非上場株式の評価見直しは、単独の論点にとどまりません。とりわけ大きな影響を受けるのが、事業承継税制です。事業承継税制は、非上場株式の評価額を前提として納税猶予・免除を行う制度であるため、評価ルールの変更は制度の前提そのものを揺るがします。本稿では、両者の関係構造を整理したうえで、今後の制度連動の方向性と実務への影響を検討します。
事業承継税制の基本構造
事業承継税制は、一定の要件のもとで、
- 非上場株式に係る相続税・贈与税の納税を猶予
- 一定期間の継続要件を満たせば最終的に免除
する制度です。
この制度の本質は、
- 事業の継続を優先するため
- 一時的な納税負担を繰り延べる
点にあります。
しかし、その適用対象となる株式価値は、あくまで財産評価基本通達に基づいて算定されます。
評価制度との不可分な関係
事業承継税制は、評価制度と強く結びついています。
具体的には、
- 評価額が低いほど猶予税額は小さくなる
- 評価額が高いほど制度利用の必要性が高まる
という関係にあります。
このため実務上は、
- 株価を引き下げたうえで制度を適用する
という二段階の設計が行われるケースが少なくありません。
現行実務の特徴―評価と制度の組み合わせ
これまでの実務では、
- グループ内再編
- 種類株式の活用
- 配当政策の調整
などにより株価を引き下げ、そのうえで事業承継税制を適用することで、
- 納税負担の最小化
- 実質的な無税承継
が可能となるケースが存在してきました。
この構造は、
- 評価制度の柔軟性
- 事業承継税制の強力な優遇
が組み合わさることで成立しています。
今回の見直しが意味するもの
有識者会議で示された方向性は、この構造に直接影響を与えます。
特に重要なのは、
- 評価圧縮スキームの排除
- 評価方法の明確化
という点です。
これにより、
- 意図的な株価引下げが困難になる
- 評価額が実態に近づく
ことが想定されます。
制度連動の変化―何が起きるのか
評価制度の見直しは、事業承継税制に対して以下の影響をもたらします。
① 猶予税額の増加
評価額が引き上げられる場合、
- 猶予対象となる税額が増加
- 制度適用時のリスクが拡大
する可能性があります。
特に、将来の要件未達成時には、
- 多額の税負担が一括で顕在化
する点に注意が必要です。
② 制度利用の必要性の変化
従来は、
- 評価を下げたうえで制度を利用する
という発想が一般的でしたが、今後は、
- 評価が高止まりする前提で制度を利用する
方向に変化する可能性があります。
③ 制度設計の再検討
評価見直しが進む場合、
- 事業承継税制自体の要件
- 適用範囲や負担調整
についても見直しが行われる可能性があります。
例えば、
- 猶予割合の調整
- 適用対象企業の範囲見直し
といった議論に発展することも考えられます。
実務への影響
今回の変化は、事業承継実務における意思決定の前提を大きく変えます。
従来の実務
- 評価引下げを前提にスキーム設計
- 制度適用で最終的な税負担を最小化
今後の実務
- 評価の引下げ余地を前提としない設計
- 制度利用のリスクとリターンの精査
実務チェックポイント
今後の対応として、以下の点が重要となります。
- 評価額上昇を前提とした資金計画の見直し
- 納税猶予に依存しすぎない承継設計
- 継続要件違反時のリスク分析
- 株価と企業価値の整合性の検証
制度の本質的再定義
今回の見直しは、単なる制度の微修正ではなく、
- 評価制度と事業承継税制の関係そのもの
を再定義する動きと捉えることができます。
これまでのように、
- 評価を操作し
- 制度を組み合わせる
というアプローチから、
- 実態に即した評価を前提に
- 制度で事業継続を支える
という本来の姿への回帰が求められています。
結論
非上場株式評価の見直しは、事業承継税制の実務に直接的かつ広範な影響を及ぼします。
今後は、
- 評価と制度を分けて考えるのではなく
- 両者を一体として設計する
視点が不可欠になります。
制度の活用は引き続き重要ですが、その前提となる評価のあり方が変わる以上、承継戦略そのものの再構築が求められる段階に入ったといえるでしょう。
参考
税のしるべ 2026年5月4日号
「取引相場のない株式の評価の有識者会議が評価額の圧縮スキームを示す、利用を排除する仕組み構築へ」