再エネ拡大で電力価格は本当に下がるのか(制度検証編)

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再生可能エネルギーは、電力価格を下げる切り札として語られることがあります。

太陽光や風力は、発電時に燃料を必要としません。原油、LNG、石炭のように海外から燃料を輸入する必要がないため、燃料価格の高騰や円安の影響を受けにくいという特徴があります。

この点だけを見れば、再エネが増えれば電気料金は下がりそうに見えます。

しかし、実際の電力価格はそれほど単純ではありません。

再エネの発電コストが下がっても、電力システム全体では別のコストが発生します。送電網の整備、蓄電池、出力調整、バックアップ電源、制度負担などが必要になるからです。

本稿では、再エネ拡大が電力価格を本当に下げるのかについて、制度面から整理します。

再エネは燃料費がかからない電源である

再エネの最大の特徴は、発電時に燃料費がほとんどかからないことです。

太陽光は日射、風力は風、水力は水の流れを利用します。

そのため、いったん設備を設置すれば、化石燃料のように継続的に燃料を買い続ける必要はありません。

これは、エネルギー安全保障の面でも大きな利点です。

日本のように化石燃料を海外に依存する国にとって、国内で発電できる再エネは、燃料輸入リスクを下げる手段になります。

燃料価格が高騰した局面では、再エネ比率が高いほど、化石燃料価格の影響を受けにくくなります。

この意味では、再エネ拡大には電力価格を安定させる効果があります。

ただし「発電コスト」と「電気料金」は同じではない

注意すべきなのは、発電コストが下がることと、利用者が払う電気料金が下がることは同じではないという点です。

電気料金には、発電そのものの費用だけでなく、さまざまな費用が含まれています。

たとえば、

送電網の維持費
配電網の整備費
需給調整の費用
再エネ賦課金
容量市場などの制度費用
予備電源の維持費

などです。

太陽光や風力の発電単価が下がっても、それを安定して使うための費用が増えれば、電気料金全体は下がらない可能性があります。

つまり、問題は「再エネは安いか」ではなく、「再エネを大量導入した電力システム全体が安くなるか」です。

ここを分けて考える必要があります。

再エネは「変動する電源」である

太陽光や風力には大きな弱点があります。

それは、発電量が天候に左右されることです。

太陽光は夜間に発電できません。雨や曇りの日には出力が低下します。

風力も、風が弱ければ発電量が落ちます。逆に、風が強すぎる場合には安全上の理由で停止することもあります。

電気は、需要と供給を常に一致させる必要があります。

家庭や企業が使う電力量に対して、発電量が多すぎても少なすぎても問題になります。

再エネが増えるほど、この調整が難しくなります。

そのため、再エネを増やすには、単に発電設備を増やすだけでは不十分です。

発電量の変動を吸収する仕組みが必要になります。

蓄電池と送電網のコスト

再エネを安定的に使うためには、蓄電池が重要になります。

昼間に太陽光で余った電気を蓄え、夜間や需要が高い時間帯に使うことができれば、再エネの価値は高まります。

しかし、蓄電池にはコストがかかります。

大規模蓄電池の整備、更新、管理には相当な投資が必要です。

また、再エネ発電に適した地域と、電力需要が大きい地域は必ずしも一致しません。

たとえば、北海道や東北、九州などで再エネ発電の余地があっても、大都市圏に電気を送るには送電網の増強が必要です。

送電網の整備には時間も費用もかかります。

この費用は、最終的には電気料金や託送料金を通じて利用者が負担することになります。

出力制御が増えると「作った電気を捨てる」ことになる

再エネが増えると、発電量が需要を上回る時間帯が出てきます。

その場合、電力会社は再エネの発電を一時的に止めることがあります。

これが出力制御です。

出力制御が増えると、せっかく発電できるはずの電気を使えない時間が増えます。

発電設備はあるのに、その電気を十分に活用できない状態です。

これは、制度上も経済上も大きな課題です。

再エネ設備を増やしても、送電網や蓄電池、需要側の調整が追いつかなければ、電力価格を下げる効果は限定的になります。

むしろ、設備投資だけが先行し、利用効率が下がる可能性もあります。

バックアップ電源は簡単には減らせない

再エネが増えても、火力発電をすぐに減らせるわけではありません。

太陽光や風力の発電量が落ちたときに備えて、火力発電などのバックアップ電源が必要だからです。

これは電力システムの安定性を保つために不可欠です。

