人生100年時代と言われるようになり、多くの人が65歳、70歳、あるいはそれ以上まで働くことが当たり前になりつつあります。
働く期間が長くなる一方で、最近は「職場に居場所があると感じる人」が減っているという調査結果が報じられました。
収入を得るために働くことはもちろん重要です。しかし、人はお金だけのために働いているわけではありません。
なぜ私たちは職場に居場所を求めるのでしょうか。そして人生100年時代において、本当の居場所とは何なのでしょうか。
居場所がある人が減っている現実
調査によると、「職場に自分の居場所がある」と答えた人は、この10年余りで大きく減少しています。
特に30代から50代の働き盛り世代でその傾向が強くなっています。
背景にはさまざまな要因があります。
テレワークの普及による対面コミュニケーションの減少、転職の一般化による人間関係の流動化、成果主義の浸透による競争意識の高まりなどです。
かつての日本企業には、良くも悪くも共同体としての側面がありました。
職場は単なる仕事の場ではなく、人間関係を築き、仲間と時間を共有する場でもありました。
しかし働き方が多様化した現在、その機能は弱まりつつあります。
人はなぜ居場所を必要とするのか
心理学者アブラハム・マズローは、人間の欲求を段階的に説明しました。
食事や安全が満たされると、人は次に「所属したい」「仲間になりたい」という欲求を持つとされています。
これは年齢を問わず変わりません。
会社員であっても、自営業者であっても、退職者であっても同じです。
人は誰かに必要とされたい生き物です。
「ありがとう」
「助かった」
「あなたがいて良かった」
こうした言葉によって、自分の存在価値を確認しています。
職場で居場所を感じる人の多くは、自分が組織の役に立っているという実感を持っています。
逆に、必要とされていないと感じると孤独感が強まり、仕事への意欲も低下してしまいます。
給料だけでは働き続けられない時代
高度経済成長期には、働く目的は比較的明確でした。
家族を養うこと。
住宅を購入すること。
子どもを育てること。
そのため多少つらくても働く理由がありました。
しかし現代では状況が変わっています。
生活水準が向上し、物質的な豊かさだけでは満足できなくなりました。
給料が高くても辞める人がいます。
逆に収入がそれほど高くなくても、やりがいを感じながら長く働く人もいます。
その違いは何でしょうか。
多くの場合、「自分が必要とされているかどうか」にあります。
仕事そのものよりも、自分の存在が認められているかどうかが重要になっているのです。
人生後半戦ほど居場所の価値が高まる
人生後半になると、居場所の意味はさらに大きくなります。
子育てが終わり、親の介護も一段落し、社会との接点が少しずつ減っていきます。
定年退職を迎えれば、長年所属してきた会社との関係も薄くなります。
このとき、多くの人が初めて気付くことがあります。
会社は収入源であるだけでなく、自分の居場所でもあったということです。
定年後に孤独を感じる人が少なくないのは、そのためです。
仕事を失うこと以上に、所属先を失うことが精神的な負担になる場合があります。
人生100年時代では、定年後も数十年の人生が続きます。
だからこそ、会社以外の居場所を持つことが重要になります。
地域活動でも趣味でも、学びの場でも構いません。
複数の居場所を持つ人ほど、人生後半戦を豊かに過ごせる可能性が高くなります。
AI時代に残る「居場所」の価値
AIの進化によって、多くの業務が自動化されると言われています。
しかし、人と人とのつながりまでAIが代替できるわけではありません。
むしろAI時代だからこそ、人間同士の関係性の価値は高まるかもしれません。
誰かの相談に乗ること。
経験を伝えること。
励ますこと。
共感すること。
こうした活動は、人間だからこそ提供できる価値です。
人生後半戦においても、知識や経験を誰かのために活かす人には自然と居場所が生まれます。
結論
人生100年時代において、人が求めているのは単なる収入ではありません。
自分が必要とされているという実感です。
職場に居場所がある人は、自分の役割や存在価値を感じることができます。
一方で、働き方の変化によって、その居場所を感じにくくなっている人も増えています。
これからの時代は、会社だけに依存しない複数の居場所を持つことが重要になるでしょう。
人は誰かに必要とされることで生きがいを感じます。
そして人生最後まで必要とされることこそが、人生100年時代における本当の豊かさなのかもしれません。
参考
日本経済新聞 2026年6月9日朝刊
「職場に居場所ありますか 『ある』と言える人、減少傾向」
インディードリクルートパートナーズ リサーチセンター
就業者の職場における居場所感に関する調査
ランスタッド
Workmonitor 2025(労働者意識調査)