近年、資産運用の選択肢は大きく広がりました。
外貨預金でドルを保有し、そのドルを使って海外不動産や外国債券、外貨建MMFへ投資する人も増えています。
こうした投資をしている人から、よく次のような質問を受けます。
「ドルを円に戻していないのだから、税金はまだ発生しないのではないですか。」
実は、この考え方は必ずしも正しくありません。
税法では、外貨を円へ戻さなくても課税されるケースがあります。
今回は、その理由を実務の視点から解説します。
外貨預金は一つの資産である
まず理解したいのは、外貨預金そのものが一つの資産であるということです。
例えば、
100円で1ドルを購入し、
そのドルを預金として保有している状態では、
資産の形は変わっていません。
円安によって評価額が増えたとしても、それはまだ含み益です。
保有しているだけでは利益は確定していません。
投資先が変わると資産も変わる
では、そのドル預金を使って海外不動産を購入したらどうでしょうか。
保有していた資産は、
ドル預金
から
海外不動産
へ変わります。
つまり、一つの資産を手放し、新しい資産を取得したことになります。
税法では、このタイミングで経済的価値が実現したと考えます。
そのため、ドルを取得した時点と、不動産購入時点の為替レートとの差額について、為替差益を認識することになります。
外貨建MMFへの投資でも同じ考え方
この考え方は外貨建MMFでも変わりません。
ドル預金をそのまま外貨建MMFへ振り替えた場合でも、
預金という資産
から
投資信託という資産
へ交換しています。
投資家から見ると、
「ドルはそのまま使っただけ」
という感覚かもしれません。
しかし税法では、
「新しい資産を取得した」
という事実を重視します。
資産の種類が変われば、利益が実現したものとして扱われるのです。
円を経由するかどうかは関係ない
多くの人が誤解するのは、
円へ戻したかどうか
だけを基準に考えてしまうことです。
税法では、
資産を処分したか
新しい資産を取得したか
が重要になります。
そのため、
ドル預金
海外不動産
外貨建MMF
外国通貨
などへ交換した場合でも、利益実現の可能性があります。
円を経由しているかどうかは、本質的な判断基準ではありません。
なぜこのような考え方になるのか
税法では、「実現主義」という考え方が採用されています。
資産価値が変動しただけでは課税せず、経済的利益が具体的な形になったときに所得として認識します。
外貨預金で保有しているだけなら利益は未確定ですが、別の資産へ交換した時点では、その外貨の価値を使って新たな財産を取得しています。
つまり、利益が現実の経済活動へ反映されたことになるため、課税対象となるのです。
これは所得税の基本原則にも合致した考え方です。
記録を残しておくことが重要
このような取扱いでは、
ドルを購入した日
購入時のレート
海外資産を取得した日
取得時のレート
などの記録が欠かせません。
数年前に購入した外貨を使って投資する場合には、取得時の為替レートを確認できなければ、正確な所得計算ができなくなります。
海外投資を行う人ほど、日頃から取引履歴を整理する習慣が重要になります。
税理士の役割も変わっていく
海外資産への投資が広がるにつれて、税理士には国際税務の知識が欠かせなくなっています。
顧問先からは、
ドルで海外マンションを購入した
外貨預金で外国債券を取得した
海外口座から投資信託を購入した
といった相談が増えていくでしょう。
こうした相談では、単に申告書を作成するだけでなく、「いつ利益が実現するのか」を説明できることが重要になります。
これからの税理士には、資産運用と税務を結び付けて助言する力がますます求められるでしょう。
結論
外貨預金は保有しているだけでは原則として課税されません。しかし、その外貨を使って海外不動産や外貨建MMFなど別の資産を取得すると、税法では利益が実現したものとして為替差益が課税されることがあります。
重要なのは、「円へ戻したかどうか」ではなく、「資産が別のものへ変わったかどうか」という視点です。
海外投資が一般化する時代だからこそ、この実現主義の考え方を理解しておくことが、正しい申告と安心した資産運用につながります。
参考
近畿税理士会「税法実務講座(所得税) 個人の国際税務~理論と実践~⑥ 円換算・為替差損益・外国人の住民税・個人の国際課税の調査」(講師:税理士 阿部行輝先生)