株式市場では今、新しいタイプの企業が急速に存在感を高めています。それが、ビットコインなど暗号資産(仮想通貨)を大量に保有し、その価値を企業成長の柱とする「仮想通貨トレジャリー企業(DAT企業)」です。
これまで企業価値は、本業の利益や将来の成長力によって評価されるのが一般的でした。しかしDAT企業は、保有する暗号資産の価格変動が企業価値を大きく左右するという、従来とは異なる特徴を持っています。
こうした企業を株価指数に組み入れるべきかどうかを巡って、世界の指数算出会社の判断が分かれ始めています。この議論は単なる指数ルールの話ではなく、「企業とは何か」「投資とは何か」という市場の根本的な価値観を問い直す問題でもあります。
株価指数は市場の設計図である
TOPIXやMSCI、S&P500などの株価指数は、市場全体を映す鏡ともいえる存在です。
指数に採用されれば、多くのインデックスファンドやETFが自動的にその株式を購入します。つまり、指数への採用は大量の資金流入につながる可能性があります。
逆に指数から除外されれば、その企業への資金流入は限定されます。
そのため、指数に採用されるかどうかは企業にとって極めて重要な意味を持っています。
DAT企業が急増している理由
DAT企業は世界中で急速に増えています。
代表例は米国のストラテジーです。同社は本来ソフトウエア会社でしたが、現在では世界最大級のビットコイン保有企業として知られています。
さらに、自社株や社債を発行して調達した資金で暗号資産を購入する企業も増加しています。
背景には、企業が現金を保有するよりも、将来価値が高まる可能性のあるビットコインを保有した方が企業価値向上につながるという考えがあります。
日本でも同様の動きが広がり、メタプラネットなどが代表例として注目されています。
なぜ指数採用に慎重論が出るのか
一方で、多くの市場関係者は慎重な姿勢も示しています。
最大の理由は価格変動の大きさです。
ビットコインは短期間で数十%以上変動することも珍しくありません。
その結果、企業の業績とは無関係に株価が大きく変動し、市場全体の指数も影響を受ける可能性があります。
さらに、本業より暗号資産投資の比重が大きくなる企業は、一般的な事業会社というより投資ファンドに近い存在とも考えられます。
指数は本来、企業活動を反映するものなのか、それとも資産運用会社まで含めるべきなのかという問題が浮上しています。
世界でも判断が分かれている
この問題に対する答えは、世界でもまだ一致していません。
MSCIやFTSEラッセルは現時点ではDAT企業を一律には排除していません。
市場全体の実態を忠実に反映するという考え方を重視しているためです。
一方で、S&Pグローバルは慎重姿勢を維持しています。
また、日本取引所グループ(JPX)も、暗号資産保有が総資産の50%を超える企業については、当面TOPIXへの新規採用を見送る方針を示しました。
つまり、「市場を忠実に映すべき」という考え方と、「指数の安定性を守るべき」という考え方が対立しているのです。
投資家にとって本当に重要な視点
個人投資家にとって大切なのは、指数採用そのものよりも企業の実態を理解することです。
DAT企業の株価は企業努力だけではなく、ビットコイン価格に大きく左右されます。
そのため、「株式投資をしているつもりが、実際には暗号資産価格へ投資している」のと近い状況になる可能性があります。
また、資金調達を繰り返して暗号資産を買い増すビジネスモデルには、高い成長期待と同時に大きなリスクも存在します。
価格上昇局面では急成長しますが、下落局面では企業価値も急速に縮小する可能性があります。
こうした特徴を理解しないまま投資することは避けるべきでしょう。
税理士にも新しい知識が求められる時代
DAT企業の増加は税理士にとっても無関係ではありません。
法人が暗号資産を保有するケースが増えれば、評価方法や会計処理、税務上の取扱いについて相談を受ける機会も増えるでしょう。
さらに、企業がトークンやステーブルコインなど新たなデジタル資産を保有する時代になれば、従来の有価証券や現預金とは異なる論点も数多く生まれます。
税理士には税法だけでなく、デジタル資産そのものへの理解も求められるようになるでしょう。
今後は資産運用会社だけでなく、一般企業でも暗号資産を財務戦略に組み込む動きが広がる可能性があります。
その変化を先取りして学ぶことが、専門家としての価値を高めることにつながります。
結論
DAT企業を株価指数へ組み入れるかどうかは、単なる技術的なルール変更ではありません。
企業価値とは何か、市場は何を評価するのかという資本市場の本質を問うテーマです。
世界の指数会社が異なる判断を示していることは、この問題に唯一の正解がまだ存在しないことを意味しています。
今後、暗号資産やデジタル資産がさらに普及すれば、指数の考え方も変化していく可能性があります。
投資家も専門家も、「企業」と「資産」の境界線が変わり始めていることを理解し、新しい市場のルールに柔軟に対応していく姿勢が求められる時代になったと言えるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年6月25日 朝刊
仮想通貨投資企業の指数組み入れ MSCI許容、東証は除外へ