認知症になると銀行口座はどうなるのか(資産凍結編)

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人生100年時代と言われる現在、老後資金への関心は年々高まっています。

しかし、多くの人が見落としがちな問題があります。

それは、「認知症になると、自分の預金を自由に使えなくなる可能性がある」という問題です。

高齢化の進行によって、日本では認知機能が低下した高齢者が保有する金融資産が急増しています。慶應義塾大学の推計では、その規模は260兆円にも達するとされています。

この問題は単なる介護問題ではありません。

「老後資産が実質的に凍結される社会」が始まりつつあるとも言えるのです。

銀行口座は自動的に凍結されるのか

よく、「認知症になると銀行口座は凍結される」と言われます。

しかし、法律上、認知症になっただけで自動的に凍結されるわけではありません。

問題は、銀行が「本人の意思確認ができない」と判断することです。

銀行は預金者本人の財産を守る義務があります。

そのため、

  • 判断能力が著しく低下している
  • 不自然な出金がある
  • 家族が代理操作している疑いがある
  • 窓口で意思疎通が難しい

などの場合、銀行は取引を制限することがあります。

特に近年は、高齢者を狙った特殊詐欺や親族による資産流用問題が増えているため、金融機関は慎重姿勢を強めています。

つまり、「本人保護」の結果として、預金が動かせなくなるケースが増えているのです。

家族でも自由に引き出せない

多くの人が誤解していますが、家族であっても本人名義の預金を自由に引き出せるわけではありません。

たとえ子どもであっても、

  • キャッシュカードを使う
  • 暗証番号を知っている
  • 通帳を預かっている

というだけでは、法的権限があるとは限りません。

認知症が進行した後に家族が預金を動かすと、

  • 本人意思が確認できない
  • 財産管理権限が不明
  • 他の相続人とのトラブル

などの問題が発生します。

結果として、銀行側が出金を止めるケースがあります。

これは「家族だから大丈夫」という時代ではなくなっていることを意味します。

「生活費が払えない」が現実に起きる

資産凍結問題で最も深刻なのは、実生活への影響です。

例えば、

  • 介護施設費用
  • 医療費
  • 家賃
  • 公共料金
  • 日常生活費

などの支払いができなくなる場合があります。

預金残高が十分にあるにもかかわらず、「引き出せない」という事態が起きるのです。

特に単身高齢者では深刻です。

家族が遠方に住んでいたり、そもそも身寄りがなかったりするケースも増えています。

つまり、資産があるのに生活維持が困難になるという逆説が生じます。

成年後見制度は万能ではない

こうした場合に利用される代表的制度が成年後見制度です。

家庭裁判所が選任した後見人が、本人に代わって財産管理を行います。

しかし現実には、多くの課題があります。

手続が重い

  • 家庭裁判所への申立て
  • 医師の診断書
  • 親族関係資料
  • 財産目録作成

などが必要になります。

費用負担が継続する

後見人に専門職が選ばれると、毎月報酬が発生します。

資産額によっては年間数十万円になることもあります。

柔軟な資産運用が難しい

後見制度は「財産保全」が中心です。

そのため、

  • 積極的投資
  • 相続対策
  • 生前贈与
  • 不動産活用

などには制約が強くなります。

つまり、「守る制度」ではあっても、「活用する制度」ではない側面があります。

家族信託への関心が高まる理由

近年、資産凍結対策として注目されているのが家族信託です。

例えば、

  • 親を委託者
  • 子どもを受託者

として契約を結び、認知機能低下後も子どもが財産管理を継続できるようにします。

成年後見制度より柔軟な設計が可能で、

  • 不動産管理
  • 賃貸経営
  • 資産承継

などにも対応しやすい特徴があります。

ただし、家族信託も万能ではありません。

  • 契約設計ミス
  • 税務問題
  • 受託者暴走リスク
  • 家族間対立

などの課題があります。

また、認知症発症後では契約自体が難しくなる場合があります。

つまり、「元気なうちに準備する」ことが極めて重要になります。

「老後資産」の意味が変わっている

これまで老後資産とは、

  • いくら貯めるか
  • どれだけ増やすか

が中心テーマでした。

しかしこれからは、

  • 誰が管理するのか
  • 判断能力低下時にどうするのか
  • 詐欺被害をどう防ぐのか
  • 家族間トラブルをどう避けるのか

まで含めて考える必要があります。

つまり、老後問題は「資産形成」から「資産管理設計」の時代へ移行し始めているのです。

金融機関は「福祉インフラ化」するのか

この問題は銀行にも大きな変化を迫ります。

今後の銀行には、

  • 認知機能低下への対応
  • 家族との調整
  • 不正送金防止
  • 成年後見対応
  • 福祉機関との連携

など、従来とは異なる役割が求められます。

つまり銀行は単なる金融機関ではなく、

「高齢社会の生活支援インフラ」

へ変化していく可能性があります。

これは日本型超高齢社会特有の金融変化とも言えるでしょう。

結論

認知症による資産凍結問題は、これからの日本社会における極めて重要な課題です。

問題は「お金が足りないこと」だけではありません。

「お金があっても使えないこと」が大きなリスクになる時代が始まっています。

そしてその背景には、

  • 超高齢化
  • 単身世帯増加
  • 家族機能低下
  • 特殊詐欺増加
  • 金融犯罪高度化

など、日本社会全体の構造変化があります。

これから必要なのは、

「いくら資産を持つか」

だけではなく、

「判断能力低下後に誰がどう管理するのか」

まで含めた人生後半の設計です。

老後資産とは、単なる「貯金額」ではなく、

「管理可能性」まで含めて考える時代に入っているのです。

参考

・日本経済新聞 2026年5月24日朝刊「要支援1~2・要介護1の高齢者『1人で貯金出せず』29%」

・金融庁「高齢社会における金融サービスのあり方」

・厚生労働省「成年後見制度利用促進基本計画」

・法務省 成年後見制度関連資料

・一般社団法人家族信託普及協会 公表資料

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