上場ファンドの代表格であるREITは、安定的な賃料収入を背景にした投資商品として位置づけられています。しかし実務の現場では、保有不動産の価値に対して投資口価格が割安な状態が長く続くケースが少なくありません。
本来、資産価値に裏付けられた投資対象であるにもかかわらず、なぜこのような価格乖離が生じるのでしょうか。本稿では、REITが割安に放置される構造的要因を整理します。
純資産価値と市場価格の乖離
REITの価値を測る基本指標は、保有不動産の時価から負債を差し引いた純資産価値です。理論上は、この価値が投資口価格の基準となるはずです。
しかし実際の市場では、投資口価格が純資産価値を下回る、いわゆるディスカウント状態が常態化しています。
この乖離は一時的な需給要因だけでなく、構造的な問題として理解する必要があります。
金利環境と相対評価の問題
REITはインカム収益を重視する投資商品であるため、金利環境の影響を強く受けます。
金利が上昇すると、債券などの安全資産との比較において相対的な魅力が低下します。また、借入金に依存するビジネスモデルであるため、資金調達コストの上昇も収益を圧迫します。
その結果、将来キャッシュフローの割引率が上昇し、理論価格自体が低下する方向に働きます。
成長性の制約と外部成長依存
REITは利益の大部分を分配することが求められるため、内部留保による再投資が難しい構造を持っています。
このため、成長は新規物件の取得、すなわち外部成長に依存することになります。しかし、投資口価格が割安な状態では増資による資金調達が困難となり、成長機会そのものが制約されます。
結果として、低成長が価格の低迷を招き、さらに成長が難しくなるという循環が生じます。
収益構造の単一性
REITの収益源は基本的に賃料収入に限定されます。
不動産は本来、サービス提供や運営の工夫によって収益を多様化できる資産ですが、制度上の制約によりその柔軟性が制限されています。
この収益構造の単一性は、投資家にとって成長余地の乏しさとして認識され、評価の低さにつながります。
投資家層の限定と需給の歪み
REIT市場は、株式市場に比べて投資家層が限定的です。
機関投資家は一定の割合で存在するものの、個人投資家の参加は限定的であり、流動性の面でも株式市場に劣ります。
その結果、売り圧力が強まった際に価格が下支えされにくく、割安状態が長期化する傾向があります。
ガバナンスと利益相反の問題
REITは運用会社により資産運用が行われる外部運用型の仕組みです。
この構造は専門性の確保というメリットを持つ一方で、運用会社と投資家の間に利益相反が生じる可能性を内包しています。
例えば、資産取得のタイミングや価格設定において、必ずしも投資家利益と一致しない意思決定が行われるリスクが指摘されています。
このようなガバナンス上の懸念も、評価のディスカウント要因となります。
制度設計が生む「割安の固定化」
これまで見てきた要因は相互に関連しています。
・金利上昇による評価低下
・外部成長依存による成長制約
・収益源の限定
・投資家層の偏り
・ガバナンスへの不信
これらが組み合わさることで、単なる一時的な割安ではなく、構造的なディスカウントが固定化される状態が生まれます。
制度改革の方向性
REITの評価改善には、制度面での見直しが不可欠です。
例えば、収益源の多様化を認めることで、不動産の価値創造の幅を広げることが考えられます。また、内部留保の一定程度の許容など、成長投資を可能にする仕組みの検討も必要です。
さらに、投資家層の拡大を促すための税制や制度の整備も重要な論点となります。
結論
REITが割安に放置される背景には、単なる市場の需給では説明できない構造的な問題が存在します。
制度設計に起因する成長制約と収益構造の硬直性が、価格のディスカウントを固定化させています。
ファンド市場の活性化を実現するためには、こうした構造に踏み込んだ制度改革が不可欠です。
参考
・日本経済新聞(2026年4月7日朝刊)
ファンド市場、制度改善が必要(私見卓見) 森・浜田松本法律事務所 外国法共同事業パートナー 尾本太郎