非上場株式評価の見直しは何を変えるのか―制度再設計の核心と実務への影響

税理士
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非上場株式の評価見直しが本格的に動き始めています。
国税庁は有識者会議を設置し、財産評価基本通達の改正に向けた検討に着手しました。適用は早ければ令和10年とされており、相続・事業承継の実務に与える影響は小さくありません。

今回の見直しは単なる技術的修正ではなく、評価制度そのものの思想に踏み込む可能性があります。本稿では、検討の背景と論点を整理し、実務上の影響を考察します。


見直しの背景にある「評価のゆがみ」

今回の見直しの直接的な契機となったのは、会計検査院の指摘です。

指摘の本質は、評価方式や会社規模の違いによって、株価に不合理な差が生じている点にあります。具体的には、会社規模が大きくなるほど評価額が相対的に低くなる傾向が確認されており、これは制度としての公平性を揺るがすものです。

さらに問題とされているのが、評価方式間の差異を利用した株価の圧縮です。
例えば、配当を抑制する、会社規模を意図的に変更するなどにより、より低い評価方式を選択するスキームが存在していると指摘されています。

このような状況は、制度が本来想定していない形で利用されていることを意味します。見直しは、こうした「評価のゆがみ」を是正することが出発点となっています。


見直しの4つの視点

有識者会議では、見直しの基本的な方向性として4つの観点が示されています。

第一は、評価額の「崖」の解消です。
会社規模の区分によって評価方法が切り替わる現行制度では、境界線で評価額が大きく変動する問題があります。この不連続性が、意図的な規模操作の誘因となっています。

第二は、恣意性・操作性の排除です。
配当政策や利益調整を通じて株価を下げる行為や、特例的な株主区分を作出するスキームなどが問題視されています。評価は中立であるべきという考え方が明確に打ち出されています。

第三は、経済環境の変化への対応です。
現行の評価通達は昭和39年の制定を基礎としており、その後の金利環境や企業価値評価の進展が十分に反映されていません。特に配当還元率の見直しや収益力の反映は重要な論点となります。

第四は、事業承継・M&Aの実態との整合性です。
近年は親族内承継だけでなく、第三者承継が増加しています。実務で用いられる企業価値評価との乖離をどう埋めるかが問われています。


現行制度の構造と問題点

現行の非上場株式評価は、大きく次の2つの軸で決まります。

一つは株主の属性です。
同族株主は原則的評価方式、少数株主は配当還元方式とされており、同じ株式でも評価が大きく異なります。

もう一つは会社規模です。
大会社は類似業種比準方式、中会社は併用方式、小会社は純資産価額方式が原則となります。

この構造自体は合理性を持っていますが、問題は「組み合わせ」にあります。
株主区分と会社規模の両方を調整することで、評価額を大きく動かす余地が生じているのです。

特に、純資産価額方式を回避するためのスキームが実務上確認されており、制度設計上の弱点が顕在化しています。


見直しが意味する制度の方向転換

今回の見直しで注目すべきは、「評価の考え方」が変わる可能性です。

従来の評価通達は、画一的で簡便な評価を重視してきました。
一方で、今回の議論では「企業価値の実態に近づける」という方向性が強く意識されています。

これは、次のような変化につながる可能性があります。

・評価方式間の差異の縮小
・収益力やキャッシュフローの重視
・市場ベースの評価手法との接近

つまり、形式的な区分による評価から、実質的な企業価値評価へのシフトです。


実務への影響と今後の対応

実務上、今回の見直しは大きく3つの影響をもたらすと考えられます。

第一に、従来の株価引下げスキームの通用可能性が低下することです。
評価方式の選択余地が縮小すれば、事前の対策による評価圧縮は難しくなります。

第二に、評価の予測可能性が低下する可能性です。
企業価値に近づけるほど、評価は個別性を帯びるため、結果の見通しが難しくなります。

第三に、事業承継戦略そのものの見直しです。
評価額が上昇する場合、贈与・相続のタイミングや方法を再検討する必要が生じます。

特に、法人版事業承継税制の特例期限(令和9年末)との関係は重要です。
制度改正前後で評価水準が変わる可能性があるため、時間軸を踏まえた意思決定が求められます。


結論

非上場株式の評価見直しは、単なる通達改正ではなく、評価制度の再設計と位置付けるべき動きです。

評価の公平性を確保し、恣意性を排除するという方向性は明確です。その一方で、企業価値評価への接近は、実務の複雑化という側面も伴います。

今後は、制度改正の動向を注視するとともに、従来の前提に依存しない事業承継・資本政策の再構築が求められます。評価のルールが変わるとき、問われるのは単なる対応力ではなく、構造的な理解と戦略の再設計です。


参考

・税のしるべ 2026年4月24日 取引相場のない株式の評価見直しに関する記事
・税のしるべ 2026年4月27日号1面 同関連記事
・国税庁 財産評価基本通達
・会計検査院 非上場株式評価に関する指摘資料

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