非上場株式の評価見直しにおいて、最も重要な論点の一つが類似業種比準方式の位置づけです。これまで同方式は、収益力を反映した合理的な評価方法として広く用いられてきましたが、有識者会議で指摘された評価圧縮スキームの多くが、この方式を前提として成立している点が注目されています。本稿では、類似業種比準方式の構造を整理したうえで、見直しの方向性と実務への影響を検討します。
類似業種比準方式の基本構造
類似業種比準方式は、評価対象会社の株価を、上場会社の指標を基準として算定する方法です。
主な特徴は以下の通りです。
- 配当
- 利益
- 純資産
といった複数の指標を用いて、類似業種の上場会社と比較することで株価を算定します。
この方式は、
- 収益力を反映できる
- 客観的な市場指標を用いる
という点で、理論的には合理性の高い評価方法とされています。
なぜスキームに利用されやすいのか
一方で、類似業種比準方式は構造的に「操作可能性」を内包しています。
① 指標のコントロールが可能
評価に用いられる指標は、企業内部の意思決定により影響を受けます。
- 配当の抑制
- 利益の調整
- 純資産の移転
これらを組み合わせることで、評価額を意図的に低くすることが可能になります。
② 適用区分の選択余地
非上場会社の評価では、
- 類似業種比準方式
- 純資産価額方式
のいずれを用いるかは会社規模等により決定されますが、実務上は区分の調整余地が存在します。
例えば、
- 資産を外部へ移転し小規模会社化する
- 収益構造を調整する
ことで、より有利な評価方式へ誘導することが可能となります。
③ グループ内再編との親和性
有識者会議で示されたスキームの中でも、
- 資産を子会社・孫会社へ移転
- 評価対象会社の純資産を圧縮
といった手法は、最終的に類似業種比準方式の適用と組み合わせることで効果を最大化します。
つまり、同方式は「評価圧縮の最終出口」として機能している側面があります。
見直しが議論される背景
今回の見直しの背景には、評価ロジックと経済実態の乖離があります。
本来、類似業種比準方式は、
- 企業の収益力を反映する
- 市場との比較により合理的な価格を導く
ことを目的としています。
しかし実務では、
- 収益力を意図的に低く見せる
- 資産を外部に移転する
といった行為により、「実態より低い株価」が算定されるケースが存在します。
この結果、
- 課税の公平性が損なわれる
- 実質的な事業承継が税負担なく行われる
といった問題が生じています。
想定される見直しの方向性
有識者会議の議論を踏まえると、類似業種比準方式の見直しは避けられないと考えられます。
① 指標の補正強化
- 一時的な利益操作の排除
- 異常値の補正
- 平均値の採用期間の見直し
などにより、恣意的な操作を抑制する方向が想定されます。
② グループ内取引の反映
- 資産移転前の状態を基準とする
- グループ全体での収益力を考慮する
といった形で、形式的な会社単体の数値に依存しない評価が検討される可能性があります。
③ 適用区分の見直し
- 会社規模区分の厳格化
- 小規模会社の範囲の見直し
により、評価方式の選択余地を縮小する方向が考えられます。
④ 純資産価額方式との関係整理
類似業種比準方式と純資産価額方式の使い分け自体が再検討され、
- 収益力と資産価値のバランス
- 実態に即した評価方法の選択
といった観点から統合的な評価体系が構築される可能性もあります。
実務への影響
類似業種比準方式の見直しは、非上場株式評価実務に直接的な影響を与えます。
影響が大きい領域
- 持株会社を活用した承継スキーム
- 資産管理会社の設計
- グループ内再編による株価調整
実務上の対応視点
今後は以下の視点が重要になります。
- 評価引下げを目的とした設計の見直し
- 収益力と評価額の整合性の確保
- グループ全体での経済合理性の検証
従来のように「評価方法の選択」で最適化する発想は通用しにくくなります。
結論
類似業種比準方式は、非上場株式評価の中核を担う重要な評価手法ですが、その構造上、操作可能性という課題を抱えています。
今回の見直しは、
- 評価手法の修正にとどまらず
- 評価ロジックそのものの再構築
につながる可能性があります。
今後の実務においては、
- 形式的な評価指標の操作ではなく
- 経済実態に即した企業価値の把握
がより重要になると考えられます。
評価は単なる計算ではなく、企業の実態をどのように捉えるかという制度設計の問題です。類似業種比準方式の見直しは、その本質を問い直す動きとして位置づけるべきでしょう。
参考
税のしるべ 2026年5月4日号
「取引相場のない株式の評価の有識者会議が評価額の圧縮スキームを示す、利用を排除する仕組み構築へ」