税務調査と聞くと、多くの経営者や個人事業主は緊張するかもしれません。
税務署の調査官が会社を訪れ、帳簿や領収書を確認し、数日かけて取引内容を調査する――そんな光景が現在の一般的な税務調査です。
しかし、2040年にはその姿が大きく変わっている可能性があります。
背景にあるのはAI、ビッグデータ、電子帳簿保存法、インボイス制度、そして国税庁システムの高度化です。
税務調査は「人が探す時代」から「AIが見つける時代」へ移行しつつあります。
今回は2040年の税務調査の未来を考えてみます。
税務調査の対象選定はAIが行う
現在でも税務調査は無作為に選ばれているわけではありません。
申告内容や業種平均との比較などをもとに調査対象が選定されています。
2040年には、この選定作業の大部分をAIが担うようになるでしょう。
AIは、
・売上高の急変
・利益率の異常
・経費割合の変化
・同業他社との比較
・インボイス情報との整合性
・金融機関データとの照合
などを瞬時に分析します。
数百万件の申告データから不自然な動きを抽出できるため、人間では見逃すような異常も検知できるようになります。
税務調査の入口は、ほぼ完全にデータ分析型へ変わると考えられます。
紙の帳簿を見る調査は減少する
2040年には紙の帳簿や紙の領収書を見る機会は大幅に減るでしょう。
電子帳簿保存法の普及によって、
・請求書
・領収書
・契約書
・預金明細
・会計データ
のほとんどが電子化されます。
税務署は必要なデータを事前に分析し、問題のある箇所だけを確認するようになります。
調査官が大量の段ボール箱を開ける光景は過去のものになるかもしれません。
税務調査は「紙を見る仕事」から「データを読む仕事」へ変わります。
事前通知の段階で論点が絞られる
将来の税務調査では、調査開始前から論点がかなり明確になる可能性があります。
AIが、
・役員貸付金
・外注費
・交際費
・海外送金
・関連会社取引
などのリスクを抽出します。
税務署は事前通知の段階で、
「この取引について確認したい」
という形で論点を提示するようになるかもしれません。
従来のような広範囲な調査よりも、特定テーマに集中した調査が増えるでしょう。
リアルタイム調査の時代が来る
2040年には税務調査そのものの概念が変わる可能性があります。
現在は申告後に調査を行いますが、将来はリアルタイム監視型へ近づくかもしれません。
例えば、
・電子インボイス
・電子納税
・電子帳簿
・金融データ
が連携されることで、
不自然な取引が発生した時点でシステムが検知できるようになります。
その結果、大規模な調査を実施する前に、
「確認のお知らせ」
が届く時代になるかもしれません。
税務調査は事後対応から予防対応へ変化していくのです。
海外資産の把握能力は飛躍的に向上する
2040年には国際的な情報交換もさらに進展します。
現在でも海外口座情報の交換制度がありますが、今後は対象国や情報量が増えるでしょう。
税務当局は、
・海外預金
・海外不動産
・海外法人
・暗号資産
などの情報を把握しやすくなります。
国境を越えた資産隠しはますます難しくなると考えられます。
AIは世界中の情報を照合し、不自然な資金移動を分析するようになるでしょう。
税務調査官に求められる能力も変わる
AIが進化しても税務調査官の仕事はなくなりません。
むしろ求められる能力は高度化します。
AIは異常値を発見できますが、
・税法解釈
・事実認定
・取引実態の把握
・納税者との対話
は人間の役割です。
特に事業承継や国際税務、デジタル資産などの複雑な案件では高度な専門知識が必要になります。
調査官は「帳簿を見る人」から「リスクを判断する専門家」へ変わるでしょう。
税理士の役割も大きく変わる
AI調査時代になると、税理士の役割も変化します。
これまでは、
「調査が来たら対応する」
という発想が中心でした。
しかし将来は、
「AIに疑われない経理体制を作る」
ことが重要になります。
つまり、
・証憑管理
・データ整備
・内部統制
・取引記録
・説明資料作成
といった予防型支援の価値が高まります。
税理士は調査対応の専門家から、調査を受けにくい体制づくりの専門家へ進化していくでしょう。
結論
2040年の税務調査は、AIとデータ分析が中心となる新しい時代を迎えていると考えられます。
調査対象の選定はAIが行い、帳簿は電子化され、論点は事前に絞り込まれます。
税務調査は「人海戦術による確認作業」から、「高度なデータ分析と専門判断」へ変わっていくでしょう。
しかし最後に重要な判断を下すのは人間です。
税法の解釈、事実認定、納税者との対話はAIだけでは完結しません。
だからこそ2040年の税務調査で最も価値を持つのは、テクノロジーそのものではなく、それを使いこなす人の知識と判断力なのです。
参考
税のしるべ
2026年6月1日
令和8年5月・徴収部長会議、KSK2の徴収システムにマネジメントアプリ