人手不足が深刻化する中、多くの企業が人材派遣を活用しています。
繁忙期だけ人員を増やしたい。
専門スキルを持つ人材を確保したい。
採用リスクを抑えたい。
こうした理由から派遣社員を活用する企業は年々増えています。
ところが、外形標準課税の世界では、人材派遣には非常に特殊なルールがあります。
それが「75%ルール」です。
このルールを知らないと、
なぜ派遣料が課税標準に影響するのか
なぜ給与ではないのに報酬給与額になるのか
が理解できません。
今回は外形標準課税の中でも特徴的な派遣料75%ルールについて考えてみます。
なぜ特別ルールが必要なのか
まず考えてみてください。
A社が社員を直接雇用した場合、
その給与は報酬給与額になります。
これは当然です。
ところがA社が派遣会社から人材を受け入れた場合はどうでしょうか。
A社は給与を支払っていません。
派遣会社へ派遣料を支払っているだけです。
もしこの派遣料を無視すると、
直接雇用している会社
派遣を利用している会社
で税負担に差が生じてしまいます。
同じ人数が同じ仕事をしていても、契約形態が違うだけで課税関係が変わってしまうのです。
そこで設けられたのが派遣料75%ルールです。
派遣を受ける会社の取扱い
派遣社員を受け入れる会社は、
支払った派遣料の75%
を報酬給与額に加算します。
例えば、
派遣会社へ年間2,000万円支払った場合
2,000万円×75%
=1,500万円
が報酬給与額に加算されます。
つまり給与ではないにもかかわらず、給与に近いものとして扱われるのです。
なぜ75%なのか
ここで疑問になるのが、
なぜ100%ではなく75%なのか
という点です。
派遣料金には、
派遣社員の給与
社会保険料
教育費
管理費
派遣会社の利益
などが含まれています。
全額を給与とみなすのは実態に合いません。
そこで立法上、
おおむね人件費部分
として75%を採用したと考えられています。
厳密な実費計算ではありません。
制度上の簡便的な割合なのです。
派遣会社側はどうなるのか
実は派遣会社側にも対応するルールがあります。
派遣会社は受け取った派遣料の75%を報酬給与額から控除できます。
なぜでしょうか。
そのままにすると、
派遣先企業
派遣会社
の両方で同じ人件費が二重に評価されてしまうからです。
そこで、
派遣先で加算
派遣会社で控除
という仕組みにしているのです。
企業活動の実態を反映する制度
外形標準課税は企業活動の規模を測る制度です。
派遣社員であっても、
実際に働いている場所
実際に価値を生み出している場所
は派遣先企業です。
そのため、付加価値も派遣先企業に帰属させようという考え方が採用されています。
形式より実態を重視しているのです。
直接雇用と派遣活用の比較
例えば、
正社員給与2,000万円
の場合は、そのまま2,000万円が報酬給与額になります。
一方、
派遣料2,000万円
の場合は、
2,000万円×75%
=1,500万円
が報酬給与額になります。
つまり制度上は、
派遣利用の方が報酬給与額は小さくなる場合があります。
ただし、実際には派遣料金の単価は高くなる傾向があるため、単純比較はできません。
重要なのは税金だけで雇用形態を決めないことです。
経営者が見るべき本当のコスト
経営者の中には、
「派遣の方が税金が有利ではないか」
と考える方もいます。
しかし、経営判断は税金だけで行うものではありません。
採用コスト
教育コスト
離職リスク
ノウハウ蓄積
組織文化
顧客対応力
なども含めて考える必要があります。
税負担だけを見て人材戦略を決めると、長期的には競争力を失うことがあります。
AI時代の新しい課題
今後はAIエージェントや業務委託型人材が増えるでしょう。
すると、
派遣社員
業務委託
フリーランス
AIエージェント
の境界が曖昧になります。
外形標準課税は現在、人材派遣について75%ルールを設けていますが、将来的には新しい働き方への対応も課題になるかもしれません。
税制は常に経済実態の変化に追いつこうとしています。
税理士に求められる視点
派遣料75%ルールは単なる計算問題ではありません。
その背景には、
企業活動の実態をどう測るか
という思想があります。
税理士は計算方法だけでなく、
なぜこのルールが存在するのか
を説明できなければなりません。
AIが計算する時代には、その制度趣旨を理解していること自体が専門家の価値になります。
結論
派遣料75%ルールは、派遣社員を活用する企業と直接雇用する企業との課税上の公平を確保するための制度です。
派遣先企業は支払った派遣料の75%を報酬給与額に加算し、派遣会社は受け取った派遣料の75%を報酬給与額から控除します。
これは形式的な契約ではなく、実際に価値を生み出している企業活動の実態を反映させるための仕組みです。
外形標準課税を学ぶと、税金の計算だけでなく、企業活動の本質そのものが見えてくるのです。
参考
近畿税理士会
「税法実務講座(法人税)事業税の外形標準課税対象法人の申告の基礎② 外形標準課税対象法人の付加価値割の基礎」