配当所得について総合課税を選択すると適用される「配当控除」は、一般的に税負担を軽減する制度として知られています。しかし、実務においては「配当控除があるから総合課税が有利」と単純に判断できるものではありません。
本稿では、配当控除の仕組みを整理したうえで、実効税率という観点から、その有利・不利を再検証します。
配当控除の基本構造
配当控除とは、法人段階で課税された利益に対して、個人段階での二重課税を調整するための制度です。
上場株式等の配当について総合課税を選択した場合、以下の控除が適用されます。
・所得税:原則10%(課税所得に応じて5%となる場合あり)
・住民税:原則2.8%(一定条件で1.4%となる場合あり)
この控除により、表面的には税負担が軽減されるように見えます。
実効税率という考え方
配当課税の有利・不利を判断する際に重要なのは、「名目税率」ではなく「実効税率」です。
実効税率とは、
・総合課税による税額
・配当控除による減税
・源泉徴収済税額
これらを総合して、最終的にどれだけ税負担が残るかを示すものです。
総合課税の実効税率の構造
総合課税を選択した場合の税負担は、次の構造で決まります。
・累進税率(5%~45%)
・住民税(10%)
・配当控除(▲最大12.8%程度)
つまり、
税率 − 配当控除 = 実効税率
という関係になります。
低所得者に有利となる理由
課税所得が低い場合、総合課税の税率は5%~10%程度にとどまります。
このとき、
・所得税率が低い
・配当控除が相対的に大きい
という構造により、実効税率は大きく下がります。
場合によっては、源泉徴収された税額の一部が還付されることもあります。
高所得者に不利となる理由
一方で、課税所得が高くなると状況は逆転します。
・所得税率が20%~45%に上昇
・配当控除の効果が相対的に小さくなる
結果として、
高い税率 − 固定的な控除
となり、実効税率は20.315%を上回るケースが多くなります。
この場合、申告不要制度や申告分離課税の方が有利になります。
配当控除の「限界」
配当控除は万能ではありません。その理由は次の通りです。
控除率が固定である
税率は累進的に上がる一方で、配当控除は一定割合にとどまります。
そのため、所得が高くなるほど効果は薄れます。
住民税との関係
住民税でも配当控除はありますが、税率構造が異なるため、期待通りの効果が出ない場合があります。
また、住民税で申告不要制度を選択することで、税負担を調整できるケースもあります。
社会保険料への影響
総合課税を選択すると、所得が増加するため、
・国民健康保険料
・後期高齢者医療保険料
などが上昇する可能性があります。
この影響は配当控除では調整できません。
実務での判断ポイント
配当控除を使うべきかどうかは、次の観点で判断します。
・課税所得が低いか高いか
・配当以外の所得構造
・社会保険料への影響
特に重要なのは、「税額だけで判断しない」ことです。
ケース別の整理
ケース① 課税所得が低い
総合課税+配当控除が有利
還付が発生する可能性あり
ケース② 課税所得が中程度
ケースバイケース
配当額や他の所得との関係で判断
ケース③ 課税所得が高い
申告不要または申告分離課税が有利
配当控除の効果は限定的
結論
配当控除は確かに有効な制度ですが、「常に有利」とは限りません。
・低所得者には強い効果を持つ
・高所得者には効果が限定的
・社会保険料には影響を及ぼさない
という特性を持っています。
したがって、配当控除の有無だけで判断するのではなく、
・実効税率
・所得全体の構造
・社会保険料への影響
を総合的に考慮することが重要です。
配当課税の最適解は、制度の理解ではなく「組み合わせの設計」によって決まります。
参考
・日本FP協会 Journal of Financial Planning 2026年4月号
・国税庁 配当控除に関する資料(令和6年改訂)