消費税は、消費者が商品を買ったときに支払う税金というイメージがあります。
しかし実際には、商品が生産されてから消費者に届くまで、農家、メーカー、卸売業者、小売業者など複数の事業者が取引に関わっています。
それぞれの取引で消費税をそのまま積み重ねていけば、同じ商品に何重にも消費税がかかってしまいます。
そこで設けられているのが仕入税額控除です。
事業者が売上で受け取った消費税から、仕入れや経費で支払った消費税を一定の要件のもとで差し引きます。
この仕組みによって、事業者は基本的に自社が生み出した付加価値に対応する部分の消費税を納める形になります。
そして2027年4月に食料品の消費税率が1パーセントへ引き下げられると、この仕入税額控除がこれまで以上に重要になります。
食料品の売上には1パーセントが適用されても、事業に必要な仕入れには10パーセントが残る可能性があるからです。
今回は、仕入税額控除とは何か、売上税額と仕入税額の関係から見ていきます。
売上税額とは何か
事業者が商品やサービスを販売すると、その取引には原則として消費税がかかります。
この売上にかかる消費税を売上税額と考えると分かりやすくなります。
たとえば税抜100万円の商品を10パーセントで販売したとします。
単純化すると消費税は10万円です。
買い手は110万円を支払います。
では、売り手は受け取った10万円をそのまま全額税務署へ納めるのでしょうか。
原則課税ではそうではありません。
商品を販売するまでに、事業者自身も仕入先へ消費税を支払っているからです。
仕入税額とは何か
商品を販売するためには、さまざまな仕入れや経費が必要です。
小売業者なら販売する商品を仕入れます。
メーカーなら原材料や部品を購入します。
農家なら肥料や農薬、農業機械などを購入します。
飲食店なら食材や備品を購入します。
こうした取引で事業者が負担した消費税が、仕入税額控除を考えるうえでの仕入れにかかる税額です。
一定の要件を満たすものについて、売上税額から控除することができます。
売上税額から仕入税額を差し引く
仕入税額控除の基本的な考え方はシンプルです。
売上にかかる消費税額から、控除できる仕入れにかかる消費税額を差し引きます。
たとえば売上税額が10万円だったとします。
その商品を販売するための仕入れで6万円の消費税を負担していたとします。
単純化すると、
売上税額10万円
から
仕入税額6万円
を差し引きます。
納付税額は4万円になります。
売上で受け取った10万円をそのまま納めるのではありません。
すでに仕入れの段階で負担している6万円を考慮するわけです。
なぜ仕入税額控除が必要なのか
仕入税額控除がなければ、取引の段階が増えるほど税負担が積み重なってしまいます。
たとえばメーカーが商品を作り、卸売業者へ販売します。
卸売業者が小売業者へ販売します。
小売業者が消費者へ販売します。
それぞれの段階で売上に消費税がかかります。
もし各事業者が売上で受け取った消費税を全額納めるだけなら、前の段階ですでに負担した税金まで重複して課税されることになります。
そこで各段階で仕入税額を控除します。
この仕組みによって、取引が何段階あっても税負担が累積しないようにしています。
付加価値に対応する部分を納税する
もう少し具体的に考えてみます。
ある事業者が税抜100万円で商品を仕入れ、それを税抜150万円で販売したとします。
税率を10パーセントと単純化します。
仕入れ時には10万円の消費税を支払います。
販売時には15万円の消費税を受け取ります。
売上税額15万円から仕入税額10万円を差し引けば、納付税額は5万円です。
この事業者は100万円で仕入れた商品に50万円の価値を上乗せして販売しています。
その50万円に対応する10パーセントが5万円です。
仕入税額控除によって、基本的には事業者が生み出した付加価値に対応する部分へ課税される構造になります。
仕入れで払った消費税なら何でも控除できるわけではない
ただし、事業者が支払った消費税をすべて無条件で控除できるわけではありません。
事業に関係する課税仕入れであることなど、一定の要件を満たす必要があります。
また、現在はインボイス制度が導入されています。
原則として仕入税額控除を受けるためには、適格請求書などの保存が重要になります。
帳簿の保存も必要です。
つまり仕入税額控除は自動的に認められるものではなく、税法上の要件に従って計算する必要があります。
免税事業者では仕組みが違う
仕入税額控除を理解するときには、免税事業者との違いも重要です。
免税事業者は原則として消費税の納税義務が免除されています。
そのため課税事業者のように、
売上税額から仕入税額を差し引いて納税する
という通常の消費税計算を行いません。
一方で、肥料や機械、備品などを購入するときには価格に含まれる消費税を負担します。
しかし免税事業者は原則として、その負担した消費税について通常の仕入税額控除を利用して還付を受けることはできません。
食料品1パーセントへの減税で小規模農家への給付が検討されている背景にも、この問題があります。
