中小企業の経営者にとって、「会社を誰に引き継ぐか」は経営人生の最後に待ち受ける大きな課題です。
後継者へ自社株を引き継ぐ際、多額の相続税や贈与税が発生すると、事業の継続そのものが難しくなることがあります。
こうした問題を解決するために設けられた制度が「事業承継税制」です。
令和8年度税制改正では、この制度の利用促進を図るため、特例承継計画の提出期限が延長されました。
今回は、事業承継税制の概要と、今回の改正が意味することを分かりやすく解説します。
事業承継税制とは何か
事業承継税制は、中小企業の後継者が先代経営者から自社株を相続または贈与で取得した際に、一定の条件を満たせば相続税や贈与税の納税が猶予される制度です。
通常、自社株の評価額が高い会社では、多額の税負担が発生することがあります。
その結果、
- 納税資金を準備するために会社資産を売却する
- 借入金を増やす
- 株式を第三者へ売却する
といった事態が起こる可能性があります。
事業承継税制は、このような問題を防ぎ、会社の継続と雇用の維持を支えることを目的としています。
なぜ期限が延長されたのか
事業承継税制には「特例制度」が設けられています。
この特例制度を利用するためには、事前に「特例承継計画」を都道府県へ提出する必要があります。
しかし、多くの中小企業では、
- 後継者がまだ決まっていない
- 経営者が現役で引退時期を決められない
- 将来の事業環境を見極めたい
などの理由から、計画提出を見送るケースも少なくありませんでした。
そこで令和8年度税制改正では、より多くの企業が制度を利用できるよう、特例承継計画の提出期限が延長されました。
延長されたから安心ではない
期限が延長されたとはいえ、「まだ時間がある」と考えるのは危険です。
事業承継は、税金だけで決まるものではありません。
例えば、
- 後継者教育
- 株式の整理
- 取引先への説明
- 金融機関との調整
- 社員への引き継ぎ
など、多くの準備が必要になります。
実際には5年から10年程度かけて計画的に進める企業も珍しくありません。
税制の期限よりも、「会社の準備期間」の方が重要なのです。
親族内承継だけではない時代
かつては、子どもが会社を継ぐことが一般的でした。
しかし近年では、
- 親族に後継者がいない
- 子どもが別の仕事に就いている
- 後継者が承継を希望しない
といったケースが増えています。
その結果、
- 社内の役員や従業員への承継
- M&Aによる第三者承継
を選択する企業も年々増加しています。
事業承継税制は親族内承継だけでなく、一定の要件を満たせば親族外承継でも利用できる場合があります。
承継方法の選択肢が広がる中で、自社に最適な方法を早めに検討することが重要です。
税金だけで承継方法を決めない
事業承継税制は非常に有効な制度ですが、「使えるから利用する」という発想だけでは十分ではありません。
大切なのは、
- 後継者に経営能力があるか
- 会社の将来像を共有できているか
- 従業員や取引先から信頼されているか
という点です。
税金は事業承継の一要素に過ぎません。
会社が10年後、20年後も成長し続けるためには、人材育成や経営理念の承継こそが重要になります。
早めの準備が会社を守る
事業承継は、ある日突然始められるものではありません。
経営者が元気なうちに、
- 自社株の評価
- 株主構成の確認
- 後継者との対話
- 専門家への相談
を少しずつ進めることが、最も効果的な対策になります。
期限延長は「先送りのための制度」ではなく、「より良い承継を実現するための準備期間」と考えるべきでしょう。
結論
令和8年度税制改正では、事業承継税制の特例承継計画の提出期限が延長され、中小企業が制度を利用しやすい環境が整えられました。
しかし、本当に重要なのは税制の期限ではなく、会社の未来を見据えた準備です。
後継者の育成、株式の整理、経営理念の承継など、時間をかけて取り組むべき課題は数多くあります。
事業承継税制は、その準備を後押しする有力な制度です。制度を上手に活用しながら、会社の未来を次世代へつないでいくことが、これからの中小企業経営にはますます求められるでしょう。
参考
令和8年度税制改正の実務ポイント 第3 資産課税・住宅税制(2026年4月6日講義資料)