中小企業の経営者と話をしていると、
「事業承継はまだ先です」
という言葉をよく耳にします。
確かに業績が順調で健康にも問題がなければ、引退を考える必要性を感じないかもしれません。
しかし事業承継は、経営ができなくなってから考えるものではありません。
むしろ元気なうちに準備を始めることが重要です。
特に70代の経営者にとって、事業承継は経営課題であると同時に人生設計の問題でもあります。
では、いつから考えるべきなのでしょうか。
多くの経営者が考えるタイミング
一般的に経営者が事業承継を意識するのは、
体力の低下を感じた時
病気を経験した時
取引先から質問された時
金融機関から提案された時
といったきっかけが多いようです。
つまり、自分自身に変化が起きてから考え始めるケースが少なくありません。
しかし、その時点では準備期間が十分に取れない場合があります。
事業承継は相続対策とは異なり、数年から十年以上かけて進めるものだからです。
70歳はゴールではなく分岐点
昔であれば70歳は引退を考える年齢でした。
しかし人生100年時代と呼ばれる現在では事情が変わっています。
健康寿命も延び、多くの経営者が70代でも第一線で活躍しています。
そのため、
「70歳だから引退する」
という発想ではなく、
「70歳からどう経営に関わるか」
という発想が必要になります。
社長を退いて会長になる方法もあります。
後継者へ権限移譲しながら支援役に回る方法もあります。
経営から完全に離れるだけが事業承継ではありません。
承継に必要なのは時間
事業承継で最も重要な資源は何でしょうか。
私はお金ではなく時間だと思います。
後継者を育てるには時間が必要です。
取引先に信頼してもらうにも時間が必要です。
金融機関との関係を引き継ぐにも時間が必要です。
ところが高齢になってから慌てて準備を始めると、その時間が不足します。
だからこそ、元気なうちから少しずつ進めることが重要なのです。
突然のリスクは予測できない
経営者の中には、
「まだ健康だから大丈夫」
と考える方もいます。
もちろん健康は大切です。
しかし人生には予想できない出来事があります。
病気
事故
認知機能の低下
家族の事情
こうしたリスクは誰にも避けられません。
万一の事態が起きてからでは、会社も家族も大きな負担を抱えることになります。
事業承継は未来への備えでもあるのです。
後継者の立場で考える
経営者目線だけでなく、後継者の立場で考えることも大切です。
後継者は社長になった瞬間から経営者になれるわけではありません。
経験が必要です。
失敗も必要です。
そのためには、現経営者が見守る期間が必要になります。
後継者にとって理想的なのは、
「困った時に相談できる先代がいる状態」
です。
完全に引退する前に十分な引継ぎ期間を設けることが成功の秘訣です。
事業承継は引退計画ではない
事業承継という言葉から、
「会社を辞める準備」
をイメージする人がいます。
しかし本質は違います。
事業承継は会社を成長させ続けるための仕組みづくりです。
優秀な経営者ほど、自分がいなくなった後の会社まで考えています。
会社を長く存続させるためには、自分以外が経営できる体制をつくる必要があります。
それが事業承継の本当の目的です。
人生後半戦の経営者の役割
70代以降の経営者には独自の価値があります。
経験です。
人脈です。
判断力です。
一方で、デジタル技術や新市場への挑戦は若い世代の方が得意な場合もあります。
理想的なのは、
若い世代が経営を担い、
先代が経験を伝える
という役割分担です。
事業承継は世代交代ではなく世代協力ともいえるでしょう。
結論
70代経営者が事業承継を考えるべき時期は、
「経営できなくなった時」
ではありません。
「まだ十分に経営できる時」
です。
事業承継に必要なのは時間です。
後継者育成にも、取引先との信頼関係の承継にも、時間が欠かせません。
人生100年時代において事業承継は引退準備ではなく、会社の未来をつくる経営戦略です。
元気なうちに次世代へバトンを渡す準備を始めることこそ、優れた経営者の最後の大仕事なのではないでしょうか。
参考
令和8年度税制改正(中小企業・小規模事業者関係)の主な内容 中小企業庁財務課 令和8年5月29日
所長のミカタ 2026年6月20日閲覧