簡易課税では実際の仕入税額を使わない
課税事業者でも簡易課税制度を利用している場合は仕組みが異なります。
簡易課税では、実際に仕入れで負担した消費税額を一件ずつ積み上げません。
売上にかかる消費税額に業種ごとのみなし仕入率を掛けて、仕入税額を計算したものとみなします。
したがって、実際に仕入れで多額の消費税を負担していても、その実額をそのまま控除するわけではありません。
実際の仕入税額を反映する原則課税と、みなし計算をする簡易課税では、食料品1パーセントへの変更による影響も違ってきます。
食料品1パーセントで何が変わるのか
政府は2027年4月から食料品の消費税率を8パーセントから1パーセントへ引き下げる方針です。
すると食料品を販売する事業者の売上税額は大幅に減少します。
たとえば税抜1000万円の食料品を販売するとします。
8パーセントなら単純計算で売上にかかる消費税は80万円です。
1パーセントなら10万円です。
売上税額は70万円減ります。
一方、事業者が仕入れるものすべてが1パーセントになるわけではありません。
ここに仕入税額控除が重要になる理由があります。
農家では売上1パーセントと仕入10パーセントが生じる
農家を例に考えてみます。
農家が販売する一定の農産物には1パーセントが適用されることが想定されます。
一方、農家は農産物を生産するために、
肥料
農薬
農業機械
燃料
修理サービス
などを購入します。
こうしたものには10パーセントが残る場合があります。
つまり農産物の売上では1パーセントしか消費税が発生しないのに、仕入れでは10パーセントの消費税を負担するケースが生じます。
原則課税であれば、実際の仕入税額を一定の要件のもとで控除できます。
その結果、売上税額より仕入税額の方が大きくなる可能性があります。
売上税額より仕入税額が大きくなることもある
単純化した例を考えてみます。
農産物の売上にかかる消費税が10万円だったとします。
一方、肥料や農業機械などについて控除できる仕入税額が30万円だったとします。
すると、
売上税額10万円
に対して
仕入税額30万円
となります。
差額は20万円です。
原則課税では一定の要件を満たせば、このように仕入税額が売上税額を上回った部分が還付につながることがあります。
食料品の税率を大幅に下げることで、これまで納税していた事業者が還付を受ける側へ変わるケースが増える可能性があります。
還付が増えると資金繰りの問題も起こる
仕入税額控除によって最終的に還付を受けられるのであれば、事業者に問題はないようにも見えます。
しかし実際には時間差があります。
農家が肥料や農業機械を購入するときには、その場で消費税を含む代金を支払います。
一方、消費税の還付を受けるのは申告などの手続きをした後です。
つまり、
仕入れ時には先にお金が出ていく
還付金は後から入ってくる
という時間差が生じます。
仕入額が大きい事業者では、この時間差が資金繰りに影響する可能性があります。
政府の制度設計でも、還付までの資金繰りが重要な論点になります。
複数税率になるほど計算は複雑になる
食料品1パーセントへの変更後は、1パーセント、8パーセント、10パーセントという複数の税率が併存する可能性があります。
事業者は売上だけでなく、仕入れについても税率を正しく区分する必要があります。
どの仕入れが1パーセントなのか。
どの仕入れが8パーセントなのか。
どの仕入れが10パーセントなのか。
原則課税では、この区分が仕入税額控除の金額に直接影響します。
消費者にとっては食料品の税率が下がるという分かりやすい減税でも、事業者側では消費税計算がさらに複雑になる可能性があります。
結論
仕入税額控除とは、事業者が売上で受け取った消費税から、仕入れや経費で負担した消費税を一定の要件のもとで差し引く仕組みです。
この制度があることで、生産、卸売、小売と取引が何段階にも続いても、消費税が重複して積み重なることを防いでいます。
原則課税では実際の仕入税額を使って計算します。
一方、簡易課税では実際の仕入税額ではなく、売上税額とみなし仕入率を使います。
免税事業者は原則として通常の仕入税額控除を利用できません。
そして2027年4月に食料品の税率が1パーセントへ引き下げられると、この違いがこれまで以上に重要になります。
農家などでは農産物の売上が1パーセントになる一方、肥料や農業機械などの仕入れには10パーセントが残る可能性があります。
その結果、原則課税では売上税額より仕入税額の方が大きくなり、還付が生じる事業者が増える可能性があります。
食料品1パーセントへの減税は、消費者が支払う税金を減らすだけの制度変更ではありません。
事業者が仕入れで負担した消費税をどのように回収するのかという、消費税の根幹にある仕入税額控除の仕組みにも大きな影響を与えるのです。
参考
日本経済新聞 2026年8月26日 朝刊 消費減税、総額表示を猶予 政府検討 値札交換の負担考慮
日本経済新聞 2026年8月26日 朝刊 外食に持ち帰り導入支援 消費減税で政府検討 農家には給付金