日本企業は長い間、資金を内部に蓄積する傾向が強いと指摘されてきました。いわゆる内部留保の増大です。バブル崩壊やリーマン・ショックの経験から、多くの企業が危機への備えとして現預金を積み上げてきました。
しかし最近、その流れに変化が見え始めています。日本経済新聞の報道によると、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループの3メガバンクの法人預金残高は、2025年3月から12月にかけて約4.5%減少しました。
企業が預金を取り崩し、投資や株主還元へ資金を振り向けている可能性が指摘されています。本稿では、この法人預金減少の背景と意味を整理し、日本企業の資金行動がどのように変化しているのかを考えます。
法人預金減少という現象
2025年12月時点で、3メガバンクの国内法人預金残高は約220兆円となりました。これは同年3月と比較して約4.5%減少しています。
銀行全体で見ても、法人預金の伸び率は低下しています。日銀の統計では、季節変動をならした12カ月後方移動平均で法人預金残高は前年同月比2.7%増にとどまりました。これは2013年以来の低い伸び率です。
一方で、日本企業の現預金残高そのものは依然として高水準です。法人企業統計によると、資本金10億円以上の企業が保有する現預金は2025年3月期に約82兆円となり、過去20年間で約2倍に増えています。
つまり、日本企業の資金は依然として潤沢であるものの、その使い方に変化が出てきた可能性があります。
設備投資の拡大
企業が預金を取り崩している背景の一つが設備投資の拡大です。
法人企業統計によると、2025年10〜12月期の設備投資額は前年同期比6.5%増の15兆3865億円となり、10〜12月期としては過去最高を記録しました。
インフレ環境では、資金を現金で保有しているだけでは価値が目減りします。そのため、企業は設備投資や研究開発に資金を振り向け、成長投資を進める動きが強まっています。
これは、長く続いたデフレ環境とは対照的な資金行動といえます。
株主還元の拡大
もう一つの大きな変化が株主還元の拡大です。
例えばセブン&アイ・ホールディングスは、2030年度までに最大約7.5兆円を創出し、そのうち約3.2兆円を成長投資に、約2.8兆円を自社株買いなどの株主還元に充てる計画を示しています。
近年、企業の資本効率を重視する動きが強まっています。東京証券取引所がPBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業に改善策の開示を求めたこともあり、企業は資本の有効活用を強く意識するようになりました。
この流れの中で、過剰な現預金を株主還元に回す企業が増えていると考えられます。
海外投資の拡大
企業の資金は海外にも向かっています。
財務省の統計によると、日本の対外直接投資の純投資額は2025年に約32兆円となり、前年比6.7%増加しました。
近年、日本企業は海外企業の買収や海外設備投資を積極的に進めています。たとえばソフトバンクグループは米半導体設計会社アンペア・コンピューティングを約1兆円で買収しました。
また、住友商事と三井住友フィナンシャルグループ系のリース会社は、米航空機リース会社を1兆円超で買収する計画です。
国内市場が縮小するなか、成長機会を海外に求める動きは今後も続く可能性があります。
資本効率を求める市場の視線
企業の資金行動の変化の背景には、市場の視線があります。
近年、投資家は企業の現預金の多さを必ずしも好意的には見ていません。過剰な現金は資本効率の低さを示す可能性があるためです。
金融庁はコーポレートガバナンス・コードの改訂を検討しており、企業が現預金などの経営資源をどのように活用しているのか、より明確な説明を求める方向です。
企業は「資金を持っているか」ではなく、「資金をどう使うか」を問われる時代になりつつあります。
法人資金の運用行動の変化
企業以外の法人でも資金運用の変化が見られます。
例えば学校法人やマンション管理組合などの法人は、預金から国債などの債券へ資金を移す動きを強めています。2026年1月まで24カ月連続で国債を買い越しています。
金利上昇局面では、預金よりも利回りの高い資産への資金シフトが起きやすくなります。
マンション管理組合などでも、修繕積立金を債券で運用する事例が出てきています。資金を単に預金で保有するのではなく、運用によって価値の目減りを防ぐという考え方が広がりつつあります。
銀行のビジネスモデルへの影響
法人預金の減少は銀行にも影響を与えています。
メガバンクは新たな預金獲得先として中小企業に目を向けています。三井住友銀行は法人向けサービス「Trunk」を開始し、決済機能などをまとめたサービスを提供しています。サービス開始から3年で30万口座、預金3兆円の獲得を目標としています。
みずほ銀行も中小企業向けの決済サービスを計画しており、口座開設の迅速化や低い振込手数料で顧客を取り込もうとしています。
銀行同士の法人預金獲得競争は今後さらに激しくなる可能性があります。
結論
日本企業は長い間、内部留保を積み上げることで経済危機に備えてきました。しかしインフレと金利上昇の環境では、資金を現金で保有するだけでは価値が目減りします。
その結果、企業は設備投資、株主還元、海外投資などへ資金を振り向けるようになり、法人預金は減少傾向を示し始めました。
さらに、資本効率を重視する市場の視線やコーポレートガバナンス改革も、企業に資金活用を促しています。
今後、日本企業の資金行動は「ためる経営」から「使う経営」へと徐々に変化していく可能性があります。この変化は、日本経済の成長力を左右する重要なポイントになるといえるでしょう。
参考
日本経済新聞
2026年3月12日朝刊
「3メガの法人預金4.5%減 企業、投資・株主還元に力」
財務省
国際収支統計
財務省
法人企業統計

