資産運用の話になると、多くの人が口にする言葉があります。
「元本保証なら安心です」
確かに元本保証は魅力的です。
投資信託や株式のように価格が下落する心配がなく、預けたお金が減らない安心感があります。
特に長年にわたり預貯金中心で資産を管理してきた世代にとって、「元本保証」は安全の代名詞といえるかもしれません。
しかし本当にそうでしょうか。
人生100年時代を迎えた今、「元本保証=安全」という考え方は見直す時期に来ているのかもしれません。
今回は、日本人が信じてきた預金神話について考えてみます。
日本人はなぜ預金を好むのか
日本人の金融資産の半分以上は現金・預金で保有されています。
欧米では株式や投資信託の割合が高い一方、日本では依然として預金中心です。
その背景にはいくつかの理由があります。
戦後の高度成長期には、預金しているだけで資産が増える時代がありました。
銀行は破綻しないという安心感もありました。
さらにバブル崩壊後の株価低迷を経験した世代にとっては、
「投資は危ない」
「預金が安全」
という意識が強く残っています。
こうして日本では長年にわたり預金神話が形成されてきました。
元本保証とは何を保証しているのか
ここで考えたいのは、元本保証が何を保証しているのかということです。
例えば100万円を銀行へ預けた場合、満期時に100万円が戻るとします。
これは確かに元本保証です。
しかし保証されているのは金額だけです。
お金の価値までは保証されていません。
もし物価が上昇すればどうなるでしょうか。
100万円という数字は変わらなくても、そのお金で買える商品やサービスは減ってしまいます。
つまり元本保証は、
「額面の金額」
を守る制度であり、
「購買力」
を守る制度ではないのです。
インフレは静かな資産減少である
近年、日本でも物価上昇が続いています。
食品や電気代、ガソリン代など、多くの人が生活費の上昇を実感しています。
例えば年2%のインフレが20年間続いた場合、物価は約1.5倍になります。
100万円の価値は実質的に約67万円相当まで低下します。
銀行口座の残高は100万円のままです。
しかし買えるものは大きく減っています。
見た目には資産が減っていないように見えても、実際には価値が目減りしているのです。
これがインフレリスクです。
安全資産にもリスクは存在する
多くの人はリスクを「損をすること」と考えます。
しかし金融の世界でいうリスクとは、不確実性そのものを意味します。
預金にもリスクがあります。
代表的なのは、
・インフレリスク
・金利変動リスク
・機会損失リスク
です。
特に長期間にわたり低金利が続くと、資産を増やす機会を失う可能性があります。
株式や投資信託が大きく成長した期間に、預金だけを保有していた人はその恩恵を受けられませんでした。
資産が減らないことと、資産が増えることは別の問題なのです。
預金保険制度は万能ではない
日本には預金保険制度があります。
金融機関が破綻しても、一定額までは保護されます。
これは非常に重要な仕組みです。
しかし無制限に保護されるわけではありません。
一般的な預金は、
元本1,000万円とその利息
までが保護対象です。
それを超える部分は金融機関の経営状況によって影響を受ける可能性があります。
預金保険制度があるから絶対安全というわけではありません。
制度の内容を正しく理解しておくことも必要です。
本当に怖いのは長寿リスク
人生100年時代において最大のリスクの一つは長寿リスクです。
これは長生きすることで資産が不足するリスクです。
60歳で退職した場合、その後30年から40年にわたって生活費が必要になる可能性があります。
その間、すべての資産を預金だけで保有するとどうなるでしょうか。
インフレが進み、医療費や介護費も増えるかもしれません。
預金だけでは資産寿命が短くなる可能性があります。
人生100年時代では、
「減らさない」
だけでなく、
「育てながら守る」
という考え方が重要になってきます。
元本保証と資産形成は別問題
元本保証の商品は生活防衛資金として重要です。
突然の病気や失業、住宅修繕などに備えるためには現金が必要です。
しかし老後資金や長期資産形成まで全てを元本保証商品に頼るべきかというと、話は別です。
安全性だけを追求すると、将来の資産形成が難しくなる可能性があります。
逆にリスクばかり取れば資産を失う可能性があります。
重要なのは二者択一ではなく、
「守る資産」と「育てる資産」
を分けて考えることです。
人生100年時代の預金との付き合い方
預金は今後も重要な金融商品であり続けるでしょう。
問題は預金そのものではありません。
預金だけで全てを解決しようとする考え方です。
人生100年時代には、
・生活防衛資金は預金
・近い将来使うお金は預金や短期商品
・長期資金は分散投資
というように役割を分ける発想が求められます。
預金は資産運用の敵ではありません。
資産全体の中で適切な役割を持つ重要な存在なのです。
結論
元本保証は確かに安心感を与えてくれます。
しかし保証されているのは額面の金額であり、お金の価値そのものではありません。
インフレや長寿化が進む人生100年時代では、「減らないこと」だけでは資産を守れない可能性があります。
本当に安全な資産管理とは、預金だけに頼ることではなく、目的に応じて資産を分けて考えることです。
預金神話を否定する必要はありません。
ただし、「元本保証だから絶対安全」という考え方は見直す時期に来ているのではないでしょうか。
人生100年時代に求められるのは、預金か投資かという二者択一ではなく、守る資産と育てる資産のバランスなのです。
参考
金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」
日本銀行「資金循環統計」
預金保険機構「預金保険制度の概要」
総務省統計局「消費者物価指数(CPI)」
日本経済新聞 各種資産形成関連記事