住宅に関する税制は、一見すると支援策が充実しているように見えます。
取得時には住宅ローン控除、保有時には固定資産税の軽減措置、譲渡時には3,000万円特別控除など、各段階で制度が用意されています。
しかし、これらは一体的に設計されているわけではありません。取得、保有、譲渡という局面ごとに制度が切り分けられ、それぞれ独立して存在しています。
なぜ住宅税制はこのような「分断設計」になっているのでしょうか。本稿では、その構造を制度論の視点から整理します。
住宅税制は時間軸で分割されている
住宅に関する税制は、大きく次の三段階に分かれます。
1.取得段階
住宅ローン控除などの取得支援税制
2.保有段階
固定資産税・都市計画税の軽減
3.譲渡段階
3,000万円特別控除や軽減税率
それぞれの制度は目的が異なります。
取得段階は「住宅取得の促進」、
保有段階は「安定的な税収確保」、
譲渡段階は「住替えの円滑化」。
目的が異なるため、制度も分離して設計されています。
財政構造上の理由
住宅税制は、所得税・住民税・固定資産税など、異なる税目にまたがっています。
住宅ローン控除は国税中心、
固定資産税は地方税、
譲渡所得課税は国税。
財源や立法過程が異なるため、一体設計は制度上困難です。
つまり、「税目の分断」がそのまま「制度の分断」につながっています。
政策目的の違い
住宅ローン控除は景気対策色が強い制度です。
取得を後押しすることで住宅投資を促進し、内需を支える役割を担います。
一方、3,000万円特別控除は、資産の流動化促進を目的としています。
住替えを円滑にすることで住宅市場を活性化させる政策です。
取得支援と流動化促進は、必ずしも同時に最大化できる政策ではありません。
制度目的が異なる以上、横断的に最適化する設計にはなりにくいのです。
税制は“行為単位”で設計される
税制は原則として「ある行為」に課税します。
・取得という行為
・保有という状態
・譲渡という行為
行為単位で課税・控除を設計するため、人生単位では設計されていません。
住宅は人生設計の中心にありますが、税制は人生全体ではなく、その瞬間の行為に着目して設計されます。
この視点の違いが、分断感の正体です。
一体設計が難しい理由
もし取得から譲渡まで一体設計するとすれば、
・取得時に受けた控除を譲渡時に精算する
・長期保有者ほど優遇する
・短期売却者は取得優遇を返還する
といった設計も理論上は可能です。
しかし、制度は複雑化し、国民理解は難しくなります。
税制は「簡素」であることも重要な原則です。
その結果、局面ごとの分割設計が採用されやすいのです。
分断設計のメリットとデメリット
メリット
・制度が理解しやすい
・政策目的を明確にできる
・改正が部分的に可能
デメリット
・ライフプラン全体で見ると最適化されない
・取得優遇と譲渡優遇の整合が取れない
・短期的な政策変更が累積する
住宅税制は、政策の積み重ねの結果として形成されています。
なぜ“人生単位”では設計されないのか
税制は毎年度改正されます。
一方、住宅保有は数十年単位です。
政策は短期、人生は長期。
この時間軸の違いも、分断設計を生みます。
将来の売却時点の税制は、取得時点では未確定です。
したがって、一体設計は理論的に困難です。
制度横断で設計するという視点
分断設計であるからこそ、実務家の役割が生まれます。
取得・保有・譲渡を横断して、
・控除残存期間
・所有期間
・将来の住替え計画
・資産形成全体との関係
を一体で設計する必要があります。
制度は分断されていますが、家計は分断されていません。
結論
住宅税制が分断設計になっている理由は、
1.税目の違い
2.政策目的の違い
3.行為単位課税の原則
4.制度簡素化の要請
5.政策と人生の時間軸の違い
にあります。
制度は分断されていますが、生活は連続しています。
だからこそ、住宅税制は条文ごとに理解するだけでは足りません。
取得から譲渡までの時間軸を通して読み解くことが、真の設計思考につながります。
参考
・国税庁「住宅借入金等特別控除のあらまし」令和7年分
・国税庁「マイホームを売ったときの特例」令和7年版
・総務省「固定資産税の概要」令和版
