建物は減価償却できます。
機械設備も減価償却できます。
特許権も一定期間で償却します。
ところが借地権は原則として減価償却できません。
土地を借りるために多額の権利金を支払っているにもかかわらず、なぜ税務上は減価償却が認められないのでしょうか。
この疑問は税務実務でもよく聞かれます。
今回は無形固定資産シリーズ第13回として、借地権が減価償却できない理由について解説します。
借地権とは何か
借地権とは、他人の土地を借りて利用する権利です。
例えば、
土地所有者から土地を借りて店舗を建てる
工場を建設する
賃貸マンションを建築する
といった場合に発生します。
借地権を取得する際には、権利金を支払うこともあります。
そのため経営者の中には、
「お金を払っているのだから減価償却できるのではないか」
と考える方もいます。
しかし税務上は別の考え方をしています。
なぜ建物は償却できるのか
まず建物について考えてみましょう。
建物は使用や時間の経過によって老朽化します。
外壁は劣化し、
設備は故障し、
耐久性も低下します。
つまり価値が徐々に減少していきます。
そのため税務上は耐用年数に応じて減価償却を行います。
減価償却とは価値の減少を費用化する仕組みなのです。
借地権は価値が消耗するのか
では借地権はどうでしょうか。
借地権そのものは、建物のように物理的に老朽化するものではありません。
契約が継続する限り、その権利は維持されます。
つまり税務上は、
「使用によって価値が減少する資産ではない」
と考えられています。
そのため原則として減価償却は認められていません。
ここが建物との大きな違いです。
土地と似た考え方
借地権を理解するには土地との比較が有効です。
土地も減価償却できません。
なぜなら土地は時間の経過によって消耗しないからです。
もちろん市場価格は上がることも下がることもあります。
しかし税務上は市場価格の変動ではなく、資産そのものが消耗するかどうかで判断します。
借地権も同じです。
市場価値が変動しても、権利自体が消耗するものではないため非減価償却資産として扱われるのです。
権利金を支払っても償却できないのか
ここで多くの人が疑問を持ちます。
例えば3,000万円の権利金を支払った場合、その支出はいつ経費になるのでしょうか。
原則として借地権は資産計上されます。
そして売却や消滅などが発生するまで、そのまま貸借対照表に残ることになります。
建物のように毎年少しずつ経費化することはできません。
この点が経営者にとって分かりにくいところです。
税務調査で確認される借地権
借地権は税務調査でも重要な論点です。
特に同族会社では、
・権利金の授受
・相当の地代
・借地権認定課税
などが問題になります。
土地所有者が個人で、利用者が法人というケースでは特に注意が必要です。
単なる固定資産税務の問題ではなく、法人税や相続税にも影響することがあります。
そのため税理士は借地権を総合的に理解する必要があります。
事業承継でも重要な資産
借地権は事業承継や相続でも重要な資産です。
老舗店舗や長年営業している事業所では、借地権自体に大きな価値がある場合があります。
実際に店舗を売却する際、
建物より借地権の価値の方が高いこともあります。
つまり借地権は単なる使用権ではなく、企業価値の一部でもあるのです。
AI時代でも変わらない権利の価値
AIやDXが進展しても、土地利用権の重要性は変わりません。
駅前の好立地
商店街の一等地
物流拠点
工場用地
などは今後も高い価値を持ち続けます。
借地権は目に見えない権利ですが、事業の基盤を支える重要な無形資産なのです。
無形固定資産というとソフトウェアや特許権ばかり注目されますが、借地権もまた重要な権利資産の一つです。
税理士に求められる視点
借地権を見る際には、
「いくら支払ったか」
だけではなく、
「その権利がどのような価値を持つのか」
を考える必要があります。
税務処理だけでなく、
事業承継
企業価値評価
相続対策
不動産戦略
にも関係するからです。
これからの税理士には、権利資産を経営の視点から理解する力が求められています。
結論
借地権が減価償却できないのは、税務上、価値が消耗する資産と考えられていないためです。
土地と同様に、権利そのものは使用によって減少しないという考え方が採用されています。
しかし借地権は事業承継や相続、企業価値評価にも大きな影響を与える重要な無形資産です。
減価償却できるかどうかだけでなく、その権利が持つ経済的価値にも目を向けることが重要なのです。
参考
近畿税理士会研修資料(2026年)
「個別論点講座 無形固定資産の税務」 税理士 中嶌祥貴先生