評価見直しで最も影響を受けるのは誰か(対象分析編)

税理士
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非上場株式の評価見直しが進む中で、実務上重要なのは「誰に影響が及ぶのか」という視点です。
評価額が変わるということは、単に株価が動くだけではなく、相続・贈与・事業承継の意思決定そのものに影響を与えます。

今回の見直しは、評価の公平性や中立性の確保を目的としています。そのため、従来の制度のゆがみや隙間を利用していた主体ほど、大きな影響を受ける構造となっています。

本稿では、影響を受ける主体を整理し、その影響の方向性を分析します。


最も影響を受けるのはオーナー経営者

最も直接的な影響を受けるのは、非上場会社のオーナー経営者です。

オーナー経営者は、自社株式の大部分を保有していることが多く、その評価額は相続税・贈与税の課税額に直結します。評価額が上昇すれば、それだけ税負担は増加します。

特に、これまで評価方式の選択や配当政策などを通じて株価をコントロールしていたケースでは、見直し後にその余地が縮小する可能性があります。

結果として、従来の株価対策に依存した事業承継戦略は見直しを迫られることになります。


後継者への影響は「資金負担」として顕在化

評価見直しの影響は、後継者にも強く及びます。

株価が上がれば、相続税・贈与税の納税資金の確保がより重要になります。特に、現金収入が限定される後継者にとっては、株式評価の上昇は直接的な資金負担となります。

また、納税猶予制度を利用する場合でも、制度の要件や将来のリスクを踏まえた慎重な判断が求められます。

評価額の上昇は単なる数字の問題ではなく、承継の実行可能性そのものに影響する点が重要です。


中小企業オーナー層の中でも影響は分かれる

すべての中小企業オーナーが同じ影響を受けるわけではありません。

影響が大きいのは、以下のような特徴を持つ会社です。

・内部留保が厚く純資産価値が高い会社
・配当を抑制してきた会社
・会社規模区分を意識した運営を行ってきた会社
・株主構成を調整して評価方式を選択してきた会社

これらの会社は、評価見直しによって従来の低い評価が是正される可能性があります。

一方で、収益力が低く資産偏重の会社では、評価方法の見直しによって評価額が見直される余地もありますが、全体としては「低く抑えていた会社ほど影響が大きい」という構図になります。


少数株主・親族株主への影響

配当還元方式の見直しは、少数株主にも影響します。

これまで、少数株主は配当還元方式により比較的低い評価が認められてきました。しかし、株主区分を形式的に作り出すスキームが問題視されていることから、適用範囲の見直しが行われる可能性があります。

その結果、これまで配当還元方式で評価されていた株式が、より高い評価方式に切り替わるケースも想定されます。

親族間での株式移転や分散保有を前提とした承継設計にも影響が及ぶ可能性があります。


税理士・実務家への影響は「助言内容の転換」

評価見直しは、税理士や実務家にも大きな影響を与えます。

従来の実務では、評価方式の選択や会社規模の調整を踏まえた株価対策が重要な役割を果たしてきました。しかし、評価の恣意性が排除される方向に進めば、こうした対策の余地は縮小します。

その結果、実務家に求められる役割も変化します。

・評価の前提となる企業価値の理解
・収益力や資本構成の分析
・承継時期や手法の戦略的設計

つまり、形式的な対策から、より本質的な企業価値と承継戦略への助言へと軸足が移ることになります。


金融機関・M&A関係者への影響

今回の見直しは、金融機関やM&A関係者にも間接的な影響を与えます。

非上場株式の評価が実態に近づくことで、税務上の評価と実際の企業価値評価との乖離が縮小する可能性があります。これは、融資判断や企業価値算定の整合性を高める方向に働きます。

一方で、税務評価が上昇すれば、承継時の資金需要が増加するため、金融機関の関与はより重要になります。

また、第三者承継を選択する企業が増える可能性もあり、M&A市場にも影響が波及することが考えられます。


影響の本質は「制度利用から制度適合へ」

今回の見直しの本質は、誰か一部の主体に負担を課すことではありません。

重要なのは、制度の使い方が変わる点です。

従来は、評価方式や制度の構造を前提として、その中で最適な選択を行うことが重視されてきました。いわば「制度をどう使うか」が中心でした。

しかし今後は、制度の趣旨に適合した評価が求められます。
企業の実態や収益力に基づいた評価が重視され、「制度に合わせる経営」ではなく「実態に基づく評価」に近づいていきます。

この転換は、すべての関係者に影響を及ぼします。


結論

非上場株式の評価見直しで最も影響を受けるのは、オーナー経営者と後継者です。特に、従来の評価制度の隙間を利用していたケースでは、影響は大きくなります。

一方で、税理士や金融機関を含めた周辺の実務も変化し、企業価値を軸とした助言や意思決定がより重要になります。

今回の見直しは、単なる評価ルールの変更ではなく、事業承継の考え方そのものを問い直すものです。誰が影響を受けるかを理解することは、そのまま今後の戦略を考える出発点になります。


参考

税のしるべ 2026年4月24日「取引相場のない株式の評価見直しで有識者会議、改正通達の適用は早ければ令和10年から」

税のしるべ 令和8年4月27日号1面 取引相場のない株式の評価見直しに関する記事

国税庁 財産評価基本通達

会計検査院 取引相場のない株式の評価に関する指摘資料

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