適切に把握することを目的としています。
なぜこの制度ができたのか
近年では、海外資産を利用した資産運用が急速に広がりました。
その一方で、
海外預金の利息
外国株式の配当
海外資産の譲渡益
などが申告されていないケースも見受けられるようになりました。
こうした背景から、海外財産を把握する制度として国外財産調書制度が創設されました。
税務署は、この制度と海外から提供される情報を組み合わせながら、適正な課税を行っています。
財産があることと課税は別問題
国外財産調書について誤解されやすいのは、
「提出すると税金が増える」
という考え方です。
しかし、国外財産調書は所得税や相続税を新たに課税する制度ではありません。
あくまで、
どのような海外資産を保有しているか
を報告する制度です。
課税されるかどうかは、その資産から所得が生じたかどうかによって判断されます。
財産を持っていることと、所得が発生することは区別して考える必要があります。
提出しないとどうなるのか
提出義務があるにもかかわらず提出しなかった場合や、記載内容に重大な誤りがあった場合には、不利益な取扱いを受けることがあります。
また、海外所得の申告漏れが後から判明した場合には、国外財産調書の提出状況も確認されます。
つまり、国外財産調書そのものだけで判断されるのではなく、所得税の申告内容との整合性が重要になるのです。
制度を正しく理解し、必要な場合には適切に提出することが大切です。
国外送金等調書やCRSとも連携している
現在の国際税務は、一つの制度だけで管理されているわけではありません。
例えば、
国外送金等調書制度
租税条約に基づく情報交換
CRS(共通報告基準)
など、複数の制度が連携しています。
そのため、「海外だから分からない」という時代ではありません。
各制度から得られる情報を組み合わせることで、海外資産や海外所得の把握が進められています。
国際税務は年々、透明性が高まっています。
日頃から資産管理をしておくことが重要
海外資産を保有している場合には、
取得時期
取得価額
現在の残高
収益の内容
などを日頃から整理しておくことが重要です。
海外では、日本の申告に必要な形式で資料が発行されないこともあります。
そのため、自分自身で資産管理を行うことが、正確な申告への第一歩になります。
税務調査への備えという意味でも、記録を残す習慣は大きな意味があります。
税理士の役割は資産管理の伴走者へ
これまで税理士は、申告書を作成する専門家というイメージが強かったかもしれません。
しかし、海外資産を持つ人が増える現在では、
国外財産調書
国外送金等調書
外国税額控除
CRS
などを含めた総合的なアドバイスが求められています。
税理士は、税金を計算する人ではなく、国際資産管理を支える伴走者としての役割がますます重要になっていくでしょう。
結論
国外財産調書制度は、海外資産に新たな税金を課す制度ではなく、国外財産の保有状況を適切に把握するための制度です。
海外投資が一般化した現在では、国外送金等調書やCRSなど複数の制度と連携しながら、国際的な情報共有が進んでいます。
海外資産を保有する人は、必要な制度を正しく理解し、日頃から取引記録や資産内容を整理しておくことが大切です。それが適正な申告だけでなく、安心した国際資産運用にもつながっていくでしょう。
参考
近畿税理士会「税法実務講座(所得税) 個人の国際税務~理論と実践~⑥ 円換算・為替差損益・外国人の住民税・個人の国際課税の調査」(講師:税理士 阿部行輝先生)