2027年度の概算要求が締め切られた2026年8月31日、新発10年物国債の利回りは一時2.950パーセントまで上昇しました。
約30年ぶりの高い水準です。
長期金利は住宅ローンや企業の借入金利にも影響するため、私たちの生活とも関係があります。
しかし長期金利は、政府の財政とも深くつながっています。
政府が歳出を大幅に増やす。
その財源として国債を大量に発行する。
将来も政府債務が増え続けるのではないかと投資家が警戒する。
国債を売る投資家が増える。
国債価格が下がる。
国債利回りが上がる。
このような経路で、財政への警戒が長期金利上昇につながることがあります。
そして金利が上がれば、今度は政府の国債利払い費が増える可能性があります。
財政悪化が金利を押し上げ、金利上昇がさらに財政を圧迫する可能性があるのです。
長期金利とは何か
長期金利とは、一般に期間の長い資金を貸し借りするときの金利です。
日本では代表的な指標として、新発10年物国債の利回りが使われます。
政府が発行する10年国債が市場で売買され、その価格によって利回りが変化します。
長期金利は、
日本銀行の金融政策
物価上昇率
景気
賃金
海外の金利
国債の需給
政府の財政運営
など、さまざまな要因によって動きます。
したがって長期金利が上昇したからといって、その原因をすべて財政政策に求めることはできません。
それでも政府の財政に対する投資家の評価は、長期金利を左右する重要な要素の一つです。
国債価格と利回りは反対に動く
長期金利を理解するために最も重要なのが、
国債価格が下がると利回りが上がる
という関係です。
例えば額面100万円で、年間2万円の利子を受け取れる国債があるとします。
100万円で購入すれば、単純化した利回りは2パーセントです。
ところが市場でこの国債の価格が80万円まで下がったとします。
年間2万円の利子を受け取れる点が同じなら、80万円で購入した投資家から見た収益率は高くなります。
反対に国債価格が上昇すれば利回りは低下します。
つまり、
国債が買われる
国債価格が上がる
利回りが下がる
という関係になります。
逆に、
国債が売られる
国債価格が下がる
利回りが上がる
という関係になります。
ニュースで、
国債が売られて長期金利が上昇した
と表現されるのはこのためです。
なぜ財政悪化への警戒で国債が売られるのか
では、なぜ政府の財政悪化が警戒されると国債が売られる可能性があるのでしょうか。
政府が大規模な財政支出を続け、その財源として国債発行を増やすとします。
市場では、
今後さらに国債発行が増えるのではないか
政府債務が膨らみ続けるのではないか
インフレ圧力が強くなるのではないか
将来の財政運営は持続可能なのか
といった見方が出る可能性があります。
さらに国債の供給量が増えると考える投資家が増えれば、現在保有している国債を売ろうとする場合があります。
国債価格が下落すれば、利回りは上昇します。
財政への警戒が長期金利へ波及する一つの経路です。
国債が増えれば必ず金利が上がるわけではない
ただし、
国債発行が増えると必ず長期金利が上昇する
という単純な関係ではありません。
国債に対する需要が十分に強ければ、大量に発行しても市場が吸収できる場合があります。
景気が悪く、民間企業の資金需要が弱い場合には、国債へ資金が集まりやすくなることもあります。
日本銀行の金融政策も大きく影響します。
物価上昇率が低ければ、低い金利でも国債を保有する合理性があります。
反対に物価上昇率が高まれば、投資家はより高い利回りを求める可能性があります。
財政は長期金利を決める一つの要因ですが、それだけで長期金利が決まるわけではありません。
インフレへの警戒も長期金利につながる
積極財政と長期金利の関係では、インフレも重要です。
政府が大規模な財政支出を行えば、経済全体の需要を押し上げる可能性があります。
景気が弱いときには、それが経済を支える効果を持ちます。
しかし供給能力が十分でない状態で需要だけが強くなれば、物価上昇を加速させる可能性があります。
投資家が将来のインフレ率上昇を予想すれば、低い利回りの国債を持つ魅力が低下します。
例えば物価が毎年3パーセント上昇しているのに、国債利回りが1パーセントしかなければ、実質的な購買力は低下します。
そのため投資家がより高い利回りを求めるようになり、長期金利が上昇する場合があります。
