会社経営において借入金は重要な経営資源です。
自己資金だけで事業を拡大できる会社は多くありません。
設備投資を行う。
新店舗を出店する。
工場を建設する。
M&Aを実行する。
こうした成長投資の多くは金融機関からの借入によって支えられています。
ところが外形標準課税では、借入金が増えると課税標準が増える仕組みがあります。
その中心となるのが「純支払利子」です。
経営者の中には、
「借金をすると税金まで増えるのか」
と疑問に感じる方もいるでしょう。
今回は純支払利子の考え方について整理してみます。
純支払利子とは何か
純支払利子とは、
支払利子
から
受取利子
を差し引いた金額
をいいます。
計算式は非常にシンプルです。
支払利子-受取利子=純支払利子
です。
ただし、受取利子が支払利子を超える場合はマイナスにはなりません。
ゼロが下限になります。
どのような利子が対象になるのか
多くの経営者がイメージするのは銀行借入の利息でしょう。
もちろん対象です。
しかし純支払利子の範囲はもっと広くなっています。
例えば、
借入金利息
社債利息
コマーシャルペーパー関連費用
手形割引料
預り金利息
信用取引の利息
利子税
なども対象になります。
一方、
貸付金利息
国債利息
地方債利息
預金利息
還付加算金
などは受取利子として控除されます。
なぜ利子が付加価値になるのか
ここが制度の本質です。
経営者から見ると利息はコストです。
しかし外形標準課税では、
企業が生み出した価値の分配先
として考えます。
従業員には給与が支払われます。
大家には家賃が支払われます。
そして金融機関には利息が支払われます。
つまり利息も企業が生み出した付加価値の分配先の一つなのです。
この考え方が理解できると、純支払利子が付加価値額に含まれる理由が見えてきます。
借入金が多い会社は不利なのか
表面的にはそう見えます。
借入金が増える
↓
支払利子が増える
↓
純支払利子が増える
↓
付加価値額が増える
という流れになるからです。
しかし必ずしも不利とは言えません。
なぜなら借入金によって事業規模を拡大し、利益を増やしている可能性があるからです。
例えば、
借入ゼロで利益5,000万円
の会社と、
借入10億円で利益2億円
の会社を比較するとどうでしょうか。
後者の方が支払利子は大きくなりますが、事業規模や企業価値も大きい可能性があります。
外形標準課税は、その活動量を評価しているのです。
無借金経営は本当に有利なのか
日本では長年、
無借金経営は理想
と言われてきました。
確かに財務安全性は高まります。
しかし一方で、
成長機会を逃す
という側面もあります。
適切な借入を行い、
設備投資を行い、
売上を伸ばし、
利益を増やす
ことができれば企業価値は高まります。
外形標準課税の純支払利子は、ある意味で企業がどれだけ金融資本を活用しているかを示しているとも言えます。
利子税も対象になる
意外と知られていないのが利子税です。
延納に伴う利子税なども支払利子に含まれます。
そのため、
納税資金の不足
延納の利用
資金繰り悪化
が続くと、純支払利子にも影響する可能性があります。
税務は単独で存在するのではありません。
資金繰りとも密接に結び付いているのです。
保証料は対象にならない
一方で間違えやすい論点もあります。
金融機関や信用保証協会へ支払う保証料です。
保証料は支払利子には含まれません。
実務では、
利息
保証料
手数料
を区別して把握する必要があります。
決算書を確認するときも注意が必要です。
人生100年時代と借入金の考え方
人生100年時代になると、経営者人生も長くなります。
60歳で引退する時代ではありません。
70歳
75歳
80歳
まで事業を続ける人も増えています。
すると借入金に対する考え方も変わります。
若い頃は攻めの借入。
シニア期は守りの借入。
あるいは事業承継を見据えた借入。
経営ステージによって借入の意味は変わります。
純支払利子を見ることで、その会社の成長戦略や財務戦略が見えてくることもあります。
AI時代でも残る金融リテラシー
AIは融資分析を行います。
財務診断も行います。
しかし、
どのタイミングで借りるか
どこまで借りるか
何に投資するか
という経営判断は残ります。
金融を理解する経営者と理解しない経営者では、将来の成長力に大きな差が生まれるでしょう。
税理士に求められる視点
純支払利子は単なる計算項目ではありません。
企業がどれだけ金融資本を活用しているかを示す数字です。
税理士は、
なぜ利息が付加価値になるのか
なぜ受取利子を控除するのか
なぜ借入金が企業活動の規模を表すのか
を説明できる必要があります。
数字の背景を語れることが、これからの専門家の価値になるでしょう。
結論
純支払利子とは、支払利子から受取利子を控除した金額です。
外形標準課税では、金融機関へ支払われた利息も企業が生み出した価値の分配と考え、付加価値額の構成要素にしています。
借入金が多い会社ほど純支払利子は増えますが、それは企業活動の規模や成長投資の大きさを反映しているとも言えます。
純支払利子を理解すると、税務だけでなく企業の財務戦略そのものが見えてくるのです。
参考
近畿税理士会
「税法実務講座(法人税)事業税の外形標準課税対象法人の申告の基礎② 外形標準課税対象法人の付加価値割の基礎」