「敵対的買収」と聞くと、多くの人は企業を乗っ取る行為や、経営者を追い出す行為をイメージするかもしれません。
実際、日本では長い間、敵対的買収は否定的に語られることが多くありました。
しかし近年、企業統治改革や資本市場改革が進む中で、その見方は少しずつ変わり始めています。
経営陣が反対しているからといって、その買収は本当に悪いのでしょうか。
あるいは、敵対的買収は市場経済に必要な仕組みなのでしょうか。
今回は敵対的買収の役割と課題について考えてみます。
敵対的買収とは何か
敵対的買収とは、対象企業の経営陣の同意を得ずに進める買収のことです。
株主に対して直接TOB(株式公開買付け)を提案し、経営権の取得を目指します。
ここで重要なのは、「敵対的」という言葉です。
敵対しているのは経営陣であり、必ずしも株主ではありません。
むしろ株主が買収提案に賛成しているケースもあります。
つまり敵対的買収とは、
「経営者に対して敵対的」
であって、
「株主に対して敵対的」
とは限らないのです。
なぜ日本では嫌われてきたのか
日本では長年、企業は従業員や取引先、地域社会など多くの関係者によって支えられる存在と考えられてきました。
いわゆるステークホルダー重視の経営です。
そのため、
「株主が全てではない」
という考え方が根強くありました。
また、
・持ち合い株式
・メインバンク制度
・終身雇用
などの仕組みもあり、外部からの買収は極めて困難でした。
結果として敵対的買収は「異質な存在」と見られることが多かったのです。
株主から見ればどうなのか
一方で株主の立場から見ると、敵対的買収は必ずしも悪いものではありません。
例えば市場価格1000円の株に対し、
「1500円で買います」
という提案があったとします。
株主にとっては利益を得る機会になります。
また、経営不振が続いている企業であれば、
「新しい経営陣の方が企業価値を高められる」
と考える投資家もいます。
敵対的買収は、経営陣に対する市場からの評価とも言えるのです。
市場経済における役割
敵対的買収には重要な市場機能があります。
それは経営者への規律付けです。
仮に買収の脅威が全く存在しなければどうなるでしょうか。
経営陣は株主価値を意識しなくなるかもしれません。
資本効率が低くても経営権を維持できるかもしれません。
しかし敵対的買収の可能性があれば、
・資本効率を高める
・企業価値向上を目指す
・株主との対話を重視する
といった行動を促されます。
つまり敵対的買収は、市場による経営監視機能の一つなのです。
ニッポン放送事件が残したもの
日本で敵対的買収を語る際に避けて通れないのが、2005年のライブドアによるニッポン放送株取得問題です。
当時、日本社会に大きな衝撃を与えました。
この事件をきっかけに、
・買収防衛策
・新株予約権
・株主平等原則
などについて活発な議論が行われました。
日本企業は敵対的買収への対応を本格的に考えるようになったのです。
ブルドックソース事件と最高裁判断
2007年のブルドックソース事件も重要な転換点でした。
最高裁判所は一定の条件のもとで買収防衛策の発動を認めました。
ただし無制限に認めたわけではありません。
重要なのは、
「株主の意思を反映しているか」
という点でした。
この考え方は現在の企業買収ルールにも大きな影響を与えています。
買収防衛策は必要なのか
敵対的買収を防ぐため、多くの企業は買収防衛策を導入してきました。
しかし近年、その数は減少しています。
理由は単純です。
防衛策が経営陣を守るために使われる可能性があるからです。
本来守るべきなのは企業価値と株主利益です。
経営者の地位そのものではありません。
近年は機関投資家やアクティビスト投資家が、
「本当に必要な防衛策なのか」
を厳しくチェックするようになっています。
海外との違い
米国では敵対的買収は市場経済の一部として認識されています。
もちろん反対論もありますが、
「株主が選択する機会」
として一定の評価を受けています。
一方、日本では依然として慎重な見方が強く残っています。
しかし東京証券取引所による資本効率改善要請や、経済産業省の企業買収指針の整備によって、日本でも考え方は変わりつつあります。
敵対的買収は善か悪か
結局のところ、敵対的買収そのものに善悪はありません。
問題は、
・買収価格は適正か
・手続きは公正か
・企業価値向上につながるか
という点です。
優れた買収提案であれば株主利益につながります。
逆に短期利益だけを目的とする買収であれば問題があります。
重要なのは敵対的か友好的かではなく、その内容なのです。
結論
敵対的買収は日本では長く否定的に捉えられてきました。しかし資本市場の視点から見ると、経営陣への規律付けや企業価値向上を促す重要な機能を持っています。
一方で、短期利益を目的とした買収や不透明な手続きには注意が必要です。
そのため現代の企業統治では、敵対的買収を無条件に排除するのではなく、株主利益と企業価値向上の観点から個別に判断する考え方が重視されています。
敵対的買収は善でも悪でもありません。それは市場経済が企業経営に与える一つの緊張感であり、企業価値を問い続ける仕組みの一つなのです。
参考
・経済産業省「企業買収に関する行動指針」
・最高裁判所 ブルドックソース事件判決
・日本経済新聞 企業買収・買収防衛策関連記事
・東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード」