在職老齢年金は本当に働き損なのか―制度への誤解を考える

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「働くと年金が減るから損だ」

高齢者の就労に関する話題になると、よく耳にする言葉です。

実際に、65歳以降も働き続ける人の中には、在職老齢年金制度を理由に勤務時間を減らしたり、働くこと自体をためらったりする人もいます。

しかし、本当に働くと損をするのでしょうか。

在職老齢年金制度は複雑であるため誤解されやすい制度の一つです。制度の仕組みを正しく理解すると、「働き損」というイメージとは異なる姿が見えてきます。

今回は、在職老齢年金制度の実態と、人生100年時代における働き方について考えてみたいと思います。

在職老齢年金とは何か

在職老齢年金とは、老齢厚生年金を受給しながら働く人について、給与と年金の合計額が一定水準を超えた場合に年金の一部または全部を支給停止する制度です。

制度の目的は、現役世代とのバランスや年金財政への配慮にあります。

2026年度からは支給停止の基準額が月65万円へ引き上げられました。

給与と老齢厚生年金の合計額が65万円以下であれば、原則として老齢厚生年金は減額されません。

以前の基準額は51万円でしたので、働きながら年金を受け取りやすい環境へと見直されたことになります。

「働くと年金が減る」は半分正しく半分誤り

在職老齢年金制度について、

「働けば働くほど年金が減る」

と思われがちです。

確かに基準額を超えると年金の一部は支給停止になります。

しかし減るのは年金だけであり、給与まで減るわけではありません。

例えば、

  • 年金月額15万円
  • 給与月額55万円

の場合、基準額を超えるため老齢厚生年金の一部が支給停止されます。

しかし本人の手取り収入全体で見ると、

  • 給与収入
  • 支給される年金

の合計は依然として高い水準にあります。

年金が減るからといって、収入全体が減るわけではないのです。

本当の「働き損」はどこにあるのか

では、なぜ働き損というイメージが広がったのでしょうか。

理由は主に三つあります。

一つ目は税金です。

収入が増えれば所得税や住民税も増えます。

二つ目は社会保険料です。

厚生年金や健康保険料の負担が発生します。

三つ目は年金の一部支給停止です。

給与が増えても、税金や社会保険料、年金減額が重なることで増収効果が小さく感じられる場合があります。

しかしこれは「収入が減る」のではなく、「増え方が緩やかになる」という話です。

多くの場合、働けば働くほど可処分所得は増えています。

見落とされがちな厚生年金増額効果

在職老齢年金を語る際に見落とされがちなのが、厚生年金の増額効果です。

65歳以降も厚生年金に加入して働くと、その期間に応じて将来受け取る老齢厚生年金が増加します。

しかも現在は在職定時改定制度によって、毎年年金額が見直されます。

つまり、

  • 今の給与収入
  • 将来の年金増額

という二重のメリットがあるのです。

「年金が少し減る」という短期的な視点だけで判断すると、この重要な効果を見落としてしまいます。

長寿化時代では年金増額の価値が大きい

人生100年時代と言われる現在、65歳は老後の入り口にすぎません。

仮に90歳まで生きるとすると、年金を受け取る期間は25年にもなります。

毎月5,000円の年金増額でも、

  • 年間6万円
  • 20年間で120万円
  • 25年間で150万円

になります。

さらに年金は終身給付です。

金融資産を取り崩すのとは異なり、生きている限り受け取ることができます。

長寿リスクへの備えとして、公的年金の増額効果は非常に大きいと言えるでしょう。

政府は働き控えを減らそうとしている

政府も在職老齢年金制度が働き控えを招いていることを認識しています。

そのため近年は制度の緩和が続いています。

2026年度には支給停止基準額が65万円へ引き上げられました。

将来的には制度そのものの見直しや廃止を求める議論も続いています。

少子高齢化による人手不足が深刻化するなかで、高齢者の就労促進は国の重要な政策課題になっています。

制度の方向性を見る限り、「働き続けることを後押しする社会」へ向かっていると言えるでしょう。

税理士・FPにとっての在職老齢年金

税理士やFPなどの専門職は比較的長く働くことができます。

そのため在職老齢年金制度の影響を受ける期間も長くなります。

しかし専門職の場合、

  • 顧問収入
  • 相談業務収入
  • 講師収入

などを継続的に得られる可能性があります。

また働き続けることで社会との接点が維持され、健康面や認知機能の維持にもつながるとされています。

年金の一部支給停止だけを理由に仕事をやめる判断は、必ずしも合理的とは言えないかもしれません。

結論

在職老齢年金制度は「働くと年金が減る制度」と説明されることが多いため、働き損という印象を持たれがちです。

しかし実際には、

  • 給与収入は増える
  • 将来の厚生年金も増える
  • 長寿リスクへの備えになる

というメリットがあります。

確かに税金や社会保険料、年金の一部支給停止によって増収効果が小さくなることはあります。

それでも、多くの場合は働くことで総収入も将来の年金額も増加します。

人生100年時代においては、

「年金が減るかどうか」

ではなく、

「働くことで人生全体の収入と安心がどう変わるか」

という視点で考えることが重要なのではないでしょうか。

参考

・厚生労働省「在職老齢年金制度について」

・日本年金機構「在職老齢年金の仕組み」

・日本年金機構「在職定時改定について」

・政府広報オンライン「在職老齢年金制度の見直し」

・日本経済新聞 2026年5月30日朝刊「高齢者の求職最多 4月3.9%増、12.8万件」

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