暗号資産を分離課税化した場合の税収インパクト試算――「税率の下げ」では終わらない論点整理

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暗号資産の課税を、現行の総合課税(雑所得)から、株式等に近い申告分離課税(約20%)へ移す議論は、実務的には「税率が下がるかどうか」だけで結論が出ません。税収インパクトは、税率差に加えて、申告ベース(課税ベース)がどれだけ動くかで決まるからです。

本稿では、公開統計だけで精密な税収推計を行うことが難しい点を踏まえつつ、意思決定に使える形で「感度分析(1,000億円あたりの増減)」と「損益分岐(どれだけ課税ベースが増えれば税収が維持できるか)」を示します。


前提整理:何が変わると「税収」が動くのか

税収は、ざっくり言えば次の式で決まります。

  • 税収=課税ベース(申告された純利益)×実効税率

ここで重要なのは、分離課税化は 税率(t)が下がる一方で、課税ベース(B)が増える可能性 を同時に持つ、という点です。課税ベースが増える要因には、少なくとも次があります。

  • 税率が下がり、申告インセンティブが上がる(申告漏れの縮小)
  • 国内取引所・国内口座に回帰し、捕捉可能性が上がる
  • 商品性が改善し、取引量・投資家層が変わる(ETF等の制度化も含む)
  • 逆に、損失繰越が導入されると、将来税収が後ろ倒し・減少する

現行では、暗号資産取引の所得は原則として雑所得(総合課税)と整理されていることが国税庁資料で示されています。
また、所得税は超過累進(5%~45%)で、復興特別所得税が上乗せされます。

一方、税制改正大綱ベースでは「特定暗号資産」を対象に、株式等に準じた申告分離課税(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税相当)に近づく設計が想定されています。


静学試算:課税ベース1,000億円あたりの税収差

ここではまず、行動変化を入れない「静学(そのまま置き換え)」で差を見ます。
分離課税の税率は 20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%相当)と置きます。

  • 分離課税(20.315%)
    課税ベース1,000億円 × 20.315% = 203.15億円
  • 現行(総合課税)の「平均実効税率」
    ここが最大の不確実点です。暗号資産の利益がどの所得階層に集中しているかで、平均実効税率は大きく変わります。そこで、平均実効税率を 30%/35%/40% の3ケースで置きます(住民税等込みのイメージ)。
    • 30%なら:1,000億円 × 30%= 300億円
    • 35%なら:1,000億円 × 35%= 350億円
    • 40%なら:1,000億円 × 40%= 400億円

**差(分離課税化による減収幅)**は次のとおりです。

  • 平均30%ケース:▲96.85億円
  • 平均35%ケース:▲146.85億円
  • 平均40%ケース:▲196.85億円

結論として、行動変化がゼロなら、平均実効税率が20.315%を上回る限り、静学では減収になります。


損益分岐:課税ベースが何%増えれば税収が維持できるか

次に「課税ベースが増える」効果

リンクを外して。

暗号資産を分離課税化した場合の税収インパクト試算

暗号資産の課税方法を、現行の総合課税(雑所得)から申告分離課税へ移行した場合、税収は増えるのでしょうか。それとも減るのでしょうか。

この論点は「投資家保護」や「市場育成」といった理念の問題だけではなく、財政への影響という現実的な問題と直結します。本稿では、一定の仮定を置きながら税収インパクトを整理します。


現行制度の構造

現在、暗号資産の売却益は原則として雑所得に区分され、総合課税の対象となります。最高税率帯では住民税を含め50%超の税率が適用されることもあります。

一方、株式譲渡益は申告分離課税で約20%の税率が適用され、損益通算や3年間の繰越控除が可能です。

この差が投資行動に影響を与えていることは否定できません。


単純減税シナリオの試算

まず、極めて単純化したモデルを想定します。

仮に暗号資産市場において年間1兆円の実現益が発生しているとします。そのうち、平均税率を35%と仮定すると、税収は3,500億円となります。

これを分離課税(20%)に変更した場合、税収は2,000億円となり、単純計算では1,500億円の減収となります。

この試算だけを見ると、分離課税化は財政的にマイナスのように見えます。

しかし、この前提には大きな問題があります。


行動変化を考慮した動学的試算

高税率環境では、投資家は次のような行動をとる可能性があります。

  1. 利益確定を先送りする
  2. 海外取引所に資金を移す
  3. 法人化して税率を下げる
  4. 実質的な損益通算ができないため市場参加を控える

つまり、名目上の課税ベースと実際の課税ベースには乖離が生じます。

仮に分離課税化により市場参加が拡大し、実現益が1兆円から1.8兆円に増加したとします。この場合、20%課税でも税収は3,600億円となり、現行制度を上回る可能性が出てきます。

重要なのは税率ではなく、「課税ベースの拡大」です。


損益通算による税収変動

分離課税化すると、株式等との損益通算が可能になる設計も想定されます。

価格変動が大きい暗号資産は、損失も同様に大きくなります。通算が可能となれば、株式譲渡益との相殺が進み、税収は短期的に減少する可能性があります。

特に市場下落局面では、税収が大きく変動するリスクがあります。

この点は財政当局にとって重要な検討事項です。


国際資本移動の影響

暗号資産市場は国境を越えやすい特性を持ちます。税率差が大きい場合、居住地変更や海外法人設立といった行動が現実化します。

仮に分離課税化により国内市場への回帰が進めば、税収の安定化につながる可能性もあります。

逆に、総合課税のまま高税率を維持する場合、形式的な税収水準は高く見えても、実質的な税基盤は縮小していく可能性があります。


ボラティリティと税収の安定性

暗号資産は価格変動が極めて大きいため、税収も景気循環以上に変動します。

分離課税化は税率を下げる代わりに、市場拡大による安定的な税基盤を目指す選択です。一方、総合課税は高税率を維持できる反面、取引量縮小や海外流出というリスクを抱えます。

どちらを選ぶかは、短期税収を重視するか、中長期的な市場育成を重視するかという政策判断になります。


金融所得課税一体化との整合性

金融所得課税一体化を進めるならば、暗号資産だけを例外扱いする合理性は弱まります。

制度を横断的に整理することで、税制の中立性は高まります。ただし、価格変動性の高い資産を一体化する場合、税収の変動幅も拡大します。

この点はマクロ財政運営とも接続します。


結論

暗号資産を分離課税化した場合、単純計算では減収に見えます。しかし、投資家行動の変化や市場拡大を考慮すれば、税収が必ずしも減少するとは限りません。

重要なのは「税率」ではなく「税基盤の設計」です。

暗号資産を制度の外側に置き続けるのか、それとも金融所得の一部として統合するのか。税収インパクトの議論は、税制哲学の選択そのものでもあります。


参考

日本経済新聞 朝刊 2026年2月27日
「ポジション〉米投資家、ビットコイン離れ」

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