企業が新しい技術や製品を開発した場合、その成果を守るために取得するのが特許権です。
特許権は企業の競争力を支える重要な経営資源であり、近年ではAIやバイオテクノロジー分野を中心にその価値がますます高まっています。
一方で税務実務では、「特許権は何年で償却するのか」「取得費用はいつ経費になるのか」といった疑問を持つ方も少なくありません。
今回は無形固定資産シリーズ第4回として、特許権の税務上の取扱いについて解説します。
特許権とは何か
特許権とは、新しい発明を一定期間独占的に利用できる権利です。
発明者は特許庁へ出願し、審査を経て登録されることで特許権を取得します。
例えば、
・新しい製造技術
・AIアルゴリズム
・医薬品の製造方法
・独自の機械装置
などが特許の対象になります。
特許権を持つことで他社の模倣を防ぎ、市場で優位な立場を維持できます。
そのため企業価値を支える重要な無形資産として扱われています。
なぜ特許権は減価償却するのか
電話加入権や借地権は非減価償却資産でした。
しかし特許権は減価償却資産です。
その理由は権利の存続期間にあります。
特許権は永久に続く権利ではありません。
法律によって保護期間が定められており、その期間が終了すると権利は消滅します。
つまり時間の経過によって価値が減少していく資産と考えられるため、税務上は減価償却を行います。
ここが電話加入権との大きな違いです。
無形固定資産の償却の考え方
建物や機械設備は物理的に老朽化します。
一方で特許権は形のない権利です。
しかし税務上はどちらも将来の収益獲得に貢献する資産という点で共通しています。
そのため取得した年に全額を経費にするのではなく、利用期間に応じて費用化します。
これは利益計算を適正に行うためです。
例えば1,000万円で取得した特許権を初年度に全額経費にしてしまうと、その後何年も利益を生み出すにもかかわらず費用配分が不適切になります。
そこで税務上は一定期間にわたり償却する仕組みを採用しています。
自社開発と購入では考え方が違う
特許権に関する税務では、自社開発と購入で論点が異なります。
他社から特許権を購入した場合は、その取得価額を無形固定資産として計上します。
一方で自社開発の場合は研究開発費との関係が問題になります。
どこまでが研究段階なのか。
どこからが資産計上すべき支出なのか。
この判断は実務上非常に重要です。
特に近年はAIやソフトウェア開発が増加しているため、研究開発費と無形固定資産の区分が税務調査でも注目されています。
中小企業でも無関係ではない
特許権というと大企業の話だと思われがちです。
しかし中小企業でも独自技術を持つ会社は少なくありません。
町工場の加工技術や製造ノウハウが特許として登録されるケースもあります。
また事業承継やM&Aでは、特許権の存在が企業価値を大きく左右することがあります。
建物や機械設備だけでなく、どのような知的財産を持っているかが評価対象になる時代です。
税理士も顧問先の特許権を単なる資産勘定として見るのではなく、企業価値の源泉として理解する必要があります。
AI時代に高まる知的財産の価値
近年はAI技術の進歩によって知的財産の重要性がさらに高まっています。
工場や設備よりも、
・技術
・データ
・アルゴリズム
・ノウハウ
が企業価値を左右するケースが増えています。
時価総額の高い企業ほど、目に見えない資産の割合が大きい傾向があります。
特許権はその代表例です。
税務上は減価償却資産として処理しますが、経営の視点では将来の収益を生み出す重要な資産として捉える必要があります。
税理士に求められる視点
これからの税理士は、単に減価償却費を計算するだけでは不十分です。
その特許権が、
・どのような技術なのか
・どの程度の競争力があるのか
・事業承継やM&Aでどのような価値を持つのか
まで理解できることが望まれます。
無形固定資産の税務は、企業価値評価や経営戦略とも深く結びついているからです。
結論
特許権は一定期間で権利が消滅するため、税務上は減価償却資産として扱われます。
電話加入権や借地権のような非減価償却資産との違いは、権利の存続期間にあります。
また特許権は単なる税務上の資産ではなく、企業の競争力や企業価値を支える重要な知的財産でもあります。
AI時代を迎えた今こそ、無形固定資産の代表である特許権の本質を理解することが求められているのです。
参考
近畿税理士会研修資料(2026年)
「個別論点講座 無形固定資産の税務」 税理士 中嶌祥貴先生