問題は、バックアップ電源は稼働時間が減っても、維持費がかかることです。

発電所は、いつでも動かせる状態にしておく必要があります。

人員、設備保守、燃料調達、系統接続などのコストは残ります。

つまり、再エネが増えると火力発電の稼働率は下がる一方で、予備力としての価値は残ります。

この費用を誰が負担するのかが、制度上の大きな論点になります。

再エネ賦課金という見えにくい負担

日本では、再エネ普及を支える制度として固定価格買取制度が導入されました。

再エネで発電された電気を一定価格で買い取る仕組みです。

この制度は、再エネ拡大に大きく貢献しました。

一方で、その費用は再エネ賦課金として電気料金に上乗せされています。

つまり、再エネ拡大は将来の燃料費リスクを下げる一方で、当面の料金負担を増やす面もあります。

ここに制度設計の難しさがあります。

再エネを増やすためには初期の支援が必要です。

しかし、支援コストが大きくなりすぎれば、家計や企業の負担になります。

再エネ政策は、脱炭素政策であると同時に、料金政策でもあるのです。

電力価格は「平均」ではなく「時間帯」で変わる

再エネ拡大によって、電力価格の考え方も変わります。

太陽光が大量に発電する昼間は、電力価格が下がりやすくなります。

一方で、夕方から夜にかけて太陽光の発電量が落ち、需要が高まる時間帯には、価格が上がりやすくなります。

つまり、再エネが増えると、電気料金は単純に下がるのではなく、時間帯による価格差が大きくなる可能性があります。

今後は、

昼間は安い
夕方は高い
需要ピーク時はさらに高い

という料金体系が広がるかもしれません。

企業や家庭も、電気を「いつ使うか」が重要になります。

電力価格は、量だけでなく時間の問題になっていきます。

企業には「電気の使い方改革」が求められる

再エネ時代には、企業側の対応も変わります。

これまでは、電気は必要なときに使うものという感覚が一般的でした。

しかし、今後は電力価格の安い時間帯に稼働を寄せる、蓄電池を導入する、自家発電を組み合わせるといった工夫が重要になります。

たとえば、

工場の稼働時間を調整する
冷凍・冷蔵設備の運転時間を工夫する
蓄電池を使ってピーク時の購入電力を抑える
太陽光発電を自家消費する

といった対応です。

これは、電力会社だけでなく、需要家側も電力システムの一部になることを意味します。

再エネ拡大は、供給側だけで完結する話ではありません。

再エネは電気料金を下げる可能性もある

ここまで見ると、再エネ拡大はコスト増のようにも見えます。

しかし、長期的には電力価格を下げる可能性もあります。

その理由は、燃料費が不要であり、技術革新によって設備コストが下がる可能性があるからです。

また、蓄電池や送電網、需要調整の技術が進めば、再エネをより効率的に使えるようになります。

化石燃料価格が高止まりする局面では、再エネの価値はさらに高まります。

重要なのは、再エネそのものを増やすことではありません。

再エネを安定的に使える制度とインフラを同時に整えることです。

そこまで進んで初めて、再エネは電力価格を下げる力を持ちます。

結論

再エネ拡大で電力価格は本当に下がるのか。

答えは、条件付きで下がる可能性がある、ということです。

再エネは燃料費がかからず、エネルギー安全保障にも有効です。

しかし、電力料金は発電コストだけで決まりません。

送電網、蓄電池、バックアップ電源、出力制御、再エネ賦課金、制度運営コストを含めて考える必要があります。

再エネ拡大が電気料金を下げるかどうかは、

どれだけ安く発電できるか
どれだけ無駄なく送れるか
どれだけ蓄えられるか
どれだけ需要を調整できるか
どれだけ制度負担を抑えられるか

によって決まります。

再エネは万能の低価格電源ではありません。

しかし、制度設計とインフラ整備が進めば、燃料価格や地政学リスクに左右されにくい電力システムをつくる重要な柱になります。

これから問われるのは、「再エネを増やすかどうか」ではありません。

「再エネを安く、安定して使える社会システムを作れるか」です。

電力価格の将来は、発電技術だけでなく、制度設計の巧拙に大きく左右されるのです。

参考

日本経済新聞 2026年5月8日夕刊
「新電力の固定料金、エネ高で損失 水面下の解約依頼に透ける『ホンネ』」

資源エネルギー庁「エネルギー白書」

資源エネルギー庁「再生可能エネルギー政策に関する資料」

電力広域的運営推進機関「電力需給・系統整備に関する資料」

日本卸電力取引所関連資料

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