日本では毎年3月になると、国会で予算案の採決をめぐる攻防がニュースになります。政府や与党は「年度内成立」を強く求め、野党は審議時間の不足を理由に反対することがあります。
この背景には、日本の財政制度の基本的な仕組みがあります。国家の支出は予算に基づいて行われるため、予算が成立しなければ行政運営そのものに影響が及ぶ可能性があります。
この記事では、なぜ予算は年度内に成立させる必要があるのか、その理由を憲法と財政法の観点から整理します。
日本の会計年度の仕組み
日本の政府会計は、4月1日から翌年3月31日までを一つの年度とする仕組みになっています。これを会計年度といいます。
例えば、2026年度予算は
2026年4月1日から2027年3月31日までの国家支出を定めるものです。
政府は、この期間に必要な支出を事前に見積もり、国会の承認を得て予算として成立させます。
つまり、国家の支出は原則として
国会が議決した予算に基づいて行う
という仕組みになっています。
憲法に定められた財政民主主義
この仕組みは、日本国憲法に明確に定められています。
憲法第83条は次のように規定しています。
国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて行使しなければならない。
これは「財政民主主義」と呼ばれる原則です。
政府が自由にお金を使うのではなく、国民の代表である国会が支出を決めるという仕組みです。
この原則により、政府の財政活動は必ず国会の統制を受けることになります。
予算成立が遅れた場合の問題
もし予算が年度開始までに成立しなかった場合、政府は原則として新しい支出を行うことができません。
例えば次のような支出です。
・公務員の給与
・社会保障給付
・公共事業
・補助金や交付金
これらはすべて予算に基づいて支出されるため、予算が成立しなければ法的な根拠が弱くなります。
そのため、政府・与党は予算の年度内成立を非常に重視します。
暫定予算という例外措置
ただし、予算が年度内に成立しない場合に備え、日本には「暫定予算」という制度があります。
暫定予算とは、新年度の最初の一定期間に限って必要最低限の支出を認める予算です。
例えば、1か月分や2か月分の支出だけを認める形で予算を成立させます。
この制度により、行政運営が完全に止まることは避けられます。
ただし、暫定予算はあくまで例外措置であり、通常は本予算を年度内に成立させることが前提となっています。
衆議院の優越という制度
予算審議には、もう一つ重要な制度があります。それが衆議院の優越です。
憲法第60条では、予算について次のように定めています。
・予算は先に衆議院で審議する
・参議院が議決しない場合でも、30日経過すれば衆議院の議決が国会の議決となる
つまり、最終的な決定権は衆議院が持つ仕組みになっています。
この制度は、予算の成立を確実にするために設けられています。
年度内成立をめぐる政治判断
こうした制度を踏まえると、予算をめぐる与野党の対立は次のような構図になります。
与党は、年度内成立を最優先とします。行政運営に空白を生まないことが重要だからです。
一方、野党は審議時間の確保を重視します。国会の役割は政府をチェックすることにあるためです。
この二つの考え方がぶつかることで、予算審議はしばしば政治的対立の舞台となります。
結論
予算が年度内に成立することは、日本の財政制度において非常に重要な意味を持っています。
その理由は、憲法が定める財政民主主義の原則にあります。政府は国会の議決なしに財政を処理することができないため、予算は国家運営の前提条件となります。
一方で、国会の役割は政府を監視することでもあります。十分な審議を行うこともまた重要です。
予算審議をめぐる与野党の対立は、この二つの役割のバランスをめぐる政治過程だといえるでしょう。
参考
日本国憲法
財政法
日本経済新聞 2026年3月13日朝刊
