税制は「制度」と「運用」の両輪で成り立っています。
海外に住む親族を扶養している場合の扶養控除を巡り、政府が実態調査に乗り出す方針を示しました。制度の悪用が指摘されてきた経緯もあり、2027年度税制改正も視野に議論が進む可能性があります。
本稿では、海外居住親族に関する扶養控除の制度的経緯、問題の所在、今後の改正の方向性について整理します。
海外居住親族の扶養控除とは何か
扶養控除は、16歳以上の親族を扶養している納税者の所得税・住民税を軽減する制度です。国内に居住する親族だけでなく、海外に住む親族も一定の要件を満たせば対象となります。
グローバル化が進み、母国に家族を残して日本で働くケースも珍しくありません。そのため、制度上は海外居住親族も扶養の対象とされてきました。
しかし、国外にいる親族の扶養実態を日本の税務当局が正確に把握することは容易ではありません。ここに制度上の弱点があります。
過去に指摘された問題点
過去の調査では、扶養親族の人数が不自然に多いケースが確認されました。
海外扶養を含む申告では、国内のみの場合よりも平均扶養人数が大幅に多いという結果も公表されています。
実際に、多数の海外親族を扶養しているとして申告し、所得税額がゼロとなり、多額の還付を受けていた事例も報じられました。
こうした事例は、制度全体への信頼を損ないます。
税制は自己申告を前提とする以上、「誠実な納税者」と「制度を悪用する者」をどう峻別するかが常に課題となります。
これまでの制度厳格化の流れ
政府・与党は段階的に制度の厳格化を進めてきました。
- 外国政府発行の親族関係証明書の提出義務化
- 送金実績を示す書類の提出義務化
- 30歳以上69歳以下の海外居住親族を原則対象外(留学等を除く)
特に2023年改正では、働き盛り世代の海外親族を原則対象外とすることで、形式的な扶養申告を抑制する設計となりました。
今回の実態調査は、この厳格化措置がどの程度効果を上げているのかを検証する意味合いがあります。
制度設計上の論点
今後の改正を考える上で、論点は大きく三つあります。
① 実態把握の限界
国外の扶養実態を日本の税務当局がどこまで確認できるのか。
送金額の有無だけで扶養の実態を判断できるのかという問題があります。
② 真に扶養しているケースへの配慮
制度の厳格化は、不正対策としては合理的です。しかし、真に母国の家族を支えている納税者にとっては、過度な負担とならないよう配慮が必要です。
③ 国際的な人材政策との整合性
日本は高度外国人材の受け入れを進めています。
税制が過度に厳格化されれば、日本で働くインセンティブにも影響を与えかねません。
税制は単独で存在するものではなく、労働政策や移民政策とも連動しています。
今後想定される改正の方向性
2027年度改正を見据えると、以下のような選択肢が考えられます。
・送金額の最低基準の引き上げ
・扶養人数に一定の上限を設ける
・追加的な証明書類の厳格化
・制度のさらなる限定化
ただし、あまりに画一的な規制は、実態に即さない可能性もあります。
税制は公平性と実務可能性のバランスの上に成立しています。
税制の信頼性という観点
扶養控除の問題は、単なる「一制度の見直し」にとどまりません。
税制は国民の信頼の上に成り立っています。
一部の不正が放置されれば、真面目に納税している人の納得感が損なわれます。
一方で、過度な規制は、制度の利用者全体に不必要な負担をかける可能性もあります。
今回の実態調査は、そのバランスを再点検する機会といえます。
結論
海外居住親族の扶養控除を巡る問題は、
「国際化社会における税制の限界」を象徴するテーマです。
制度を悪用する事例への対処は不可欠です。
しかし同時に、真に家族を支えている納税者の実態にも目を向ける必要があります。
2027年度改正に向けた議論は、単なる締め付けではなく、制度の透明性と公平性を高める方向で進むことが望まれます。
税制の持続可能性は、制度の精緻さだけでなく、納税者の納得感によって支えられています。
参考
・日本経済新聞 2026年2月26日朝刊「海外居住親族の扶養控除水増し、年内にも実態調査」
・会計検査院公表資料(扶養控除に関する調査報告)
・令和5年度税制改正大綱(海外居住親族の扶養控除見直し関連)
