金利が上昇局面に入るなかで、銀行が住宅ローン戦略を再び強化しています。
かつては金利競争による採算悪化から慎重姿勢を示す金融機関もありましたが、ここにきて改めて住宅ローンを重要戦略と位置づける動きが目立っています。
住宅ローンは単なる融資商品ではありません。銀行にとっては「預金」「給与振込」「決済」「資産運用」へと広がる入口であり、家計にとっては人生最大規模の金融契約です。
本稿では、銀行が住宅ローンを強化する背景と、その意味を整理します。
住宅ローンが再び強化される背景
2026年2月の報道によれば、りそな銀行は住宅ローンの借入上限を1億円から3億円へ引き上げ、共働き世帯向けのペアローン商品を拡充しました。また、団体信用生命保険の保障内容も強化しています。
広島銀行は住宅ローンから資産運用までワンストップで相談できる拠点を増設し、対面相談を通じた顧客開拓を進めています。
この動きの背景には、住宅ローンが「長期・安定的な顧客関係」を構築できる商品であるという特徴があります。
住宅ローンを利用する顧客は、通常、返済口座をその銀行に設定します。結果として、
- 給与振込口座の設定
- 公共料金やクレジット決済の紐づけ
- 投資信託やNISA口座の開設
- 保険や資産運用相談
といった複合取引へ発展する可能性が高くなります。
銀行にとって住宅ローンは「融資商品」であると同時に、「預金獲得装置」でもあるのです。
金利上昇局面でも需要は底堅い
日本銀行の利上げにより、住宅ローン金利は上昇局面にあります。それにもかかわらず、住宅ローン残高は増加を続けています。
その理由の一つが住宅価格の上昇です。
物件価格が上昇すれば、1件あたりの借入額も増えます。その結果、貸出残高は伸びやすくなります。
また、日本銀行の調査では住宅ローン需要DIがマイナス圏を脱し、資金需要の底堅さが示されています。
住宅取得はライフイベントであり、「金利が少し上がったから延期する」という単純な判断になりにくい側面があります。特に共働き世帯では、ペアローンを活用して高額物件を購入するケースが増えています。
銀行側も、変動金利の引き上げ幅を限定的に抑えるなど競争姿勢を維持しています。
銀行にとっての収益構造
住宅ローンは、事業性融資に比べると貸し倒れリスクが低い商品です。延滞率も大手行・地銀ともに低水準で推移しています。
ただし、利幅そのものは大きくありません。
2000年代以降の金利競争の激化で、住宅ローン単体の収益性は低下しました。
そのため現在の戦略は、「ローン単体で稼ぐ」から「総合取引で収益を確保する」方向へとシフトしています。
住宅ローン
→ 給与振込
→ 決済取引
→ 投資信託・NISA
→ 保険
→ 相続相談
といった長期的な関係構築を前提としたモデルです。
これは銀行経営の安定性という観点から見ると合理的な戦略といえます。
家計側が注意すべきポイント
銀行の競争が激化すると、利用者にとっては魅力的な条件が提示されることもあります。
しかし、以下の点は冷静に検討する必要があります。
1. 借入上限の拡大は「借りられる額」であって「借りてよい額」ではない
借入上限が3億円に拡大したとしても、返済可能額とは別問題です。
特にペアローンは、将来の収入変動リスクを織り込む必要があります。
2. 変動金利リスク
現在は変動型が主流です。金利上昇局面では、返済額増加の可能性があります。
3. 団信の内容
保障が充実する一方で、金利上乗せ型の商品もあります。保障とコストのバランスを確認することが重要です。
住宅ローンは「人生設計」の中で考える
住宅ローンは、単独で判断する商品ではありません。
- 教育資金
- 老後資金
- 退職金制度
- iDeCoや企業型DC
- NISA活用
といった長期資金計画とセットで考える必要があります。
銀行が住宅ローンを「入り口」と位置づけるのであれば、家計側も住宅ローンを「人生設計の一部」として位置づける視点が求められます。
金融機関の戦略が高度化するなかで、利用者もまた金融リテラシーを高めることが重要です。
結論
銀行は再び住宅ローンを強化しています。
その背景には、預金や決済、資産運用へと広がる長期顧客戦略があります。
金利上昇局面でも需要は底堅く、住宅ローンは依然として個人向け金融の中核商品です。
ただし、借入可能額の拡大や商品多様化の裏側には、銀行の経営戦略があります。利用者はその構造を理解したうえで、自身のライフプランに照らして判断することが重要です。
住宅ローンは「家を買うための資金」ではなく、「人生全体の資金設計の一部」です。
その視点を持つことが、これからの時代にはますます重要になります。
参考
日本経済新聞「銀行、住宅ローン再び攻勢」2026年2月25日朝刊
日本銀行「主要銀行貸出動向アンケート調査」
日本銀行「貸出・預金動向」統計資料

