相続や認知症対策について調べていると、「配偶者居住権」と「家族信託」という言葉を目にする機会が増えています。
どちらも財産を守るための制度ですが、その目的や活用する場面は大きく異なります。
「どちらか一方を選べばよい」というものではなく、それぞれの特徴を理解し、家族の状況に応じて使い分けることが大切です。
今回は、配偶者居住権と家族信託の違いと、それぞれがどのような場面で役立つのかを考えてみます。
配偶者居住権は住まいを守る制度
配偶者居住権は、相続が発生した後に、残された配偶者が住み慣れた自宅に安心して住み続けられるようにするための制度です。
住む権利と所有する権利を分けることで、配偶者は自宅での生活を続けながら、預貯金など他の財産も受け取りやすくなります。
つまり、制度の目的は「配偶者の生活を守ること」にあります。
相続後の生活基盤を確保するための制度であり、相続が始まって初めて活用される仕組みです。
家族信託は財産管理を続ける制度
一方、家族信託は財産を管理・運用する仕組みです。
例えば、親が元気なうちに自宅や賃貸不動産などを信託し、子どもなどの受託者が管理を担う契約を結びます。
その結果、親が認知症などで判断能力が低下した後も、契約で定めた内容に従って財産管理を継続できます。
つまり、家族信託の目的は「財産管理を止めないこと」にあります。
相続後ではなく、生前から利用する制度であることが大きな特徴です。
利用するタイミングが違う
両制度の最も大きな違いは、活用する時期です。
配偶者居住権は、被相続人が亡くなった後の相続で利用します。
一方、家族信託は、本人が元気で判断能力があるうちに契約を結びます。
つまり、配偶者居住権は「相続後」の制度であり、家族信託は「相続前」の制度です。
この違いを理解すると、それぞれの役割が見えてきます。
目的も大きく異なる
配偶者居住権が守ろうとしているのは、配偶者の住まいです。
一方、家族信託が守ろうとしているのは、財産管理の継続です。
例えば、賃貸不動産を所有している場合、認知症になると新たな賃貸契約や大規模修繕、売却などが難しくなることがあります。
家族信託を利用していれば、受託者が契約に基づいて管理を続けることができます。
このように、両制度は目的が重なるのではなく、補い合う関係にあります。
組み合わせることで効果が高まる場合もある
配偶者居住権と家族信託は、どちらか一方しか使えない制度ではありません。
例えば、生前は家族信託で財産管理を行い、相続後は配偶者居住権を活用して配偶者の住まいを守るという設計も考えられます。
家族構成や財産の内容によっては、それぞれの制度を組み合わせることで、認知症対策と相続対策の両方を実現できる場合があります。
制度を単独で考えるのではなく、全体の財産承継の中で位置付けることが重要です。
家族で早めに話し合うことが重要
どちらの制度も、家族が十分に話し合うことが前提になります。
誰が財産を管理するのか。
配偶者は住み続けたいと考えているのか。
将来、自宅を売却する可能性はあるのか。
こうしたことを元気なうちから共有しておけば、制度をより有効に活用できます。
制度は、家族の思いを実現するための道具です。
その道具を生かすためには、家族の意思を確認することが欠かせません。
結論
配偶者居住権と家族信託は、どちらも大切な財産と家族を守る制度ですが、その目的と活用するタイミングは大きく異なります。
配偶者居住権は、相続後に配偶者の住まいを守る制度です。
家族信託は、生前から財産管理を継続するための制度です。
それぞれの役割を理解し、家族の状況や財産の内容に応じて使い分けることで、より安心できる財産承継が実現します。
相続対策も認知症対策も、一つの制度だけですべてを解決できるわけではありません。
複数の制度を適切に組み合わせながら、家族全員が安心できる未来を設計することが、これからの財産管理に求められる視点といえるでしょう。
参考
法務省
配偶者居住権に関する民法改正の概要
法務省
民事信託(家族信託)の活用に関する資料