非上場株式評価はどう変わるのか―評価通達改正の本質と実務への影響

税理士
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非上場株式の評価方法の見直しが現実味を帯びてきています。会計検査院による指摘を契機として、国税庁は評価通達の抜本的な改正に向けて動き出す可能性が高まっています。

昭和39年の評価通達発遣以来、初めての本格的な見直しとなる可能性があり、相続・事業承継・資産管理に広く影響を及ぼすテーマです。本稿では、今回のインタビュー内容を踏まえ、改正の方向性と実務への影響を整理します。


評価通達見直しの背景

今回の見直しの直接的な契機は、会計検査院による問題提起です。非上場株式の評価において、現行の評価方法が実態と乖離している可能性があるとの指摘がなされました。

現行の評価通達は、以下のような特徴を持っています。

・類似業種比準方式と純資産価額方式の併用
・一定の基準に基づく機械的評価
・全国的に統一された評価の確保

この仕組みにより、納税者間の公平性と予測可能性は一定程度確保されてきました。一方で、実態との乖離や節税スキームへの利用といった課題も指摘されてきました。


抜本改正となる可能性

今回の見直しが注目される最大の理由は、「小手先の修正では済まない」という点にあります。

インタビューでも示唆されている通り、

・類似業種比準方式の枠組み自体の見直し
・評価要素(配当・利益・純資産)の再構成
・場合によっては全く新しい評価体系の導入

といった、制度の根幹に関わる変更が想定されています。

特に重要なのは、「3要素の見直し」ではなく「方式そのものの転換」が議論されている点です。これは単なる調整ではなく、評価思想の変更に近いものです。


純資産ベースへのシフトの可能性

改正の方向性として有力視されるのが、純資産価額を軸とした評価へのシフトです。

現行制度では、

・収益力を反映する比準方式
・資産価値を反映する純資産方式

のバランスが取られていますが、比準方式には以下のような問題があります。

・類似業種の選定の恣意性
・市場実態との乖離
・評価結果のばらつき

このため、より客観性の高い純資産ベースへの移行が検討される可能性があります。

ただし、純資産方式にも課題があります。

・資産の評価方法(時価評価の難しさ)
・含み益の扱い
・事業価値(のれん)の反映困難

つまり、どの方式にも完全な解はなく、「どこで折り合いをつけるか」が制度設計の核心となります。


実務への影響は想像以上に大きい

今回の改正は、マンション評価見直しとは比較にならない影響を持つ可能性があります。

その理由は明確です。

・対象が全国の非上場企業に及ぶ
・中小企業オーナーの資産構成の中核に関わる
・事業承継・相続対策の前提を変える

特に影響が大きいのは以下の分野です。

・株価評価の上昇による相続税負担の増加
・自社株対策スキームの見直し
・持株会社・組織再編の再検討
・事業承継時期の前倒し検討

評価額がどの程度変動するかによっては、従来の対策が一気に無効化される可能性もあります。


評価通達の役割と限界

改めて重要なのは、評価通達そのものの存在意義です。

もし評価通達が存在しなければ、

・納税者ごとに評価額が異なる
・当局と納税者の見解対立が増加
・訴訟の多発

といった事態が生じます。

米国のように個別鑑定に委ねる方式もありますが、

・評価コストの増大
・鑑定結果のばらつき
・裁判負担の増加

といった別の問題を抱えています。

つまり、日本の評価通達は「不完全だが不可欠な制度」であり、今回の改正もこの前提の中で設計される必要があります。


評価通達6項の位置付け

今回の見直しに関連して注目されるのが、いわゆる「評価通達6項」の扱いです。

6項は、

・通達によらない評価を認める規定
・租税回避への対抗手段

として機能してきました。

新たな評価方式が導入されれば、

・評価の公平性が高まる
・6項適用の必要性は相対的に低下する

と考えられます。

ただし、

・6項自体は全財産に適用される規定である
・制度的なセーフティネットとして必要

であるため、廃止される可能性は低いと考えられます。


改正プロセスと今後のスケジュール

改正は一気に実現するものではなく、以下のプロセスを経ると考えられます。

・新評価方式の設計
・税制調査会での議論
・関係団体への説明
・有識者による検証
・通達改正の公表

特に重要なのは、

・理論的整合性
・納税者の納得性
・実務運用の可能性

のバランスです。

制度としては「100点」ではなく「70点」を目指す現実的な設計が求められる局面といえます。


結論

非上場株式の評価見直しは、単なる税制改正ではなく、「評価の考え方そのもの」を問い直すテーマです。

今回の改正の本質は以下の3点に集約されます。

・比準方式中心からの脱却
・資産価値重視へのシフト
・評価の公平性と実態適合性の再構築

実務的には、「改正を待つ」のではなく、

・現行評価の前提を再点検する
・複数シナリオでの影響分析を行う
・事業承継戦略を柔軟に見直す

といった対応が不可欠になります。

評価通達は長年にわたり実務の基盤となってきました。その基盤が動く局面においては、制度の変化を受け身で捉えるのではなく、構造的に理解し、戦略的に対応することが求められます。


参考

・税のしるべ 2026年4月20日
 インタビュー 私が見た 税を巡る 点と線 北本高男氏に非上場株式の相続税評価見直しの行方を聞く

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