税制改正というと、新しい制度が創設されたり減税が行われたりするニュースが注目されがちです。しかし、その裏側では、毎年数多くの「税制優遇」が本当に必要なのかどうかが厳しく検証されています。
2026年夏、各府省庁は令和9年度税制改正に向けて、租税特別措置(租特)の自己点検結果を公表しました。そこから見えてくるのは、「税制優遇はあって当然」という時代が終わり、「効果が証明できる制度だけを残す」という新しい考え方です。
今回は、この自己点検の内容をもとに、今後の税制改正の方向性について考えてみます。
租税特別措置とは何か
租税特別措置とは、本来課税される税金を一定の政策目的のために軽減・免除する制度です。
例えば、
・中小法人の軽減税率
・賃上げ促進税制
・研究開発税制
・設備投資減税
・相続や贈与に関する特例
などが代表例です。
これらは企業活動や投資、雇用促進などを後押しする目的で設けられています。
一方で、税制優遇は国の税収を減らすことにもつながるため、本当に効果があるのかを定期的に検証する必要があります。
「効果があるか」を数字で示す時代へ
今回の自己点検で特徴的なのは、「定量的な検証」が強く求められていることです。
これまでは、
「企業支援になる」
「経済活性化につながる」
という政策目的が重視されることもありました。
しかし現在では、
・利用件数
・減税額
・政策目標の達成度
・経済効果
などを数字で示すことが求められています。
つまり、
「良い制度だから続ける」
ではなく、
「成果が確認できた制度だから続ける」
という考え方へ大きく転換しているのです。
中小法人の軽減税率も見直し対象
今回最も注目されたのが、中小法人の法人税軽減税率です。
中小企業向け税制は長年続いてきた制度ですが、今後は一律に優遇するのではなく、
「メリハリをつけた見直し」
が行われる方向性が示されました。
政府は今後5年間を重点期間と位置付け、
・付加価値労働生産性
・稼ぐ力
・成長力
を高める企業を重点的に支援する姿勢を明確にしています。
つまり、「中小企業だから優遇する」から、「成長に取り組む中小企業を重点的に支援する」へと政策が変わりつつあります。
賃上げ促進税制はさらに強化へ
一方で、賃上げ促進税制については強化される方向です。
現在、日本では深刻な人手不足が続いています。
そのため、
・賃上げ
・人材投資
・生産性向上
に積極的に取り組む企業を税制面から支援する方針が示されました。
単なる減税ではなく、日本経済全体の競争力向上を目指す政策として位置付けられています。
今後は賃上げを実施する企業ほど税制上のメリットを受けやすくなる可能性があります。
利用されない制度は終了も視野に
今回の点検では、「利用実績が少ない制度」は厳しい評価を受けています。
例えば、
結婚・子育て資金の一括贈与非課税制度については、制度の周知を進めても利用件数が伸びておらず、今後も大幅な利用増加は見込みにくいと判断されました。
また、新設されたものの適用実績がない制度については、終了が妥当との考え方も示されています。
制度は創設することよりも、「実際に活用され、政策効果を生んでいるか」が重視される時代になっています。
税制改正は「スクラップ・アンド・ビルド」が基本になる
税制は一度作れば永久に続くものではありません。
社会環境が変われば、
・役割を終えた制度
・効果が薄れた制度
・新しい課題に対応できない制度
は見直されます。
その一方で、
・GX
・DX
・賃上げ
・スタートアップ支援
など、新しい政策目的に合わせた税制が新設されていきます。
限られた財源を有効活用するためにも、「必要な制度は残し、不要な制度は見直す」というスクラップ・アンド・ビルドの考え方が今後さらに強まるでしょう。
結論
今回公表された自己点検結果から見えてくるのは、「税制優遇は政策効果で評価される時代」が本格化していることです。
中小法人の軽減税率の見直しや賃上げ促進税制の強化は、その象徴といえるでしょう。今後は、税制優遇を受けるためにも、生産性向上や賃上げなど、政策目的に沿った経営が一層求められることになります。
令和9年度税制改正では、新しい制度の創設だけでなく、「何が残り、何が廃止されるのか」という視点にも注目することが重要です。税制の変化を理解することは、企業経営者や税務実務家だけでなく、制度を利用するすべての人にとって大きな意味を持つでしょう。
参考
税のしるべ
2026年7月13日
各省庁が租特の自己点検結果を公表、中小法人の軽減税率は「メリハリをつけた見直しを行う」