在職老齢年金はなぜ問題なのか――高齢者就業をめぐる制度の歪み

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少子高齢化が進む日本では、社会保障制度の持続可能性を高めるために「支え手」をどう増やすかが重要な課題となっています。近年は高齢者の就業率が上昇し、従来は支えられる側と考えられていた高齢者の一部が、社会を支える側として働くようになっています。

しかし、日本の年金制度には、高齢者の就業を抑制する可能性のある仕組みが存在します。それが「在職老齢年金」です。

在職老齢年金は、一定以上の賃金を得て働く高齢者の年金を減額する制度です。制度の趣旨は理解できるものの、労働供給を抑制する可能性があるとして、長年にわたり議論の対象となってきました。

本稿では、在職老齢年金の仕組みと、その問題点について整理します。


在職老齢年金とは何か

在職老齢年金とは、年金を受給しながら働く人の年金額を、賃金の水準に応じて調整する制度です。

具体的には、一定以上の賃金と年金を受け取る場合、年金の一部または全部が支給停止となります。つまり、

・働いて賃金を得る
・年金も受け取る

という状態になると、年金の一部が減額される仕組みです。

この制度は、高齢者の所得が過度に増えないよう調整するという考え方のもとで設けられています。また、年金制度の財政負担を抑える目的もあります。


働くと年金が減るという構造

在職老齢年金の最大の特徴は、

働くと年金が減る可能性がある

という点です。

例えば、賃金と年金の合計が一定額を超えると、その超過部分に応じて年金が減額されます。そのため、高齢者にとっては次のような状況が生まれます。

・働く時間を増やすと年金が減る
・収入を増やしても手取りがあまり増えない

このような仕組みは、いわゆる「就労の壁」として作用する可能性があります。働く能力や意欲があっても、制度が就業を抑制するインセンティブを生む場合があるからです。


労働供給への影響

経済学では、税や社会保険制度が労働供給に影響を与えることがよく知られています。働くことで所得が増える一方、税や保険料が増えたり、給付が減ったりする場合、働く意欲が低下する可能性があります。

在職老齢年金も同様の問題を抱えています。

働けば働くほど年金が減額される仕組みは、実質的に高齢者の労働所得に対する追加的な負担として作用します。その結果、

・労働時間を抑える
・賃金水準の低い働き方を選ぶ
・一定以上は働かない

といった行動を誘発する可能性があります。

実際、日本では60歳代後半でも働く人が増えていますが、それでも制度的な要因によって就業が抑制されている可能性が指摘されています。


高齢者就業の拡大余地

研究によれば、日本の高齢者の就業率にはまだ上昇余地があるとされています。

健康状態のみが制約であると仮定した場合、60歳代後半の就業率は現在よりも2〜3割程度高めることができるという試算もあります。

このことは、現実には健康以外の要因、すなわち制度や労働市場の仕組みが高齢者の就業を制約している可能性を示唆しています。

その代表例として挙げられるのが、在職老齢年金の仕組みです。


制度改革は進んでいるが課題は残る

在職老齢年金については、これまで何度か制度改革が行われてきました。

たとえば、支給停止の基準額の引き上げなどが行われ、以前より働きやすい制度に改められています。しかし、制度自体は依然として残っており、就業への影響を完全に解消したわけではありません。

高齢者の就業が社会保障制度を支える重要な要素になりつつある現在、この制度をどのように見直すかは重要な政策課題となっています。


社会保障制度との関係

在職老齢年金の議論は、単なる年金制度の問題ではありません。

社会保障制度全体の持続可能性とも深く関係しています。

高齢者が働けば、

・社会保険料収入が増える
・税収が増える
・給付への依存が減る

といった効果が期待できます。

つまり、高齢者の就業拡大は、社会保障制度の財政を支える重要な要素になる可能性があります。


結論

少子高齢化が進む日本では、社会保障制度を維持するために「支え手」を増やすことが重要な課題になっています。そのなかで、高齢者の就業拡大は大きな可能性を持つ政策分野です。

しかし、在職老齢年金のように、働くと年金が減る仕組みが残っている限り、制度が就業を抑制する側面は否定できません。

すべての高齢者が長時間働く必要はありませんが、健康で働く能力と意欲がある人が、制度によって働きにくくなる状況は合理的とは言えないでしょう。

高齢者の就業拡大を促す制度改革は、社会保障制度の持続可能性を高めるだけでなく、日本経済全体の供給力を高める可能性もあります。今後の社会保障改革において、重要な論点の一つであると言えるでしょう。


参考

日本経済新聞 2026年3月5日朝刊
経済教室 小塩隆士「衆院選後の高市政権の課題(下)社会保障の『支え手』増やせ」
厚生労働省 公的年金制度の概要
内閣府 中長期の経済財政に関する試算

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