日本政府は2040年度までを見据えた「日本成長戦略」において、17の戦略産業を重点的に育成する方針を打ち出しました。AIや半導体をはじめとする分野へ官民合わせて370兆円超の投資を促し、日本経済の成長エンジンをつくろうという壮大な計画です。
しかし、この17分野は単なる「流行の産業」ではありません。人口減少や人手不足、エネルギー問題、安全保障など、日本が直面する課題を解決するために選ばれた産業でもあります。
では、これらの戦略産業は私たちの暮らしや企業経営にどのような影響を与えるのでしょうか。そして、税理士をはじめとする専門家はどのような視点で注目すべきなのでしょうか。
17の戦略産業は日本の未来への投資
政府が重点分野として位置付ける産業は、それぞれ異なる役割を持っています。
代表的なものには、
・人工知能(AI)
・半導体
・フィジカルAI(ロボット・自律制御)
・自動運転
・蓄電池
・海底ケーブル
・洋上風力
・フードテック
などがあります。
一見すると関連性がないように見えるかもしれません。
しかし共通しているのは、日本経済の競争力を高める「基盤産業」であることです。
未来の産業は、一つの技術だけで成り立つものではありません。AIと通信、エネルギー、ロボット、素材技術などが相互に連携し、新しい価値を生み出していきます。
AIはあらゆる産業の土台になる
今回の戦略で最も注目されるのはAIです。
AIは一つの産業ではありません。
製造業、医療、物流、農業、金融、建設、教育など、ほぼ全ての産業に影響を与える基盤技術です。
特に政府が重点を置く「フィジカルAI」は、AIがロボットや機械を自律的に動かす技術です。
人手不足が進む日本では、工場だけでなく介護、物流、建設現場など幅広い分野で活用が期待されています。
AIは新しい仕事を奪う技術ではなく、日本経済を支える労働力不足を補う技術として位置付けられているのです。
半導体は現代社会のコメになる
半導体は「産業のコメ」と呼ばれることがあります。
自動車、スマートフォン、家電、医療機器、AIサーバーまで、あらゆる製品に使われています。
日本はかつて世界トップクラスの半導体大国でした。
しかし現在は台湾、韓国、米国、中国との競争が激化しています。
政府が半導体産業へ巨額投資を行う背景には、経済安全保障があります。
国内で安定供給できなければ、日本の産業全体が大きな影響を受けるためです。
エネルギー産業も成長産業へ変わる
洋上風力や蓄電池への投資も重要です。
再生可能エネルギーは環境問題だけではありません。
エネルギーを海外へ依存しすぎることは、安全保障上のリスクにもなります。
さらにAIデータセンターの普及によって、今後は大量の電力が必要になります。
発電だけではなく、
蓄える
送る
効率良く使う
という技術全体が成長産業になっていきます。
食料も最先端産業になる時代
意外に感じる人も多いのがフードテックです。
植物工場や陸上養殖、食品加工技術などが含まれています。
人口減少が進む一方で、世界人口は今後も増え続ける見込みです。
日本が持つ精密機械技術や衛生管理技術は、高品質な食料生産と相性が良く、新たな輸出産業になる可能性があります。
農業も漁業も、これからはハイテク産業へ進化していくでしょう。
企業はどの産業に属するかより、どう関わるかが重要
「自社はAI企業ではないから関係ない」
そう考える経営者もいるかもしれません。
しかし実際には、多くの中小企業も戦略産業の一員になれます。
例えば、
部品メーカー
ソフトウェア会社
物流会社
建設会社
メンテナンス会社
教育会社
これらは全て成長産業を支える存在です。
直接AIを開発しなくても、AI産業を支える仕事は数多くあります。
自社がどの産業に属するかではなく、どの成長市場とつながるかが重要なのです。
税理士にも求められる成長産業への理解
税理士の仕事も変わります。
今後は設備投資や研究開発に関する税制優遇、補助金、資金調達の相談が増えるでしょう。
さらに、
「どの市場が伸びるのか」
「政府はどこへ投資を集中するのか」
「顧問先はどの成長分野へ参入できるのか」
こうした経営相談への期待も高まります。
税金だけを説明する時代から、未来の市場を見据えて助言する時代へ移りつつあります。
17の戦略産業を理解することは、税理士にとっても顧問先企業の未来を考えるための重要な知識になるでしょう。
結論
2040年へ向けた17の戦略産業は、日本経済の成長を支える柱として位置付けられています。その中心にはAIや半導体がありますが、エネルギー、食料、通信、ロボットなど幅広い分野が含まれています。これらは個別の産業ではなく、相互に連携しながら日本全体の競争力を高める基盤となるものです。
企業にとって重要なのは、自社が戦略産業そのものであるかではありません。成長する市場とどのようにつながり、新しい価値を提供できるかです。税理士をはじめとする専門家も、こうした産業構造の変化を理解し、顧問先の中長期的な経営戦略や投資判断を支援することが求められます。
2040年の日本経済を支えるのは、一部の巨大企業だけではありません。成長産業を支える全国の中小企業と、その挑戦を支援する専門家の存在こそが、日本の未来を築く原動力になるのです。
参考
日本経済新聞(2026年6月25日朝刊)
「民間設備投資230兆円に 40年度 政府、戦略17分野で」
日本経済新聞(2026年6月25日朝刊)
「経済安保に特別会計 首相、中長期の経財計画へ」
日本経済新聞(2026年6月25日朝刊)
「官主導投資、首相の肝煎り 市場を意識し国費公表は見送り」