財政政策は国債発行量だけでなく、インフレ期待を通じても長期金利に影響する可能性があるのです。
2027年度概算要求が注目される理由
2027年度の概算要求は143兆円前後となりました。
2026年度の概算要求122.4兆円を大幅に上回り、過去最大です。
ただし、これまで補正予算に計上していた経費を当初予算へ移す方針もあるため、単純に20兆円以上の新しい歳出が増えるという意味ではありません。
2025年度補正予算と2026年度当初予算を合わせた140.6兆円と比較すると、143兆円前後は2兆円から3兆円程度上回る水準です。
それでも市場が注目するのは、143兆円という要求額だけではありません。
成長投資や危機管理投資の要求上限が撤廃されています。
さらに金額を示さない事項要求もあります。
そのため最終的な歳出規模がどこまで膨らむのか、概算要求の段階では完全には分かりません。
事項要求が市場から注目される理由
事項要求では、政策項目を要求しながら具体的な金額を年末の予算編成過程で決めることができます。
例えば防衛分野では、一部の装備開発などが事項要求となっています。
経済産業分野でもAI、半導体、防衛、スタートアップなどの支援に事項要求があります。
つまり概算要求143兆円という数字を見ても、最終的な歳出上限が完全に見えているわけではありません。
市場から見れば、
最終的にいくらの予算になるのか
税収でどこまで賄えるのか
国債をいくら発行するのか
が重要です。
金額未定の政策が多ければ、年末の政府予算案まで財政規模を見極めにくくなります。
新規国債発行額40兆円程度が重要になる
政府は2027年度の新規国債発行額を40兆円程度に抑える方針です。
比較対象となる2025年度補正予算と2026年度当初予算を合わせた新規国債発行額は41.3兆円でした。
成長投資を増やしながら新規国債発行を大きく増やさないことができれば、財政への市場の警戒を抑える材料になる可能性があります。
一方、歳出が想定以上に膨らみ、税収などで十分に賄えず、国債発行が大幅に増えることになれば、市場の見方が変わる可能性があります。
だからこそ概算要求143兆円だけでなく、
最終的な歳出
税収
新規国債発行額
をセットで見る必要があります。
金利が上がると政府の利払い費が増える
財政と長期金利の関係で重要なのは、影響が一方向ではないことです。
財政への警戒によって長期金利が上昇する可能性があります。
そして長期金利が上昇すると、今度は財政に影響します。
政府は毎年、新しい国債を発行します。
さらに満期を迎えた国債を借換債によって借り換えます。
金利が上昇していれば、新規発行や借り換えの際に高い金利で資金を調達することになります。
すると政府の利払い費が徐々に増えていきます。
2027年度の財務省所管の概算要求では、国債費が36兆6386億円となっています。
政府債務が巨額になっている日本では、金利上昇が続けば国債費がさらに膨らむ可能性があります。
財政悪化と金利上昇が循環する可能性
ここに財政運営の難しさがあります。
例えば、
財政支出が増える
国債発行が増える
市場が財政を警戒する
国債が売られる
長期金利が上昇する
政府の利払い費が増える
財政赤字がさらに拡大する
という循環が生まれる可能性があります。
利払い費が増えた分をさらに国債で賄えば、政府債務が増えます。
その結果、市場がさらに高い金利を求めるようになれば、財政への負担が一段と大きくなります。
必ずこの循環が起こるわけではありません。
しかし政府債務が大きく、金利が上昇している状況では、こうしたリスクを考える必要があります。
反対に成長すれば好循環もあり得る
一方、積極財政が必ず財政悪化につながるわけでもありません。
政府が成長分野へ効果的に投資したとします。
AIや半導体などへの投資が民間投資を呼び込む。
企業の生産性が高まる。
企業利益が増える。
賃金が上昇する。
経済規模が拡大する。
税収が増える。
こうした流れが生まれれば、政府債務が多少増えても、経済全体に対する債務負担を抑えられる可能性があります。
税収増によって新規国債発行を減らすこともできます。
つまり、
国債を発行したかどうか
だけで政策を評価することはできません。
国債によって調達した資金が、将来の経済成長や税収増につながる使い方になっているかが重要です。
市場の信認とは何か
政府の財政運営でよく使われる言葉に、市場の信認があります。
