海外投資や外貨預金が身近になった現在、確定申告で意外と見落とされるのが「円換算」です。
「ドルで利益が出たから、そのままドルで計算すればよい」と考える人もいますが、日本の所得税は円を基準として計算します。そのため、外貨で行われたすべての取引は、日本円へ換算しなければなりません。
しかし、ここで新たな疑問が生まれます。
「どの日の為替レートを使うのか」
「銀行によってレートが違うが、どれを使えばよいのか」
実は、この円換算のルールを理解しているかどうかで、課税所得が変わることがあります。
今回は、外貨建取引の円換算について、実務上の重要ポイントを解説します。
円換算は所得税計算の出発点
日本の所得税は円建てで計算します。
そのため、
・外国株式の購入
・海外不動産の取得
・外貨預金
・海外から受け取る配当金
・海外給与
など、外貨で行われた取引は、まず日本円へ換算しなければなりません。
税務では、この最初の円換算がすべての計算の基礎になります。
換算方法を誤ると、その後に計算する所得や税額も誤ってしまいます。
原則はTTMによる換算
所得税では、原則として取引日におけるTTM(対顧客電信売買相場の仲値)を使用します。
TTMとは、銀行が公表するTTSとTTBの中間のレートです。
例えば、
TTM 150円
TTS 151円
TTB 149円
というような関係になります。
通常の所得計算では、このTTMを使用することが基本ルールです。
まずは、「迷ったらTTM」と覚えておくと理解しやすいでしょう。
TTSとTTBを使えるケースもある
ただし、不動産所得や事業所得などでは、継続適用を条件として別の方法も認められています。
例えば、
売上などの収入はTTB
仕入や経費はTTS
を採用することもできます。
これは実際の資金決済に近い考え方であり、税法上も一定の合理性が認められているためです。
ただし、一度採用した方法は毎年継続して使用することが求められます。
年度ごとに有利な方法へ変更することは認められません。
平均レートの利用も認められる
海外で事業や不動産賃貸を行っている人では、毎日異なるレートで換算すると実務負担が非常に大きくなります。
そのため、一定の条件を満たせば、
月平均レート
週平均レート
年平均レート
など、合理的な平均レートを継続して使用することも認められています。
海外不動産投資などでは、この取扱いが実務上大きな意味を持ちます。
毎日のレートを調べ続ける必要がなくなり、帳簿作成も効率化できます。
銀行によってレートが違ってもよいのか
もう一つ実務でよく受ける質問があります。
「銀行によって為替レートが違いますが、どれを使えばよいのでしょうか。」
税務上は、原則として主たる取引金融機関のレートを使用します。
もっとも、合理的なレートを継続して採用していれば、それも認められます。
つまり重要なのは、
「毎年同じ基準で計算すること」
です。
年度によって有利な銀行のレートへ変更するような処理は適切ではありません。
税務では一貫性が重視されます。
土日や祝日のレートはどうなるのか
海外投資では土日に売買が成立するケースや、換算日が銀行休業日になることがあります。
その日に為替レートが公表されていない場合は、直前の営業日のレートを使用します。
また、同じ日に複数回レートが更新されている場合には、原則としてその日の最終レートを使用します。
こうした細かなルールも、正確な申告には欠かせません。
円換算は税務調査でも確認される
税務調査では、
どのレートを使用したのか
毎年同じ方法を採用しているか
取得時と売却時で異なる基準を使っていないか
などが確認されます。
海外投資家ほど為替レートの選択が所得へ大きく影響するため、調査官も注意して確認します。
円換算は単なる計算作業ではなく、申告内容の信頼性を左右する重要なポイントなのです。
結論
外貨建取引では、利益そのものだけでなく、「どの為替レートで円換算するか」が税額に大きく影響します。
原則はTTMですが、不動産所得や事業所得などでは継続適用を条件としてTTSやTTB、平均レートの使用が認められる場合もあります。
海外投資が一般化した現在、円換算は国際税務の基本知識となりました。毎年同じ基準で継続して処理することが、正確な申告と税務調査への備えにつながります。
参考
近畿税理士会「税法実務講座(所得税) 個人の国際税務~理論と実践~⑥ 円換算・為替差損益・外国人の住民税・個人の国際課税の調査」(講師:税理士 阿部行輝先生)