相続というと、これまでは主に、
不動産、預金、生命保険、自社株
といった資産をどう承継するかが中心でした。
しかし、今後の相続では、新しい資産が大きな存在感を持つ可能性があります。
それが、全世界株式型の投資信託です。
いわゆる「オルカン」に代表される国際分散投資商品は、NISAの普及とともに個人の資産形成の中心に入り始めています。現在は現役世代の積立投資という印象が強いですが、時間が経てば、それは当然に相続財産にもなっていきます。
今回は、「オルカン相続」という視点から、国際分散投資が日本の相続と家計資産承継をどう変えるのかを整理します。
相続財産の中心は預金と不動産だった
これまで日本の相続財産の中心は、預金と不動産でした。
特に高齢世代は、長いデフレ時代を生きてきました。
物価が上がらず、預金の実質価値が大きく損なわれにくい時代には、現金や定期預金を持つことが合理的でした。
また、持ち家政策や住宅取得支援の影響もあり、不動産も重要な相続財産となってきました。
そのため相続の実務では、
預金をどう分けるか、不動産を誰が取得するか、生命保険をどう活用するか
が中心論点でした。
しかし、これからはそこに「投資信託」が加わります。
NISA世代の資産はそのまま相続財産になる
NISAは、個人の長期資産形成を後押しする制度です。
特に新NISAでは、非課税保有限度額が大きくなり、長期で投資信託を積み立てる人が増えています。
その中核商品として人気を集めているのが、全世界株式型のインデックス投信です。
若い世代や現役世代が長期で積み立てた投資信託は、将来そのまま相続財産になります。
つまり今後は、
「親から預金を相続する」
だけではなく、
「親から投資信託を相続する」
時代が来る可能性があります。
これが「オルカン相続」です。
「日本円の相続」から「世界資産の相続」へ
オルカン相続の本質は、単に投資信託を相続することではありません。
相続財産の中身が、日本円中心から世界分散型へ変わることです。
全世界株式型投信は、世界中の株式に分散投資する商品です。
そのため、相続人が受け取る資産は、実質的には、
米国企業、欧州企業、新興国企業、日本企業
などに分散された資産になります。
これは、預金や国内不動産中心の相続とは大きく異なります。
相続財産が、国内資産だけでなく、世界経済の成長に連動する形になるからです。
円安・インフレ時代の資産承継
オルカン相続が注目される背景には、円安とインフレがあります。
日本円だけで資産を持つ場合、円安が進むと輸入物価上昇を通じて生活コストが上がり、資産の実質価値が目減りする可能性があります。
また、インフレが続けば、預金の購買力も低下します。
その点、全世界株式型投信は、外貨建て資産を間接的に保有する性格があります。
もちろん価格変動リスクはありますが、長期的には、
日本円だけに偏らない資産承継
として位置付けられる可能性があります。
つまりオルカン相続は、単なる投資商品の相続ではなく、
「通貨分散を含む相続」
という意味を持ちます。
相続人に求められる金融リテラシー
一方で、オルカン相続には新しい課題もあります。
預金であれば、相続人は金額を見れば価値を把握できます。
しかし投資信託は、
基準価額、評価損益、信託報酬、分配方針、為替影響、相続税評価
などを理解する必要があります。
また、相続後にすぐ売却するのか、そのまま保有するのかという判断も必要になります。
市場が下落している時期に相続が発生すれば、相続人が不安になり、慌てて売却してしまう可能性もあります。
つまり今後の相続では、財産を受け取る側にも一定の金融リテラシーが求められます。
NISA口座内資産は非課税のまま相続されない
実務上、注意すべき点もあります。
NISA口座で保有していた投資信託は、死亡時に相続財産になります。
ただし、NISAの非課税メリットがそのまま相続人に引き継がれるわけではありません。
相続人は、相続後にその資産を自分のNISA口座へそのまま移管できるわけではなく、通常は課税口座での管理になる点に注意が必要です。
つまり、
「NISAで買ったから相続後もずっと非課税」
とは考えない方がよいでしょう。
この点は、今後かなり重要な実務論点になります。
「分けやすい資産」としての投資信託
投資信託には、相続財産としての利点もあります。
それは、不動産に比べて分けやすいことです。
不動産は、
誰が住むのか、売るのか、共有にするのか、評価額はいくらか
といった問題が生じやすい資産です。
一方、投資信託は金額換算しやすく、相続人間で分割しやすい面があります。
また、売却すれば現金化もしやすいため、遺産分割や納税資金にも対応しやすい可能性があります。
ただし、相場変動があるため、遺産分割協議中に評価額が動く点には注意が必要です。
「相続対策」から「資産承継設計」へ
これまで相続対策というと、
相続税を減らすこと
が中心になりがちでした。
しかしオルカン相続の時代には、それだけでは不十分です。
重要なのは、
どの資産を、どの形で、どの世代へ引き継ぐか
です。
たとえば、預金だけを残すのか、投資信託を残すのか、不動産を残すのかによって、相続人の将来の資産形成は変わります。
つまり今後の相続は、
「税額を減らす対策」
だけでなく、
「家計資産を次世代へどう成長可能な形で引き継ぐか」
という設計に変わっていく可能性があります。
オルカン相続は日本株市場にも影響する
オルカン相続が広がると、日本株市場にも影響があります。
全世界株式型投信は、日本株だけでなく世界株へ分散投資します。
そのため相続マネーがすべて日本株へ向かうわけではありません。
むしろ、相続後の資金がオルカンや米国株へ向かえば、日本国内に滞留していた資金が海外市場へ流れる可能性もあります。
これは日本の資金循環にとって大きな変化です。
一方で、日本株が全世界株式指数の一部として選ばれることで、国際分散投資の中で日本株にも資金が入る面があります。
つまりオルカン相続は、
日本株だけを押し上げる話ではなく、日本の家計資産が世界市場と本格的につながる話
だと言えます。
結論
今後、日本では「オルカン相続」という現象が広がる可能性があります。
NISAや投資信託を通じて現役世代が積み立てた資産は、将来そのまま相続財産になります。
その結果、相続財産は、
預金・不動産中心
から、
投資信託・国際分散資産を含む形
へ変わっていく可能性があります。
これは単なる金融商品の変化ではありません。
日本円中心の資産承継から、世界資産を含む資産承継への変化です。
ただし、そこには、
価格変動、為替リスク、NISA相続の取扱い、相続人の金融リテラシー
といった新しい課題もあります。
これからの相続では、税金だけでなく、
資産の中身、通貨、地域分散、次世代の運用力
まで含めて考える時代になっていくのでしょう。
参考
金融庁「NISA関連資料」
日本証券業協会「個人投資家の証券投資に関する意識調査」
日本銀行「資金循環統計」
国税庁「相続税の申告のしかた」
日本経済新聞 各関連記事