近年、日本のスタートアップや大企業で外国人人材の活躍が目立つようになりました。エンジニアや研究者だけでなく、経営者や専門職も国境を越えて移動する時代になっています。
こうした変化は税理士業界にも無関係ではありません。
税理士は国家資格であり、日本の税法を扱う専門家です。そのため「税理士は国内だけの仕事」と考えられがちです。しかし、企業活動や資産運用の国際化が進む中で、税理士にも新しい役割が求められています。
これからの税理士は本当に世界と競争する時代を迎えるのでしょうか。
顧客の国際化が始まっている
税理士が扱う顧客は年々国際化しています。
かつては海外取引を行う企業は一部の大企業に限られていました。しかし現在では中小企業でも海外への販売や海外企業との取引が珍しくありません。
インターネットを活用すれば、地方の小規模事業者でも世界中に商品やサービスを提供できます。
また個人レベルでも海外ETF、海外不動産、暗号資産、海外移住、国際結婚など、税務上の論点が増えています。
顧客が国際化すれば、税理士も国際的な知識を求められることになります。
AIが国境を消し始めている
もう一つの大きな変化はAIです。
これまで海外の税制や国際税務を調べるには多くの時間が必要でした。
しかし生成AIの発展によって、海外の制度や情報へのアクセスは飛躍的に容易になっています。
英語が苦手な人でも翻訳機能を使いながら海外の情報を収集できる時代になりました。
これは日本の税理士にとって追い風でもありますが、同時に海外の専門家との距離も縮めています。
情報格差が小さくなることで、単なる知識提供だけでは差別化が難しくなる可能性があります。
競争相手は税理士だけではない
今後の競争相手は日本の税理士だけではありません。
会計士、弁護士、FP、コンサルタント、さらにはAIサービスまで含まれます。
海外では税務相談をオンラインで提供するサービスも普及しています。
日本でもクラウド会計やAIによる自動化が進み、従来型の記帳代行や申告業務の価値は相対的に低下していく可能性があります。
単純な処理業務は価格競争になりやすくなります。
一方で、高度な判断や人生設計に関わる相談業務の価値はむしろ高まっていくでしょう。
日本の税理士だからこそ提供できる価値
ただし、税理士の未来が悲観的というわけではありません。
むしろ日本の税理士だからこそ提供できる価値があります。
税法の解釈だけではなく、相続、事業承継、家族関係、地域事情、中小企業経営など、日本独自の事情を理解して助言できる専門家は限られています。
税務は法律だけでは完結しません。
顧客の人生や経営の背景を理解して最適な選択肢を提示することが重要です。
そこにはAIや海外専門家では代替しにくい価値があります。
これから求められる税理士像
これからの税理士には三つの力が求められると考えます。
一つ目は国際感覚です。
海外税制の専門家になる必要はありませんが、世界で何が起きているかを理解する視点は欠かせません。
二つ目は相談力です。
申告書を作るだけでなく、顧客の悩みや課題を整理し、意思決定を支援する能力が重要になります。
三つ目はIT活用力です。
AIやクラウドサービスを使いこなし、自らの生産性を高めることが必要です。
これらを備えた税理士は、むしろ活躍の場を広げることができるでしょう。
人生100年時代の税理士キャリア
人生100年時代には税理士自身も長く働くことになります。
60歳、70歳を超えても活躍するためには、単純作業ではなく知識と経験を活かした相談業務へシフトすることが重要です。
オンライン相談やセカンドオピニオン業務であれば、場所に縛られず全国の顧客にサービスを提供できます。
実際にこれからは「地域の税理士」だけでなく、「専門分野で選ばれる税理士」が増えていくでしょう。
国際化やデジタル化は脅威ではなく、新しい可能性を広げるチャンスでもあります。
結論
税理士資格そのものは日本国内の制度ですが、税理士を取り巻く環境は確実に国際化しています。顧客の活動範囲は広がり、AIによって世界中の情報が身近になりました。
これからの税理士は、単なる税務処理の専門家ではなく、経営や人生設計を支援する相談型専門家としての役割がより重要になります。
世界との競争が進む時代だからこそ、日本の税理士には日本独自の事情を理解し、顧客に寄り添う価値が求められます。競争を恐れるのではなく、新しい時代に合わせて進化できる税理士こそが、これからも長く選ばれ続けるのではないでしょうか。
参考
日本経済新聞(2026年6月22日 朝刊)
「新興企業 増える外国人人材 多国籍チームで開発/『在留』厳格化に不安の声」
「商慣習などに苦労も」