国債は発行された瞬間だけでなく、その後の売買によって価格が形成され続けます。発行市場だけを見ていては、日本国債の全体像は理解できません。実際に市場参加者が日々向き合っているのは「流通市場」です。
日本国債の価格がどのように決まり、誰が市場を支えているのか。本稿では、証券会社が形成する店頭市場の仕組みと、そこで最も重要な概念である「流動性」について整理します。
発行市場と流通市場の違い
日本国債は、まず財務省が入札によって発行します。これが発行市場です。ここで国債を購入するのは主に証券会社や金融機関です。
しかし、投資家の多くはこの入札に直接参加しているわけではありません。実際の売買は、その後の流通市場で行われます。
つまり、
- 発行市場=国が資金を調達する場
- 流通市場=投資家同士が売買する場
という構造になっています。
この流通市場を実質的につくっているのが証券会社です。
なぜ国債は取引所で売買されないのか
株式は証券取引所で売買されます。一方で、国債などの債券は主に店頭市場(OTC市場)で取引されます。
この違いの理由は「満期」にあります。
株式には満期がありません。しかし債券には2年債、5年債、10年債、20年債など多様な年限があります。さらに、10年債は発行から1年経てば残存9年債になります。
つまり、時間の経過とともに無数の銘柄が存在することになります。すべてを取引所で管理するのは現実的ではありません。
そのため、債券市場では証券会社が在庫を持ち、個別に価格を提示する店頭市場が発達しました。
証券会社は「在庫」を持つ市場参加者
店頭市場を理解するには、証券会社の役割を押さえる必要があります。
証券会社は入札で取得した国債を在庫として保有し、「この価格なら買います」「この価格なら売ります」というプライスを提示します。投資家はその提示価格で売買を行います。
この仕組みは、小売業に例えると分かりやすい構造です。店舗が商品を在庫として持ち、価格を付けて販売するのと似ています。
ただし大きな違いがあります。
国債価格は日中でも変動します。金利が上昇すれば価格は下落し、金利が低下すれば価格は上昇します。証券会社は在庫を抱えているため、価格変動リスクを負っています。
したがって、流通市場は単なる仲介業務ではなく、リスクを伴う市場形成機能なのです。
店頭市場の強みと弱み
店頭市場には柔軟性という強みがあります。多様な銘柄に対応でき、機関投資家の大口取引にも適応できます。
一方で、弱みもあります。
それは価格の透明性です。取引が少ない銘柄では、適正価格が見えにくくなる可能性があります。取引が活発でなければ、提示価格が実勢を十分に反映していないケースも起こり得ます。
ここで重要になる概念が「流動性」です。
流動性とは何か
流動性とは、どれだけ活発に売買が行われているかを示す概念です。
流動性が高い市場では、
- 売りたいときにすぐ売れる
- 買いたいときにすぐ買える
- 価格差(スプレッド)が小さい
という特徴があります。
流動性が低い市場では、価格が不安定になりやすく、取引コストも高くなります。
国債市場において流動性は極めて重要です。国債は金融政策の基盤であり、銀行の資産運用の中核であり、年金資金の運用対象でもあります。価格が安定的に形成されなければ、金融システム全体に影響が及びます。
したがって、証券会社のマーケットメイク機能は、日本の金融インフラの一部を担っているといえます。
結論――国債市場は「見えないインフラ」である
日本国債の流通市場は、証券会社が在庫を持ち、価格を提示し、リスクを引き受けることで成立しています。
株式市場のように取引所の板が目に見えるわけではありませんが、その背後で日々価格が形成されています。そして、その価格形成を支えているのが流動性です。
国債市場の安定は、金融政策の円滑な実行や財政運営の信認にも直結します。流通市場は単なる中古市場ではなく、日本経済を支える「見えないインフラ」といえるでしょう。
国債を理解することは、金利を理解することにつながります。そして金利は、住宅ローン、企業投資、財政運営など、あらゆる経済活動の土台です。
流通市場の仕組みを押さえることは、日本経済の構造を読み解く第一歩となります。
参考
日本経済新聞朝刊「初歩から学ぶ日本国債(3) 証券会社がつくる流通市場」2026年3月3日
服部孝洋(東京大学特任准教授)「やさしい経済学」

