給与所得控除はなぜ存在するのか ― 給与所得の課税構造

税理士
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所得税の計算では、給与所得者には「給与所得控除」という制度が設けられています。

給与所得者は、給与収入から給与所得控除を差し引いた金額を所得として計算します。
この控除は、いわば給与所得者の「必要経費」に相当するものと説明されることがあります。

しかし、給与所得者は事業者のように経費を計上することはできません。
それにもかかわらず、なぜ給与所得控除という制度が存在するのでしょうか。

本稿では、給与所得控除の制度の背景を考えてみます。


給与所得控除の仕組み

給与所得控除は、給与収入に応じて一定額が差し引かれる制度です。

給与所得者の所得は

給与収入
− 給与所得控除
= 給与所得

という形で計算されます。

例えば給与収入が一定額以下の場合には、最低55万円の控除が認められています。

この制度によって、給与所得者は実際の経費を計算しなくても一定額の控除を受けることができます。


必要経費との関係

事業所得の場合、売上から必要経費を差し引いて所得を計算します。

例えば

仕入
設備費
交通費
通信費

などが必要経費になります。

一方、給与所得者の場合は、実際の経費を計上することは認められていません。

しかし給与所得者にも

通勤費
仕事に必要な衣服
資格取得費

などの支出が存在します。

給与所得控除は、こうした支出を概算的に考慮した制度として設けられたとされています。


制度の歴史

給与所得控除の制度は、所得税制度の整備とともに発展してきました。

戦後、日本では給与所得者が急増しました。
高度経済成長期には、多くの人が企業に雇用されるようになりました。

その結果、給与所得者の税務処理を簡素化する必要が生じました。

もし給与所得者がすべての必要経費を個別に計算する仕組みであれば、税務手続は非常に複雑になります。

そこで、一定額を一律に控除する方式が採用されました。


制度の簡便性

給与所得控除の最大の特徴は、計算が簡単であることです。

給与収入に応じて控除額が自動的に決まるため、個別の経費計算を行う必要がありません。

この仕組みによって

給与計算
年末調整
税務処理

が非常に簡素化されています。

もし給与所得者がすべての経費を申告する仕組みであれば、税務行政の負担も大きくなります。

給与所得控除は、このような事務負担を軽減する役割も果たしています。


制度への議論

給与所得控除については、税制の公平性の観点から議論が行われることがあります。

例えば、自営業者は実際の経費を計上しますが、給与所得者は概算控除が適用されます。

この違いについては、制度の公平性をめぐる議論が続いています。

また、給与所得控除の金額についても、税制改正のたびに見直しが行われています。


現代の給与所得控除

現在の給与所得控除は、収入に応じて段階的に控除額が設定されています。

また、高所得者については控除額が制限されています。

こうした制度改正は、税負担の公平性を確保することを目的として行われています。

給与所得控除は、給与所得課税の重要な仕組みとして現在も維持されています。


結論

給与所得控除は、給与所得者の必要経費を概算的に考慮するとともに、税務手続を簡素化するために設けられた制度です。

給与所得者が増加した戦後の経済構造の中で、この制度は税務行政の効率化に大きく貢献してきました。

現在でも給与所得課税の基本的な仕組みとして機能しています。

給与所得控除の存在は、日本の所得税制度の特徴を示す制度の一つと言えるでしょう。


参考

税のしるべ 2026年3月2日
永田金司「源泉所得税の不思議 第9回」
国税庁 給与所得控除制度に関する資料

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