「賃上げをしなければ人が採れない。しかし、賃上げをするほど利益が出ない。」
いま、多くの中小企業がこのジレンマに直面しています。
2026年春闘では全体の賃上げ率が5%を超えた一方で、中小企業は4.69%にとどまりました。連合が掲げた6%以上という目標には2年連続で届きませんでした。
数字だけを見ると「あと少し」に思えるかもしれません。しかし、その差は決して小さくありません。
なぜなら、その背景には日本の中小企業が抱える構造的な課題があるからです。
今回は、中小企業の賃上げがなぜ難しいのか、そしてこれから経営者が本当に取り組むべきことについて考えてみたいと思います。
賃上げはコストではなく投資である
賃上げは従業員にとって嬉しい出来事です。
しかし経営者にとっては固定費の増加でもあります。
一度上げた給与は簡単には下げられません。
だからこそ、多くの中小企業では利益が十分に出ない限り大胆な賃上げに踏み切れないのです。
近年は人手不足が深刻化し、「利益が出てから賃上げする」という順番では人材を確保できなくなっています。
その結果、
先に賃上げを行い、
後から利益を確保しようとする企業も少なくありません。
しかし、この状態が長く続けば企業体力は確実に低下します。
賃上げは投資ですが、その投資を回収できる経営が必要なのです。
価格転嫁できない企業は苦しくなる
今回の記事でも大きな課題として挙げられていたのが価格転嫁です。
原材料費や人件費が上昇しても、そのコストを販売価格へ十分に反映できない企業は少なくありません。
価格を上げれば取引先を失うかもしれない。
競合他社との競争に負けるかもしれない。
そんな不安から値上げをためらう企業も多いでしょう。
しかし、
価格転嫁できないということは、
利益を削って賃上げをしていることになります。
それでは長続きしません。
価格転嫁は「値上げ」ではなく、「適正価格への見直し」と考えることが重要です。
利益率の差が賃金格差になる
記事では大企業の経常利益率が10%を超えている一方で、中小企業は約5%でした。
利益率が半分なら、賃上げ余力も半分になります。
つまり、
賃金格差は利益率の格差でもあるのです。
ここで重要なのは売上を増やすことだけではありません。
利益率を高めることです。
利益率を改善できれば、
同じ売上でも賃上げできる企業になります。
そのためには、
・付加価値の高い商品づくり
・利益率の高い顧客への転換
・不要な業務の削減
・DXによる効率化
など、利益構造そのものを変える必要があります。
生産性向上こそ最大の賃上げ対策
政府も中小企業の生産性向上を重視しています。
当然のことです。
生産性が上がれば、
一人当たりが生み出す利益が増えます。
利益が増えれば、
自然と賃上げも可能になります。
つまり、
賃上げと生産性は車の両輪なのです。
人手不足だから人を増やす。
ではなく、
人手不足だから生産性を高める。
この発想への転換が必要になります。
DXは人を減らすためではなく価値を高めるため
DXというと、
「人を減らすためのもの」
と思われがちです。
しかし本来は違います。
単純作業をAIやシステムに任せ、
社員はより付加価値の高い仕事へ集中する。
これがDXの本来の姿です。
例えば、
請求書処理
経費精算
給与計算
在庫管理
受発注
こうした業務を効率化すれば、
社員は営業や企画、顧客対応など利益を生む仕事へ時間を使えます。
DXとは人件費削減ではなく、
人材価値を最大化する経営改革なのです。
人材への投資が企業価値を高める
これからの時代、
企業が競争するのは設備だけではありません。
人材です。
給与だけではなく、
教育
資格取得支援
働きやすい環境
柔軟な働き方
こうした人的投資が企業価値を高めます。
社員が成長すれば、
企業も成長します。
企業が成長すれば、
さらに賃上げができる。
この好循環を作れる企業が強い企業になるのです。
経営者が見るべき数字は売上より付加価値
多くの経営者は売上ばかり気にします。
もちろん売上は重要です。
しかし、
社員の給与を支払うのは売上ではありません。
利益でもありません。
本当は付加価値です。
一人当たりがどれだけ価値を生み出したか。
その数字が将来の賃金を決めます。
付加価値を高める経営こそ、
中小企業が持続的に賃上げを続ける唯一の道なのではないでしょうか。
結論
中小企業の賃上げが伸び悩んでいる背景には、価格転嫁の難しさや収益力の弱さ、生産性の課題があります。
しかし、それは悲観すべきことではありません。
裏を返せば、価格戦略の見直しや付加価値の向上、DXの活用、人材への投資によって改善できる余地がまだ大きく残されているということでもあります。
これからの経営では、「賃上げをするために利益を増やす」のではなく、「利益が自然に生まれる仕組みをつくり、その結果として賃上げが続く企業」を目指すことが重要です。
持続的な賃上げは、一時的な景気対策ではなく、企業の競争力そのものを高める経営改革の成果なのです。
参考
日本経済新聞(2026年7月4日 朝刊)
中小賃上げ「6%」届かず 2年連続、目標実現に壁 春季交渉、連合最終集計で4.69% 足りぬ価格転嫁・収益力