資産運用が一般化する中で、NISAと特定口座の両方を利用しているケースは少なくありません。
その一方で、相続時の取り扱いについては制度ごとに違いがあり、混同されやすい分野でもあります。
本稿では、NISAと特定口座の相続における違いを、課税関係と実務の観点から整理します。
制度の前提の違い
まず前提として、NISAと特定口座は制度の目的が異なります。
NISAは、一定の範囲内で運用益を非課税とする制度です。
一方、特定口座は、証券会社が損益計算や税額計算を行うことで、納税手続きを簡素化する仕組みです。
この制度の違いが、そのまま相続時の取り扱いの差につながります。
相続時の基本的な取り扱い
相続時の基本的な整理は以下のとおりです。
・NISA口座:口座は終了し、資産のみ相続
・特定口座:口座は終了し、資産のみ相続
いずれも「口座そのもの」は引き継がれず、金融資産が相続人へ移管されます。
この点は共通していますが、重要なのはその後の課税関係です。
含み益に対する課税の違い
相続時点までの含み益の扱いは、両者とも共通しています。
いずれの場合も、被相続人の死亡時点までの含み益には所得税は課税されません。
これは、相続時に時価で取得したものとみなされるためです。
ただし、制度の背景は異なります。
・NISA:もともと非課税制度
・特定口座:相続により取得価額が時価にリセット
結果として同じ扱いになりますが、仕組みとしては別のものです。
相続後の課税関係の違い
最も重要な違いは、相続後の課税です。
NISAの場合、相続後は非課税の枠は引き継がれません。
そのため、移管後は課税口座(特定口座または一般口座)として扱われます。
一方、特定口座の場合は、そのまま特定口座として管理され、以後の売却益や配当については通常どおり課税されます。
つまり、相続後はいずれも課税される点では同じですが、
・NISA:非課税から課税へ切り替わる
・特定口座:もともと課税制度の延長
という違いがあります。
配当金・分配金の取り扱い
配当や分配金の扱いも整理しておく必要があります。
NISA口座では、生前に受け取った配当は非課税です。
しかし、相続後に受け取る配当は課税対象となります。
特定口座では、もともと課税対象であるため、相続後も同様に課税されます。
この点でも、NISAは相続を境に扱いが変わるのに対し、特定口座は一貫しています。
相続税の取り扱いは共通
相続税については、NISAと特定口座で違いはありません。
いずれも、死亡時点の時価で評価され、相続財産に含まれます。
非課税制度であるNISAであっても、相続税の対象となる点には注意が必要です。
実務上の違いと留意点
実務上の違いとして押さえておくべきポイントは以下のとおりです。
・NISAは非課税メリットが相続で終了する
・特定口座は制度上の連続性がある
・移管先は同一金融機関に限定される
・相続人の口座開設が必要になる場合がある
特にNISAについては、「非課税が続く」という誤解が多く、説明の際の注意が必要です。
制度比較の整理
NISAと特定口座の相続を比較すると、次のように整理できます。
・相続対象:いずれも資産のみ
・死亡時までの含み益:いずれも非課税
・相続後の運用益:いずれも課税
・制度の連続性:NISAは終了、特定口座は継続
・相続税:いずれも課税対象
見た目の結果は似ていますが、「なぜそうなるか」の理解が重要です。
結論
NISAと特定口座は、相続時の最終的な課税結果が似ている一方で、その構造は大きく異なります。
NISAは非課税制度が相続でリセットされる仕組みであり、特定口座は課税制度がそのまま引き継がれる形です。
この違いを理解することで、相続時の判断や説明の精度を高めることができます。
制度の表面的な違いだけでなく、その背景まで踏まえて整理しておくことが重要です。
参考
・国税庁 金融商品の相続に関する取扱い
・金融庁 少額投資非課税制度(NISA)の概要
・日本FP協会 金融資産の相続に関する解説資料