M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)費用の税務処理は、東京地裁判決により一定の判断軸が示されたものの、実務における判断負担は依然として大きいままです。
特に税務調査では、形式ではなく「実態」が問われます。
本稿では、DD費用について損金算入の可否を判断するための実務チェックリストを整理します。
判断の基本構造の再確認
前提として、DD費用の判断は次の構造で行われます。
- 株式取得の蓋然性が低い段階
→ 損金算入 - 株式取得の蓋然性が高い段階
→ 取得価額に算入
ただし、問題はこの「蓋然性」をどう立証するかにあります。
以下では、そのための具体的な確認ポイントを整理します。
チェック① 意思決定プロセスの段階整理
まず最も重要なのが、社内の意思決定プロセスです。
確認ポイント
- 初期検討か、最終意思決定直前か
- 投資委員会・取締役会での検討状況
- 買収の前提条件がどの程度固まっているか
実務対応
- 社内稟議書・議事録の保存
- 検討段階ごとの資料の時系列整理
ポイント
「いつ意思決定に近づいたのか」を説明できる状態にすることが重要です。
チェック② 契約・交渉の進捗状況
次に重要なのが、取引の進み具合です。
確認ポイント
- 基本合意(LOI)の有無
- 独占交渉権の付与
- 価格や条件の合意状況
実務対応
- 契約書・覚書の保管
- 交渉経緯の記録(メール等含む)
ポイント
交渉が具体化しているほど、「蓋然性が高い」と判断されやすくなります。
チェック③ 費用の性質の切り分け
DD費用は一括ではなく、内容ごとに判断する必要があります。
主な区分
- 情報収集費用
- 初期DD費用
- 詳細DD費用
- 契約交渉関連費用
- 成功報酬
実務対応
- 請求書レベルでの費用区分
- 委託契約書での業務内容の明確化
ポイント
同じDD費用でも、すべて同じ処理にしないことが重要です。
チェック④ 成功条件の有無
成功報酬か否かは、判断に大きく影響します。
確認ポイント
- 成約時のみ支払われる費用か
- 契約成立と直接連動しているか
実務対応
- 報酬体系の契約書の明示
- 固定報酬と成功報酬の区分
ポイント
成功報酬は原則として取得価額に該当しやすい傾向があります。
チェック⑤ 買収の不確実性の程度
蓋然性の判断の核心は「不確実性」です。
確認ポイント
- 他候補案件の存在
- 買収中止の可能性
- 条件未確定事項の多さ
実務対応
- 比較検討資料の保存
- 中止・見送りの検討記録
ポイント
「この時点ではまだ確定していなかった」という説明が重要になります。
チェック⑥ 第三者の関与内容
外部専門家の関与内容も判断材料となります。
確認ポイント
- 弁護士・会計士の業務範囲
- 初期調査か最終調整か
- 契約締結支援か否か
実務対応
- 業務委託契約書の明確化
- 作業内容の報告書の保存
ポイント
業務の内容が「意思決定支援」か「契約実行支援」かが分かれ目になります。
チェック⑦ 会計処理との整合性
税務と会計の整合性も重要です。
確認ポイント
- 会計上の費用処理との一致
- 資産計上している費用の範囲
実務対応
- 会計処理方針の文書化
- 税務との差異説明資料の作成
ポイント
税務だけ都合よく処理を変えると、調査で指摘されやすくなります。
税務調査での説明のポイント
実際の調査では、次の点が問われます。
- なぜその時点では買収が確定していなかったのか
- なぜその費用は意思決定段階の支出といえるのか
- なぜその費用は取得と直接結びつかないのか
したがって重要なのは、
「ストーリーとして説明できるか」
という点です。
結論
DD費用の税務処理は、今回の判決により形式基準から実態基準へと大きく転換しました。
しかしその結果、
- 判断はより柔軟になった一方で
- 企業側の説明責任は格段に重くなった
ともいえます。
今後の実務では、
- 費用の内容ごとの切り分け
- 意思決定プロセスの記録
- 時系列での説明資料の整備
が不可欠となります。
DD費用の処理は単なる会計処理ではなく、「意思決定の記録そのもの」であるという認識が求められます。
参考
日本経済新聞(2026年4月6日朝刊)
M&A調査費 どこまで課税
東京地裁、判断枠組み初めて示す 株取得の実現性で判断
日本経済新聞(2026年4月6日朝刊)
M&A調査費の実務への反映なお難しく