市場の信認とは、単純に国債残高が少ないことだけを意味するものではありません。
投資家が、
この国は将来も安定して国債を管理できる
経済成長によって税収を確保できる
必要なら歳出や歳入を調整できる
国債の元利払いを安定して続けられる
と判断できることが重要です。
積極財政を進める場合でも、
なぜこの支出が必要なのか
どのような成長効果があるのか
財源をどう確保するのか
中長期的に債務をどう管理するのか
を説明できれば、市場の受け止め方も変わります。
金額だけではなく、財政運営への信頼が問われます。
長期金利上昇は家計や企業にも波及する
長期金利上昇の影響は政府だけにとどまりません。
住宅ローンの固定金利に影響することがあります。
企業が長期資金を借りる際の金利にも影響します。
企業が社債を発行するときの調達コストも上昇する可能性があります。
その結果、
住宅購入の負担が増える
企業の設備投資が減る
企業利益が圧迫される
といった影響が生じる可能性があります。
つまり財政への市場の警戒が長期金利上昇につながれば、その影響は政府の利払い費だけではなく、民間経済にも広がります。
財政政策と金融市場、実体経済はつながっているのです。
長期金利が上がっただけで財政不安とは判断できない
一方で、長期金利の上昇をすべて財政不安と結びつけるのも適切ではありません。
例えば経済が力強く成長し、賃金や物価が正常に上昇するようになれば、長期金利が上昇することがあります。
これは経済正常化に伴う金利上昇とも考えられます。
日本銀行の金融政策変更によって長期金利が動くこともあります。
米国など海外の金利上昇が日本へ波及することもあります。
重要なのは、
なぜ金利が上昇しているのか
を見ることです。
成長期待による金利上昇なのか。
インフレ懸念なのか。
金融政策の変化なのか。
財政悪化への警戒なのか。
同じ2.950パーセントという数字でも、その背景によって意味は違います。
年末の政府予算案が重要になる
2027年度予算は、まだ概算要求の段階です。
143兆円前後がそのまま歳出になるわけではありません。
今後、財務省による査定が進みます。
事項要求の具体的な金額も決まります。
税収見通しも精査されます。
そして年末に政府予算案がまとまります。
市場が注目するのは、
最終的な歳出はいくらか
新規国債発行額を40兆円程度に抑えられるのか
成長投資の中身に十分な効果が期待できるのか
中長期的な財政運営に整合性があるのか
という点です。
概算要求143兆円はゴールではなく、財政と市場の対話が本格化する出発点なのです。
結論
長期金利と財政は、国債を通じてつながっています。
国債価格と利回りは反対方向に動きます。
国債が売られて価格が下落すれば、利回りは上昇します。
政府が大規模な財政支出を続け、国債発行が増えるとの見方が強まれば、市場が財政の持続可能性やインフレを警戒する場合があります。
その結果として国債が売られれば、長期金利が上昇する可能性があります。
そして長期金利が上昇すると、今度は新規国債や借換債の発行を通じて政府の利払い費が徐々に増えていきます。
財政への警戒が金利を上げ、金利上昇が財政を圧迫するという循環が生じる可能性があるのです。
ただし国債発行が増えれば必ず金利が上がるわけではありません。
長期金利は金融政策、物価、景気、海外金利、国債の需給など多くの要因によって決まります。
また国債で調達した資金を有効な成長投資に使い、経済成長や税収増につなげることができれば、財政の持続可能性を高める可能性もあります。
2027年度概算要求143兆円前後を見るときに重要なのは、数字が大きいか小さいかだけではありません。
その支出がどのような経済効果を生むのか。
税収でどこまで賄えるのか。
新規国債発行額をどこまで抑えられるのか。
そして市場が政府の財政運営をどのように評価するのか。
財政と長期金利の関係を理解すると、国の予算が単なる政府内部のお金の話ではなく、住宅ローンや企業投資を含む日本経済全体につながっていることが見えてきます。
参考
日本経済新聞 2026年9月1日朝刊 概算要求、143兆円前後 「天井」廃止で過去最大
日本経済新聞 2026年9月1日朝刊 概算要求最大「143兆円」、市場警戒解かず
日本経済新聞 2026年9月1日朝刊 上限撤廃、強まる官邸裁量
日本経済新聞 2026年9月1日朝刊 概算要求 財務省との議論本格化